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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2021年3月の記事一覧

自然と人工の光:写真の部屋

スタジオでライティングをして撮ることが必要な仕事があれば、自然光の表現を求められることもある。自分が得意な撮り方があるにしても、完全な芸術家としての写真家でない限りは頼まれたことができなくてはいけない。 スタジオは「存在しない空間」だから、何をしてもいい。何もない場所に一から環境を作り出すわけで、その空間の善し悪しはカメラマンが決めることになる。技術的に複雑ないくつもの条件をクリアして、そこから初めて表現というエリアに入って行く。 自然光では光を切ったりいい角度を見つけた

謙虚に学ぶ:写真の部屋

「技術が足りないよ」と指摘されたとき、素直に話を聞いて弱点を克服するのは恥ずかしいことではない。「これは狙いですから」「技術だけがすべてじゃない」などと邪魔なプライドで言い訳をする人は進歩しない。 技術の足りなさを屁理屈で誤魔化すことを憶えない方がいい。いつの間にかその嘘を自分で信じ込むようになるから。これはどんなことを学ぶときでも同じで、「基本が大事」のような精神論を言っているのではない。合理的に進歩するために信号をいくつ曲がって、どの橋を渡るのかがわからなければ目的地に

人が写る:写真の部屋

何をしているかを写し込む写真は、結果的にジャーナリスティックな表現になるけど、説明過多にならないようにするのが難しい。 その場がどこかなどの文字情報やアイコンを画面に入れたくなる欲求を抑えて、いかに状況を表現できるかを試してみるといい。 別に、撮影をするためにそこにいたわけではないのに、「普段着が泣くほどおしゃれな人」というのがいる。そういう人は問答無用に撮ってしまう。写っている人の上質さがあれば、写真は3割増しの品質に見える。 ポートレートの8割は「そこに写っている人

トレテルとウツッテル:写真の部屋(無料記事)

小学生の修学旅行のとき、親戚のカメラを借りていって初めて写真を撮った。今の子がスマホを使って写真を撮る環境とは大違いで、帰ってから現像してみると撮りまくった写真はほぼ何も写っていなくて、ボケボケのブレブレの真っ暗な写真ばかりだった。 その印象は今でもとても大きなトラウマになって残っている。デジカメを使うようになっても「写っていないんじゃないか」と感じることがあるのは、ここから始まっていると思う。ロケでデータをアホみたいに何重にもバックアップするのもトラウマのせいだ。よく「フ

61点へ:写真の部屋

自分が撮った写真はいつも理想の60点くらいに思っているけど、あと3年も死ぬ気で頑張れば「61点」くらいにはなれるかなあ。一日に20回くらい、写真がうまくなりたいと思っている。

3月12日:Anizine / 写真の部屋

3月11日はデリケートな日だ。 「せめてこの日だけはくだらない文章も読みたくないし、自分でも書きたくない」とTwitterに書いたことに、一日おいてから作家の伊岡瞬さんが同感ですとリプライをくれた。伊岡さんは、繊細さをデリカシーで煮詰めたように思慮深い人だというのをあらためて思い出した。 大きな悲劇があった日を毎年の祥月命日のように思い出すことは人の気持ちとして当然なんだけど、最低限そこには「自分との関わり」が必要だと思っている。前日の3月10日は東京大空襲の日ということ

個人的な撮影:写真の部屋(無料記事)

「宣材や個人的な写真を撮りたい」という依頼が6人分あったので、来週まとめてスタジオ撮影をすることにした。 芸人でも、モデルでも、職人でも、写真に履歴書がついてるわけじゃないから、そこに写っている姿ですべてが決まる。撮るときは全員同じなんだ。 「俳優は素人のように、素人は俳優のように」 ワタナベアニ 定期購読マガジン「写真の部屋」https://note.com/aniwatanabe/m/mafe39aeac0ea

見られながら撮る:写真の部屋

昨夜は友人と食事をした。そこには初対面の人たちがいてそれぞれに個性的だったので、全員の写真を撮らせてもらった。 写真には、撮る、撮られる、の他に「他人が撮られている様子を見る」というのがある。仕事の場合はクライアント、タレントのマネージャー、スタイリストもヘアメイクも見ている。見る目が厳しい大勢の人の前で撮るというのはとても大事なことで、これを体験しているかどうかの差は大きい。 数十人から多いときには100人くらいがいるスタジオで、全員がモニタを見つめている。そこに映し出

Aさんの報酬:写真の部屋

俺よりずっと優秀な写真家もここを読んでくれているのは知っていますが、その恥ずかしさに打ち勝ちながら、カチカチとキーボードを打っています。今日は生々しいお話です。 先日、写真家の幡野さんが面白いことを書いていました。ひとつの紹介記事を書くことで「高校生の一ヶ月のバイト代くらいをもらう」という話。ここを読んでいる人の多くは写真を撮るのが好きで、あわよくば仕事にしようとしている人も少なくないでしょう。 でも写真の仕事に限らず専門職の実態って、圧倒的に表に出ている情報が少ないんで