
アニソンDJイベント関係者なら知っていて損はない、実は"爆安"なJASRACの音楽著作権使用料の計算方法と支払い方
先日こういうツイートをしたら思いのほか反響がありました。意外とみんな興味があるのだなと驚くと共に、情報源としてはちょっと不親切だったので改めてまとめておくことにしました。
最近、音楽著作権使用料の包括処理方法をよく聞かれるので(いいぞ、野外アニクラもっと増えろ!)
— 杉本真之(ちへ) (@sgmtmsyk) May 30, 2019
ここで試算できます。
参加費 2000円
キャパ 100人
総時間 360分(6h)
総曲数 240分(1曲90秒)
一般的なアニクラなら5400円と驚きの安さ!セトリ提出で確実に分配されます。https://t.co/9eCpNuH4ve pic.twitter.com/8oWs0jxL8L
総インプレッションが約4万回、エンゲージメント約3千回に対して、リンクのクリックが171回と寂しい感じなので、この機会にもうちょっと広まったらいいなと思っています。
JASRACは悪の組織"カスラック"なのか?
ノウハウの前に、そもそもこのツイートに至った経緯をまず簡単に紹介させてください。
私は2010年に野外DJイベント『Re:animation』を立ち上げ、その後もオーガナイザーとして関わっています。最近は、野外"アニクラ"と呼ばれる屋外イベントが増えたこともあって、音楽著作権の処理方法についてよく相談を受けるようになりました。
というのも、クラブやライブハウスは日本音楽著作権協会(JASRAC)と包括的利用許諾契約を結んでおり、会場の借り手はその傘の下でイベントをやらせて貰うことが多いのであまり意識しないのですが、屋外ではDJがプレイする楽曲の著作権使用料について自分で手続きを行う必要があり、その方法も金額も最初は分からない人が多いです(私も最初はそうでした)。
ちなみに、どこかのお店を使う場合でもそういった包括契約をしていない場合や用途が異なる場合があるので、念のため確認した方がより確実です。
ところで、実態はともかく少なくとも私のTwitterのタイムラインではJASRACの評判は、残念なことにすこぶる悪いです。JASRACが新たな著作権使用料の徴収を行うと発表すれば炎上し、著作権使用料未納者との訴訟がニュースになれば炎上し、Twitterだけ見ていると詐欺師かゴロツキのような印象さえ受けます。
しかしながら、音楽家・作詞家の方に然るべき手数料を支払おうとした場合、これほど有益な団体は今のところ他に存在しません。多くの組織や仕組みがそうであるように万能ではないし、私もJASRACのやり方で100%ハッピーに収まるとも思っていませんが、少なくとも、著作権使用料をちゃんと払おうとする限りにおいては超便利なので使わない手はありません。
※何が万能ではないか、感じる所をnoteの最後で少しだけ触れますので、ご興味あればお読みください。
著作権使用料を処理する3つの方法
1.黙って踏み倒す
しょっぱなから「はぁ?!」という感じですみません。もちろん、良いことではないですし、最悪の場合は権利者からの申し立てにより、訴訟や損害賠償などに発展する場合もあります。でも、残念ながら結構な割合でそうなってしまっているのが現実だということは…まあ、読み進めてみて下さい。
2.権利者と直接交渉する
これが一番ストレートな方法です。但し、非常に手間がかかります。その楽曲の権利者が誰(またはどの企業)なのかを突き止めることがすごく大変で、特にDJのように大量の楽曲を使用する場合、100%完璧を期すのはほぼ不可能です。(試しに、直近のプレイリスト全曲の作詞・作曲・編曲者の問い合わせ窓口を全部探そうとしてみて下さい)
ちなみに、JASRACは楽曲の権利者と著作権信託契約を結び、契約期間中は権利者からJASRACに楽曲の権利が移転している為、信託された楽曲・範囲に関しては権利者=JASRACになります。
