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【全文公開*イベントレポート①】 映画『はちどり』 キム・ボラ監督リモート舞台挨拶@東京・ユーロスペース

2020年7月5日(日)、東京・ユーロスペースにて、映画『はちどり』上映後にキム・ボラ監督によるリモート舞台挨拶+Q&Aを行いました。本イベントの様子をレポートいたします。

(※以下、映画の内容を含みます。ご注意ください)

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司会(配給会社):本日は、映画『はちどり』をご覧いただき、誠にありがとうございます。 本来ならば、監督を直接日本にお招きしたかったのですが、難しい状況が続いておりまして、リモートで舞台挨拶を行うこととなりました。 それでは、キム・ボラ監督より一言ご挨拶をお願いいたします。

キム・ボラ監督:
こんにちは。皆さんにお会いできてとてもうれしく思います。何よりも『はちどり』を観に来てくださってありがとうございます。日本からいいお知らせをたくさん聞いています。皆さんがツイッターにあげてくださった内容やインスタグラムをよく見ているのですが、それを見るたびに、私たち映画を撮ったチーム皆で感激しています。週末に貴重な時間を割いて観に来てくださって本当にありがとうございます。

司会:まず最初に、映画『はちどり』を撮ることになったきっかけを教えてください。

キム・ボラ監督:
2011年、『リコーダーのテスト』という短編映画を撮りました。その映画の主人公も「ウニ」だったのですが、多くの方がこの作品を気に入ってくれました。ウニがまるで本当に生きている人物であるかのように、「ウニはこの後、どんな風に成長するんですか?」と気にかけてくれました。そのことがとてもうれしく、こんなに気に入っていただけたのなら、この『リコーダーのテスト』を長編映画にしてみようと思うようになりました。その頃、私は大学院に通っていたのですが、中学生や高校生のときに感じたこと、またその当時の記憶、トラウマも含めて忘れられない言葉や、うれしかったこと、悲しかったこと、いろんなことを整理していく時間を持っていました。そのため、私の個人的な経験と、短編映画として撮った『リコーダーのテスト』の周りの反応を見て、それを合わせるような形で『はちどり』を撮ろうということになり、2013年に最初の台本を書き上げました。

司会:その初めての長編が、国内外の映画祭で高く評価され、韓国でもヒットしました。そして日本でも多くの方に愛される映画になっています。いまどのように感じていますか?

キム・ボラ監督:
『はちどり』は、2018年の釜山国際映画祭で初めてお披露目されました。そこでKNN観客賞とNETPAC賞を受賞し、大変うれしかったです。その後、ベルリン国際映画祭に出品し、そこでも賞をいただきました。まさか受賞するとは思っていなかったので、閉幕式があった最終日は市内を観光する予定だったのですが、突然受賞の連絡を受け、慌てて閉幕式に向かいました。出演していた俳優さんたちもラフな服装しか持ってきていなかったので、私服でクロージングに臨みました。本当に予想もしていなかったことでした。その他にも、イスタンブール、キプロス、トライベッカ、LAアジア・パシフィック映画祭など、ツアーのような形で色々なところへ行ったのですが、いずれの映画祭でも幸いなことに賞をいただきました。私としてはそのときはあまりにも驚いてしまって、ショック状態のようで、うれしいというよりも“いったい何が起こっているんだろう”という気持ちでした。そして時間が経つにつれて、感謝の気持ちが高まっていき、随分あとになってうれしいという気持ちをかみしめることになりました。

その後、2019年8月に韓国で劇場公開しました。インディーズ映画の歴史の中でも非常に珍しいケースだったと思うのですが、爆発的な、素晴らしい反応をいただくことができました。それについては、またさらに驚いたのですが、やはりうれしいという気持ちよりも驚きのほうが先でした。うれしいというのはそのときに感じてはいると思うのですが、すぐに手放しで喜ぶというより、消化する時間が必要だったのかなと思います。例えて言うなら、お腹がいっぱいになってしまって、少し胃もたれをしていたような感じです。うれしいという気持ちをのぞき込みながら、じわじわと感謝の気持ち、喜びの気持ちが沸いてきたように思います。

