ラテン語の外来語と帯気音ph, th, ch
関連記事「古代ギリシャ語の帯気音φ, θ, χについて」
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ph, th, ch
ラテン語のph, th, chは主に古代ギリシャ語のφ, θ, χを写したものである。
φ, θ, χは帯気音(無声帯気閉鎖音)と呼ばれる子音で、簡易的にはπ, τ, κ(ラテン語のp, t, c)にh要素が加わった音として知られる。
古代ギリシャ語には無声無気音π, τ, κと無声帯気音φ, θ, χの区別があった。
(e.g. πλέγμα「編んだもの」⇔φλέγμα「燃焼」、Κρόνος「豊穣の男神クロノス(ゼウスの父)」⇔Χρόνος「時の男神クロノス」)。
これらは古典期のアッティカ方言では/p, t, k/+/h/のような音、すなわち閉鎖音の一種であって、英語のphone, think, changeのph-, th-, ch-やドイツ語のBuchの-chの音ではなかった。
一方ラテン語には無気/帯気の区別はなかったが、ギリシャ語の影響で外来語にこうした綴りが現れるようになったのである(rhについても後述)。
日本語で西欧語の/v/を写すために「ヴ」が創出されたようなものだろう。
しかしラテン語の単語を見てみると、不思議なことにギリシャ語から直接入った外来語ではないにもかかわらずph, th, chが生じている例がある。
最も有名な例はキケローも言及しているpulcher「美しい」だろうか。
こうした例はギリシャ語系外来語を意識した過剰修正と解釈されるのが普通である。
しかしいくつかの例については別の解釈ができる余地がある。
今回はそんなラテン語の綴りと発音の話をしていきたい。
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