3.JASRACやNexToneを介して処理してもらう
JASRACが有名なのですが、日本にはもう1つNexTone(以前はイーライセンスと言いました)という著作権管理を行う団体があります。ここには色んな権利者が自身の作品を信託、委託しており、それぞれの団体が定める方法に従って処理することで簡単に、作者に使用料を支払うことができます。
窓口が1つ(2つ)なので2.権利者と直接交渉するに比べると非常にハードルが低いです。また、費用や時間などのコストも多くの場合は直接交渉するより安くすみます。
では、どのくらい簡単で安いか、実際にJASRACのウェブサイトを使って紹介します。(話がややこしくなるのでこの記事ではNexToneのことはいったん忘れます)
使用料計算シミュレーション
まず使うページはこちらです。便利すぎるのでブックマーク推奨です。
DJイベントの場合は、1.演奏会など→2.包括的利用許諾契約を結んでいない方と進みます(Twitterは1.包括的利用許諾契約を結んでいる方の金額です)。するとこの画面になります。
後は、各項目に情報を入力して「使用料を計算する」をクリックするだけです。実際に一般的なアニクラの場合を想定して入力してみましょう。
ご利用方法:(1)コンサート、各種楽器演奏会、マーチングバンド
開催予定日: ※著作権使用料の計算には影響しません
税抜入場料:2000円
会場定員数:100人
利用楽曲数:240曲
公演時間数:360分
最初の選択肢が分かりづらいですね。私は最初分からなくて電話で問い合わせしました(とても丁寧に説明してくれました)。DJは一応は演奏と見做されるとのことで、クラブイベントもコンサートで申請しており、今までそれで特に指摘は受けていません。
公演時間は一番長くやったとして6時間、楽曲数は1曲をワンコーラス=90秒でプレイして、40曲/h×6時間=240曲としています。
で、気になるお値段は?!
8,640円!!
安---------い!!!!
240曲も使って8600円ということは、1曲35円くらいです。流石にこれも支払わないのは作者さんに失礼な気になります。
でも、支払い方が複雑だとやっぱり面倒くさいですよね。お次は申告と支払の手続きについてご説明します。
必要書類は演奏利用申込書と演奏利用明細書の2種類
申告方法
先ほどのシミュレーション画面の下に「申込書のダウンロード」というリンクが2つあります。申告はこの2つで完結します。
こちらが「演奏利用申込書」で、イベント開催前に提出します。
こちらが「演奏利用明細書」。イベント終了後に使用した楽曲を一覧で提出します。こっちの書類はなかなか前時代的でアレなのですが、一応これも電話で問い合わせをした結果、左上の黒枠内のみ記入、下段の一覧には「別添資料」とし、同項目記載の別紙をエクセルで作成して送付してOKとのこと。
昔はDJが使用したプレイリストを提出してもらうのに非常に苦労したのですが、最近はPCDJやrekordboxが一般化したおかげで楽ちんになりました。
後、これは褒められたことではないかもしれないですが、JASRACの管理楽曲かどうか調べきれないので、私は使用した楽曲は全て載せて申告してます。
支払い方法
2つ目の書類を提出したら、2週間~1か月くらいで支払い用紙が郵送されてきます。後はそれをもってコンビニや銀行に行くだけ。
その際、「演奏利用明細書」のコピーが同封されており上記画像の右側(JASRAC記入部分)に相当する情報が追記されています。その際に、JASRACの管理楽曲に該当するかしないかもチェックされているので、上記のように全部送ってしまっています。たぶん、本当は自分で調べるのが筋だと思うんですが…(職員さんごめんなさい)
ということで、めっちゃ簡単です!!
その著作権使用料は本当に作者に支払われるのか?