司会:ありがとうございます。それでは観客の皆さまとの質疑応答に移らせていただきます。

<観客の皆さまとのQ&A>

Q. 数年前、この劇場にキム・セビョクさんが舞台挨拶にいらしたことがあったので、今回もキム・ボラ監督とキム・セビョクさんが一緒に来てくださったらうれしいと思っていました。
劇中、ヨンジは民主化運動などが行われていた過酷な時代を生きてきましたが、ソンス大橋の崩落事故により水の中で亡くなります。一方、ウニはやがて大人になり、監督と同じくらいの年になる頃、セウォル号沈没事故が起きたり、政権が変わったり、そんな時代を生きていると思います。監督が初稿を書かれたときは、セウォル号の事故は起きていなかったわけですが、ソンス大橋崩落事故が起きた時代とセウォル号沈没事故が起きた今の時代について、私は多くのことを考えるようになりました。
監督は、ヨンジと同じ世代ですが、ヨンジが当時考えていたことや気持ちを今も持ち続けていらっしゃいますか。

キム・ボラ監督:
私が『はちどり』のシナリオを書いたのは2013年で、セウォル号の事故はその翌年に起きています。修学旅行のシーンがあったので、シナリオを読んだ人からは「セウォル号のことを思い出す」と言われました。セウォル号の事故が起こった際、三豊百貨店の崩落事故やソンス大橋の崩落事故を振り返るニュースもありました。そして当然ながら、『はちどり』を観た人たちからもセウォル号との関連性についての指摘がありました。ただ、時間軸で見るとセウォル号のほうがあとで、『はちどり』のシナリオのほうが先です。私自身、セウォル号の事故が起きたときには既視感のような、歴史は繰り返されるのだという気持ちになり、心が重くなったのを覚えています。

ヨンジと関連した質問に対してですが、劇中のヨンジの年齡は、20代半ばくらいです。いまの私の年齡からすると15歳くらい下ということになるのですが、私は、この映画の中でヨンジが抱えていた悩みを依然として抱えています。どうやって生きるのが正しい生き方なのか、それについていまも考えています。

韓国では年齡は数え年で数えるので、私はいま40歳になります。40代がスタートし、これからどんな風に生きるべきかということをよく考えています。決して若いとは言えない世代です。私よりもっと先に生まれている人たちの世代を韓国では“既成世代”と呼ぶのですが、私はその世代を嫌っていたところがありました。しかし、自分もその既成世代に近づいていき、その中で新しく人生を生きるというのはどういうことなのか、どんな風に世の中を見て、新たな生き方をしていったらいいのかと考えます。

そこで私が思うのは、ヨンジがそうであったように、たやすく相手に同情せず、しっかりと相手の話に耳を傾けて、結論を早く出さない、そんな大人になれたらいいなと思っています。悩みはずっと続いていくと思うのですが、色々な面で責任を取らなければいけない年齡になってきたので、ヨンジが持っていた姿勢をこれからも持ち続けたいと思っています。

Q. 本当に素晴らしい作品をありがとうございます。初めて観たときからすっかり魅了されてしまい、今日は2回目の鑑賞になります。

映像スタイルが非常に独特なものに感じました。色彩にあふれていて、少し霞がかったような映像です。極端に明るいとか、極端に暗いとか、原色はないものの、色彩が豊かで、大変緻密な映像だと思いました。映像スタイルにどんな思いを込められたのでしょうか。

キム・ボラ監督:
私たち撮影チームは、『はちどり』の撮影が大好きでした。撮影監督ともたくさん話をしながら、撮影を進めていきました。撮影に入る2年前から、ストーリーボードを作っていたのですが、なぜ2年前から作っていたかというと、なかなか製作費が集まらず、その他にも色々な難しい条件があって当初の撮影の予定が遅延してしまったからです。そのため時間がかなりあったので、撮影する場所を訪れ、そこでストーリーボードを作っていました。参考にする作品として私が挙げたのは、台湾のニューウェーブと言われていたエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の思い出』です。日差しの撮り方や風の印象など、撮影の際の参考にしました。

ウニが住んでいる家は、少し暗い印象のある室内だったと思います。人が住んでいる家というのは、すごく明るいわけではないし、明かりをつけていない部屋もあるので、これくらいでいいのではないか、と撮影監督も話していました。そこで、ウニの家を撮るときはあえて照明は使わず、自然光で撮影をしたのです。そのおかげで、ウニが家の中にいるときに感じていた息苦しさというものを、野外の風景とは対照的に描けた気がします。非常に大事な場所となる漢文塾の建物は、探すのにとても苦労したのですが、野外を見ていただくと緑がとても多いことがおわかりになると思います。ウニの人生は、学校や家では息苦しいのですが、友達と一緒に過ごしたり、漢文塾の先生と過ごしたりする場所には緑がたくさんあります。映画の生命力や映画の光を、そこから感じ取ってもらえるのではないかと思いました。

