マガジンのカバー画像

Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
¥500 / 月
運営しているクリエイター

#日記

メインランドから:Anizine

よくないタクシーはまず止めたときからわかるのだが、利き手を挙げたこちらを発見し、車線を変更したりして停車するまでの所作が乱暴な人は一事が万事、である。やや通り過ぎて「乗るならここまで歩いてきて」感が漂ったりする。まあそこでいらつきもしないんだけど、その手の人は行き先を告げても返事がなかったり、運転が乱暴だったりする。急発進と急加速、特にイヤなのが、止まりそうになったと思った瞬間に加速するやつ。心構えができていないからつらい。5分の乗車でもゲボが出そうになるので、吐き気と戦う。

お年玉の続編:Anizine(無料記事)

先日、仕事場の近所のコンビニ店員の話を書いた。ネパールから来ている若い男性で買い物に行くといつも挨拶し、客がいない深夜などにはちょっとした話をする。日本の風習を知ってもらうために店でお年玉袋を買ってその場でお金を詰め、彼に渡した。当たり前のことだけど、誰かに何かを渡すときに「してあげた」と主張する野暮なことだけは絶対に避ける、という江戸前の作法は守りたい。だから「お年玉だよ」とだけ言って渡した後にはさっさと帰った。 しかし待てよ、と思うことがあった。これもさらにデリケートな

行けません:Anizine

この前「あなたは美味しそうなモノばかり食べてるね」と友人に言われたが、その人は美味しそうな手作りの料理をいつも作っているから、「そっちの方がいいよ」と返事をした。そのときは、外食と家庭料理には違う種類の素晴らしさがあるよね、という結論に落ち着いた。 残念に感じるのは「レストランのシェフは家庭料理を下に見ている」というような根拠のない中傷を見かけたときだ。仕事でモノを提供する人には別のジャンルの責任が存在するだけで、決して家庭で作る料理を下になど見ていない。あるとすれば「自分

大阪へ:Anizine

「ミラノよりも行った回数が少ない街・大阪」という自分の中のキャッチフレーズがある。大阪にはどうも縁がないのだ。仕事で行く機会がないというのが一番の理由で、大阪にはキッチリ制作の機能があるから、東京から我々が行く必要がない。北海道や沖縄のように美しい風景を探してロケに行くこともない、というわけで、ほぼ行く機会がないのだ。 なぜか京都には理由もなく行く。理由がなくても行く場所はあるんじゃねえかと怒られそうだけど、こればかりは仕方がないのでゆるして欲しい。 大阪の人は声がデカい

ロバートが名刺:Anizine(無料記事)

『ロバート・ツルッパゲとの対話』を書いてから、知らない人との接点が増えた。発売の数ヶ月前からAmazonの予約を受け付けたことで助走期間を長くとれたし、アホみたいにインパクトのある表紙をソーシャルメディアに投下し続けたことで、「なんかもう読んだ気がする」「流行っているような印象」と言われたこともある。ある初対面の人に本を渡したとき、「ああ、これ皆がシェアしているから知ってるよ」とも言われた。 広告の仕事にたずさわってきたのに、「自分が出した本という商品が売れない」ようなこと

ボンヤリする会:Anizine(無料記事)

「人が集まっても有意義な話をしない」という趣旨で始めたボンヤリする会。数人でただただ雑談をするだけの集いだ。まあよく考えてみれば友だちと集まってもあまり意義のある話なんかしてないわけで、あえて言う必要はないんだけど、そこは徹底して無意味さを強調して。 最初は目黒の雅叙園に泊まって修学旅行みたいに枕を並べて朝まで話した。次は西麻布のマンションの一室、大崎のイベントスペース、恵比寿のガレット屋さんなど場所を変えて何度か開催した。最近は状況も状況なので表立って募集することもなく、

次のツルッパゲ:Anizine(無料記事)

編集の吉満さんから、「ロバートの続編を出しましょう」と言われた。俺は謙虚村の出身なので、すべてのことを疑ってかかる。それは社交辞令ではないのか、お世辞ではないのか、ナメられているのではないか、イジられているのではないかと、このときだけはスーパーコンピュータ並みの速度で計算をする。しかし、吉満さんも遊びで出版をやっているわけではない。編集者が「本を出しましょう」という話を冗談で言うことだけはあり得ないのだ。 「わかりました。書きましょう」と答えると、それは『ロバート・ツルッパ