特に気になるのがここだと思います。そういえば、ちょうど先日こんなニュースがありましたね。
一方でこんなニュースもありました。Twitterなどを中心にJASRACが"カスラック"で、闇が深いなどと言われがちな理由の1つかもしれません。
最初にJASRACは超便利ですよ!と申し上げましたが、しほりさんのおっしゃる通り、使う側にとってはすごく便利なんですが、配分方法は色々と課題があると思います。
とはいえ、現状、JASRACが無かった場合、使う側は3つの処理方法のうちの1つ目、つまり黙って踏み倒すしかないのも現実なので、この仕組みを上手く使いながら声を上げて改善していくほか無いと思います。
支払われ方についてもJASRACのホームページで説明されており、特にDJイベントに係わるところだと2種類の方法があります。つまり、お店側の包括的利用許諾契約を使用するか、このnoteで説明した方法を使用するかです。
これは私の個人的な意見ですが、JASRACは悪魔の詐欺組織"カスラック"で徴収した著作権使用料を作者にいい加減に分配して不当に私腹を肥やしていると思っている正義漢である貴方ほど、お店に頼らずにご自身で申告されることをお勧めします。以下、理由をご説明します。
包括契約を締結する場合の使用料の分配
出典:https://www.jasrac.or.jp/bunpai/restaurant/detail1.html
包括契約を使う場合、分配資料として「サンプリング調査」と「曲目報告」の2種類があります。ライブなどは事前にセトリをお店に提出することが多いので、おそらくそれらが根拠資料になるのかなと思います。
一方、DJイベントのオーガナイザーや出演DJがお店にその日のプレイリストを提出することって…あまりないですよね。つまり、DJがプレイした曲は「サンプリング調査」と「曲目報告」には載らないんです。
では、どうなっているかというと、包括契約の形式上は問題ないけれど、そのイベント単体でみると「1.黙って踏み倒す」を間接的に選択しているということです。
演奏曲目報告に基づき関係権利者に分配
出典:https://www.jasrac.or.jp/bunpai/concert/index.html
もう1つがこちらです。
演奏会でJASRAC管理楽曲をご利用になる場合、原則としてその演奏会を主催する方に利用許諾手続をお取りいただき、演奏する全ての楽曲を報告いただきます。JASRACでは、①公演1回ごとの使用料を算定する方法と、②1曲1回ごとの使用料を算定する方法の2つの算定方法を用意して、利用者が選択できるようにしています。
DJイベントの多くは①公演1回ごとの使用料を算定する方法となります。
出典:同上
しかもご丁寧なことに、曲ごとの分配額の計算方法まで公開されています。ここまで明言されていれば安心ではないでしょうか?
包括契約を締結する場合の使用料の分配でも、契約上は何ら問題はありません。けれど、JASRACは悪魔の詐欺組織"カスラック"で徴収した著作権使用料を作者にいい加減に分配して不当に私腹を肥やしていると思っている正義漢である貴方にとって、自分の使用料が作者に届かないのは苦痛ではないでしょうか?
そんなストレスや自己嫌悪を取り除きたいとしても、めちゃくちゃ手続きが複雑で、しかも費用が「いや~ちょっとこれは無理だわ~」ってくらい高いのならば仕方ありませんが、たった2つの書類で、しかも1万円切る程度の値段ならば、払ってしまった方が、精神衛生的にコスパ良くないですか?!
ということで、JASRACは支払う側にとってはとても便利な組織であり、仕組みなのですよというご紹介でした。
JASRACが悪の組織に見えるマインドって何だろう?
これで終わっても良いのですが、ちょっと興味があるので考察してみます。
あくまで支払う側の視点です。
自分の作品を信託している作者にとっては、膨大かつ複雑な著作権の処理上致し方ないとはいえ、使われた分は受け取りたいと願うのが自然であるし、そういう声によってもっと公平で適切な分配がなされるべきだと、支払う側にとって都合の良いJASRACの仕組みを使わせてもらっている私も思います。
では、音楽著作物を支払う側において、なぜJASRACは悪に見えるのか?