撮影のスタイルというのは、撮影の方向性を決めるものなので、非常に重要です。私はこの『はちどり』の中で、ロングテイクとロングショットを多用しました。息の短いショットで見せるのではなく、できるだけテイクを長く、ショットも長くしました。その理由は、風景の中で人物を見つめる余裕を観客の皆さんにも感じていただきたいと思ったからです。ロングショットで撮影をし、その中に小さいサイズの人が映っていると、観ている人たちは、風景を見ながら人物も見ることができます。主人公を見て、風景を見ると、その空間も感じてもらえます。そしてその空間を感じているとき、観ている人自身の記憶もたくさん思い出されるのではないかと思ったのです。この映画にはロングテイク、ロングショットが合っている。長い呼吸で映画を撮りたいと思いました。ハリウッドの作品のように動きが速く、シーンが次々と変わっていくようなスタイルではなく、ロングテイクを多用し、自然をたくさん取り入れて緑をたくさん見せ、そしてまたそれと対照的な少し暗い自然光で撮った室内を見せることで、映画の中でその両者の空間がうまく調和するのではないかと考えました。

Q. 色々な記憶を呼び起こさせてくれる映画で、感動しながら拝見しました。生きていると様々な事件や出来事がありますが、解決できないことも多いと思います。忘れてしまいがちなこと、でもふと思い出すこと、そんなことが積み重なって今の自分の人生がある気がしています。

監督もこれまで生きていた中で、解決できないこともあったかと思いますが、困難なことや解決できないことがあったとき、どのようにして乗り越えられましたか?

キム・ボラ監督:
まずはご質問ありがとうございます。私にとってとても大切な質問だと思います。感謝します。

非常に個人的な話になるのですが、私は高校生の頃、女性の先輩から暴力を受け、ひどいいじめを受けていました。そしてたまたま今朝のことなのですが、その先輩に連絡をして、謝ってほしいと伝えたところでした。20年もの間、このことについてずっと悩んでいて、謝ってほしいと思っていたのですが、後回しにしてしまっていました。私は、日々の暮らしの中でどうしても誰かの顔色を気にしすぎてしまうことがあるのですが、それは高校生のときにその人から受けた暴力のせいなのだ、と気がついたのです。それで今朝、その人に連絡をして謝ってほしいと思い切って伝えました。その人は、自分の過ちを認めるより先に、自らまず謝りたいと返事をくれました。それは初めてのことでした。今日はこちらの舞台挨拶の予定があったので、その人との会話はそこまでになっています。このような状況でご質問をいただきましたので、私にとっては劇的なことだと感じています。個人的なことでしたが、私の話が答えの助けになるのではないかと思い、このお話をさせていただきました。

色々な問題を解決する方法として、これまで私は2つの方法を選択してきました。1つは、自分自身で瞑想をして解決をする方法です。心をまっさらな白紙にして、内面からその問題の解決を試みます。それで解決できなかった場合、そして誰かに謝ってもらわなければ解決できないと思ったときには、2つ目の方法を選びます。それは、謝ってもらうという方法です。30代の頃、言葉でのセクハラを受けたことがありました。その際、謝罪文をほしいとお願いし、それをもらったことがあります。謝ってもらうことで心がほぐれることもあると思います。先ほどお話しした今朝の一件も、相手に謝ってもらわなければ解決しないと思ったので、お詫びをしてほしいとお願いしました。そういう風にすることで自分自身の尊厳が守れると思います。

『はちどり』という映画は、韓国で良い反応をいただきましたが、声を寄せてくださった方たちというのは、心に傷を持っていたり、社会の構造の中で女性という理由で色々なことを我慢しなければならなかった人たち、声を挙げられなかった人たちが多かったです。日本でも同じような状況があるかもしれません。アジアの女性たちはまだまだ声をあげられず、また不法なことに巡り合ってしまい、なかなかそこから抜け出せないということもたくさんあると思います。そういう人たちにとって、この『はちどり』という映画が励みになったという言葉を聞くと、本当にうれしく、幸せな気持ちになります。今なおその過程にいる女性の皆さんを支持したいと思います。私の回答が十分なものかわかりませんが、いいご質問をありがとうございました。

司会:ありがとうございました。残念ながらお時間が来てしまいましたので、これにて終了とさせていただきます。最後に監督から皆さまへ一言お願いいたします。

キム・ボラ監督:
今日は貴重な週末にもかかわらず、時間を割いて観に来てくださって本当にありがとうございます。いただいた質問はいずれも映画を観て、愛情を感じてくれたからこその質問だったと思います。いい質問をありがとうございます。この『はちどり』を観に来てくださり、私の話にも耳を傾けてくださった皆さん、そして映画を上映してくださった劇場の皆さんにも心から感謝しています。どうかよい週末をお過ごしください。ありがとうございました。

(了)

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