イタリアに行ったつもり:Anizine

どこにも行けないので、昔のHDDばかり見ている。イタリアに行ったときの写真を並べて我慢しよう。 この時は、機内でたこ焼きが出ました。これからイタリアの小麦粉と対決するので、最後の「和風粉モノ」で勢いをつけます。 途中で小さい飛行機に乗り換える。歩いて行って乗るのもまた楽しい。 街に着きました。変な建物は取りあえず何でも撮ります。 クルマも撮ります。 カップルがやってきて、知らない人からも祝福されます。 ホテルの部屋。コーヒーなどが置いてある棚に豊富なnutella

ポールシンガ:Anizine(無料記事)

数年前、知人である俳優の芝居を観た。文句なしに素晴らしい舞台だったからもう一度それを体験したかったんだけど、その日が千秋楽だったので、もう観られないのかと残念に思った。 「この次はシンガポール公演なの」 俺は耳が大きいんだけどその言葉を小耳に挟んだ。なるほど海外公演か。というわけで本人には伝えずに、業界用語で言えば、れしっとポールシンガに向かった。遊びに行く理由なんてほんの微かな手がかりさえあればそれでいいのだ。 現地で「ドリアン」と呼ばれている立派な劇場でヒデキ観劇後

偽善とパンク:Anizine(無料記事)

いつも「何かをするときの心構え」を偉そうに書いているが、もしも若い頃の俺が読んだら「クソ偽善者か」と思うだろう。 パンクという音楽に代表されるように、若い頃は自分が知っている幼稚な世界の解釈で正当性を叫びたがる。でも大人になっていくにつれ、それは「生活というゲームのルール」を知らなかったゆえの浅はかさだったと気づく。なぜ世の中がそうなっているのかを知らないから反抗というポーズをとることができただけなのだ。親がどれほど自分を後回しにして子供のことを考えているかを知らないから、

カードを切る日:Anizine(無料記事)

33歳の時に10年勤めた広告プロダクションを辞め、CMディレクターのサノ☆と一緒に渋谷に事務所を作った。俺はその頃CMやテレビ番組の仕事をしていたんだけど、演出という職種はほとんど事務所のデスクでの作業がない。コンテなんてカフェでも家でも描けるし、打ち合わせは広告代理店かプロダクション、撮影や編集でほとんど外にいる。だから事務所はただ皆が集まる遊び場だった。 サノ☆との音楽性の違いで離脱した後、線路を挟んだ明治通り沿いに新しい事務所をCMディレクターの平林監督とふたりで作っ

最悪な話:Anizine

最初にお伝えしまくっておきますが、心臓の弱い方やグロテスクな話題が苦手な人は絶対にここから先を読んではいけません。 もう一度言いますが、心臓の弱い方やグロテスクな話題が苦手な人はここから先を読んではなりません。ネットニュースの「先を読ませたいからそう書く方式」ではありません。 全身の毛穴が全開になる体験をした話を書くのですが、メンバー限定にし、さらにこうして皆さんの注意を喚起するために前置きを長くしています。たまたま開いたら最悪なものを読んでしまった、という危険を回避する

牧場で働く:Anizine

ソーシャルメディアは現実の世界とまったく同じだから、あえて愚痴ばかり言う人や、自分は正しくてお前は間違っているとか、俺たちの時代はもっと大変だったなんてことばかり言っている人を、わざわざ食事に誘いたいとは思わない。そういう人は疎まれていることをリカバーしようと、より自分は偉いと主張し始めることでさらに人が離れていく。負のスパイラルだ。 自分がやっていることは自分のサイズでしかない。それは俺たちのような50代ではもうはっきりと決まっている。このサイズの牧場で、飼える数の牛を飼

他人の家を覗く:Anizine

インターネット以前の「パソコン通信」に飛びついたアーリーアダプターの多くが、無線の人たちだった。アマチュア無線、CB無線と言われるものは「遠くにいる誰かと繋がれる」というテクニカルな興味が第一にあって、会話の内容にはそれほど重きが置かれていなかった印象がある。 それは電話が発明された時と似ていて、遠くの人と会話ができることを試すだけで十分驚くことができた。ただ、そこにはマニアしかいなかったから、閉じた空間だったことは言うまでもない。 インターネットでソーシャルメディアが普