1.なるべくなら払いたくない
悲しいけれど、一義的にはコレしかないんじゃないかな…と思います。
商売している人はコストを安くしたいものだし、趣味だって安いにこしたことはない。これも自然なことで、だからこそ著作権は法律で保護されていて、その関係に於いてJASRACは取り立て屋の側なので、感情的には好かれないよなあ…これも致し方のないことだと思います。
2.「でも俺はアーティストの味方だ」という正義感
ところで、TwitterでJASRACは悪だ悪だと言っている人の大半は作者でもなければ、興行主でもなければ、クラブオーナーでもなければ、DJや演奏家でもありません。無関係。アウトレンジ。そういう彼らが、先述の作者の「もっと公平で適切な分配がなされるべき」という気持ちにやたら共感して、それができていないということでJASRACは悪と断するという構図があり、個人的にはちょっと醜いなと嫌な気持ちになります。
ベストではないけれどベターな選択の中でより良くしていくべきなのに、ベストを金科玉条としてベターを叩く行為に、私はほとんど義を感じません。
尤も、あるイベントが「著作権使用料を正規に支払う為に100円(使用料+申告の手間賃1万円をキャパ100人で割った場合)値上げします」と言っても文句を言わないなら…ごめんなさい、言いすぎました。
JASRAC悪玉論は、鬱屈した正義感の発露な感じがして不毛なので、みんなで(作者さんも含めたみんなで)ウィン-ウィンになるようにしたいですね。
JASRACの限界とDJ特有の問題
最後に、JASRACが万能ではないところについて触れておきます。
管理外の楽曲は管理できない
変な日本語になっちゃいましたがそのままです。JASRACが管理していない以上は権利者と直接交渉するのが筋です。アニクラ系だと、ゲームのBGMなどは信託されない場合も多く、私もゲームメーカーのライツ部に出向いた経験が何度もあります。
しかし、楽曲数が多すぎてどの曲がJASRAC管理楽曲か分からない問題…。
事前に分かっていれば対処できますが、DJがアドリブでかけた曲が管理楽曲かどうか分からないからJASRACへの申請書に全部乗せてしまう(スタッフさんほんとにごめんなさい)…からの、管理曲か否かのチェックが付いて戻ってくる…からの、では管理外の曲にどこまでどう対処するのか…
本来は対応すべきなのですが、100%完璧にできるかといえば…というのはどうしても残ります。1.黙って踏み倒すに結果的になってしまうことをゼロにするのは、現実的にはかなり難しいでのす。(どこまでいっても言い訳に過ぎませんが…)
著作隣接権
まず大前提としてJASRACは作曲・作詞・編曲の著作権について信託されているので「著作権」しか処理ができません。
そして、著作権に似た権利に著作隣接権というものがあります。
例えば、著作権法では「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」の4者を保護するものとして権利が生じます。
DJイベントで課題になるのはレコード製作者=最初に録音した人の権利、俗に原盤権と呼ばれるもので、多くの場合はレコード会社や音楽出版社が有している権利です。
それを直接プレイするDJは本来は著作隣接権の処理をするのが本来は筋なのだろうなと思います。
が、しかし、原盤権について、JASRACのように一括して管理している団体はありません。なので本来なら2.権利者と直接交渉するが筋なのですが、これも長らく1.黙って踏み倒すになっているのが現実です。(という一点だけ見ても、JASRACがいかに支払う側にとって便利かが分かります)
それを「一応は演奏ということで…」と玉虫色で解決したのは先人の知恵なのかなと思いました。
もちろん、権利者とDJ・クラブの営業面での持ちつもたれつの関係は無いではなかったでしょう。でも、それを言えるのは権利者側であって、使わせてもらう側としては払えるものなら払うべきだし、その態度は忘れてはいかんと思うのです。良い方法があればよいのですが…
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そんな訳で100%完璧ではないのですが、むしろ100%完璧ではないからこそ、通せる筋はできる限り通すべき、現実的に不可能なことは致し方ないとしても指摘があれば甘んじて受けるべきというのが私の持論なので、おせっかいにもJASRACを使った簡単な著作権使用料の申告方法をご紹介させて頂きました。
参考になったら幸いです。それでは!!
※なお、このテキストは著作権フリーにするのでコピーして配って貰って構いません。内容の正確性についての責任は取れないので、裏取りは使用する各自で行ってください。
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