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ラテン語の動詞人称語尾の起源について(一人称/二人称)

 三人称編分詞要素との関係も参照。


動詞の人称標識

 動詞とは大まかにいえば出来事の叙述に使われる語彙である。
 そして出来事の時間的位置(過去~現在~未来etc)、進行度(未完了~完了etc)、視点(能動~受動etc)といった情報を付加するために動詞の形式が変わる言語も多い。

 ラテン語などに見られる人称変化もその一環である。
 (時制や態によっては違った語尾が使われるが、基本となる直説法・能動態・現在時制の6形を示す)。

amō「愛する」
単数
1sg. amō
2sg. amās
3sg. amat
複数
1pl. amāmus
2pl. amātis
3pl. amant
(1 一人称、2 二人称、3 三人称、sg 単数、pl 複数)

 ごく簡単にいえば一人称単数amōは「(私は)愛する」、二人称単数amāsは「(あなたは)愛する」、一人称複数amāmusは「(私たちは)愛する」などと訳される形である。
 教科書的にいうなら(ラテン語の場合は)「愛する」という出来事の動作主情報が語尾に組み込まれていることになる。

 日本語の動詞にも「書く/書いた/書かれる/書かれた」のような進行度や態による語形変化はあるが人称変化はないので、日本語話者にとってはやや馴染みにくい概念といえるかもしれない。
 しかも各人称とも単数と複数の違いも大きく、ますますその実態に掴みどころのなさを感じた学習者も多いだろう。

 しかし言語史の海に漕ぎ出してみれば人称組織からの発見は少なくない。
 そしてその中には人称標識と縁遠いはずの日本語文法を理解するためのヒントや、自然言語の普遍的傾向を探る手がかりも隠されているのである。

 今回はそんなラテン語の人称語尾の成り立ちや「人称」という体系について考察していきたい。
 一人称や二人称が中心となるが、三人称の前提としてもまずこの知識が重要である。


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