古代ギリシャ語の帯気音φ, θ, χの話(6) ギリシャ文字の世界を訪ねて(完結)
古代人が感じた帯気の印象
古代の地方を訪ねて
第3話で語ったように、帯気の声門拡張性は遅延開放性によく似た性質を持っており、それを応用するというのが私の提案する帯気音習得法の骨子であった。
そして実は両者が似ているという根拠は音声学の世界のみに留まるものではない。
標準的な古代ギリシャ語には破擦音そのものはないが、古代ギリシャ人もまた、帯気音と破擦音を似た音と感じていた可能性が十分にある。
太古の文字や碑文からはそうした解釈が見えてくるのである。
今回はギリシャ文字の歴史を踏まえてそうした話をしていきたい。
比較言語学や音変化の類型論の知見もその支えとなるだろう。
そして最後に私から「帯気音とは何か」という問いにひとつの答えを出してこのシリーズを完結としたい。
ギリシャ文字について
哲学揺籃の地から
ギリシャ文字といえばΑで始まりΩで終わる24文字を思い浮かべる人が多いと思われるが、実は古代には地域ごとに多様なバリエーションがあった。
現行の24文字のセットは元々東ギリシャ文字の一種であり、本土ではなくアナトリア半島沿岸のイオーニアー地方に位置するギリシャ系都市ミーレートスを中心に使われていたものである(イオーニアー文字)。
(小文字は筆記体から後世に分化したもので、私の想像だが、Σに通常形σと語末形ςの使い分けができたのと/s/で終わる単語が多かったことは無関係ではないだろう)。
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