この世の中の女全員の為に怒る女
2022年春、私と田辺さんは芸歴10年目になりました。(ぼる塾はあんりちゃんとはるちゃんのコンビ「しんぼる」と私と田辺さんのコンビ「猫塾」が合体して出来たカルテットです。あんりちゃんとはるちゃんは芸歴では私の2年後輩になります)
芸歴10年はやはり一つの区切りなので、東京NSC18期生が集まってこの10年間を振り返るライブが行われました。(私と田辺さんは東京NSC18期生です)
そのライブが行われたのは渋谷無限大ホールで、私たちが「猫塾」だったときにメインで舞台に立っていた思い出の場所でした。
ライブ中も同期のみんなの話を聞いて、
「あ~そんなことあったね!」「え!?そんな事件あったの?!」「あの話の裏側はこんな感じだったのか…」
と、時間はあっという間に過ぎていきました。
ライブが終わり、久しぶりに田辺さんと二人で無限大ホールから帰ることになりました。
私たちは帰り支度をしながら二人でこの10年を振り返っていました。
私「いや~改めて人の話聞くと10年って色々あるね~」
田辺さん「そうよね!酒寄さんなんて子供産んでるしね!みたらしちゃん!」
私「田辺さんなんて韓国で運び屋に間違われたしね!」
田辺さん「本当よ!『二の腕に何か入れてるだろう!二の腕が不自然に太い!』って失礼しちゃうわ!自然に太いのよ!」
田辺さんはこの10年の間にシンガポールの空港でも不審者として別室に連れていかれ、「一応飛行機に乗ることは認めるが、飛行機で何かが起こったらお前のせいだ」と最後まで疑われていました。
田辺さん「ねえ、私さっきのライブでは言えなかったんだけど、この10年間で一個忘れられない思い出があるのよね」
私「え、何?」
田辺さん「その場に酒寄さんもいたわよ」
私「私もいた時のこと?何だろう?気になる!」
田辺さん「多分芸歴二年か三年目くらいだったかしら?〇〇くん家であった話なんだけど…」
私「〇〇くん!〇〇くん家では色んな思い出があったね」
〇〇くんはもう辞めてしまった同期の芸人です。田辺さんも私もとても仲が良く、当時はよく家に遊びに行かせてもらいました。
田辺さん「あの日、私たち次の日朝早い仕事があってさ、〇〇くん家からだと近いってなって泊まらせてもらってたのよ」
私「うんうん」
田辺さん「〇〇くん家行ったら〇〇くんと〇〇くんの彼女がいてさ」
私「ああ、〇〇くんの彼女!美人の!」
私たちは〇〇くんの彼女(芸人ではない)とも仲良しでした。
田辺さん「私たち次の日朝早いからって部屋譲ってくれてさ、〇〇くんたちは隣の台所で話してたのよ。覚えてる?〇〇くん家の間取り」
私「覚えてるよ」
〇〇くんの家は古いアパートで、和室が一部屋とすりガラスで区切れる台所がありました。
田辺さん「まじで次の日早かったから早く寝なきゃって、和室を真っ暗にして無理やり目を閉じてさ」
私「うんうん」
田辺さん「でもさ、私本当に真っ暗じゃないと眠れないのよ。すりガラス越しに入ってくる明かりがどうしても気になっちゃって」
私「うんうん」
田辺さん「しかもまだ夜の20時くらいだったし」
私「それは眠れないよ。過去の私たちよっぽど次の日の朝の早さに怯えてたのね」
田辺さん「ええ。怯えてたわ。今の私たちなんて年のせいか朝の4時に起きたりするのにね」
私「確かに」
田辺さん「でさ、眠れない!ってなると台所から聞こえてくるひそひそ声が余計耳に入ってくるのよ」
私「うんうん」
田辺さん「聞き耳立ててるわけじゃないのよ!聞きたくて聞いてるわけじゃないのよ!」
私「大丈夫!わかってるよ!」
田辺さん「わかってくれてありがとう。でさ、聞こえてきたのよ!!
〇〇くんの彼女『ねえ、浮気してるでしょ』
って!!」
私「あっ!それ覚えてる!あの日!思い出した!」
私は田辺さんの一言で突然あの日のことを思い出しました。
田辺さん「酒寄さん思い出した?!あの日!!」
私「うん!あの日!!」
私も田辺さん同様、早く眠らなくてはいけないと思いつつもなかなか寝付けず、台所の2人の会話を聞いていたのです。
田辺さん「私は〇〇くんは何て返事をするんだろうってどきどきしながら盗み聞きしてたのよ」
田辺さんはもう盗み聞きと言っていました。
田辺さん「〇〇くんはさ、こう言ったのよ。
〇〇くん『オレは一筋だよ。お前しかいない』
あら~男だね~!!って私心の中で拍手したよ!!でもさ、次の一言で拍手止めたよ!!だってさ、
〇〇くん『信じてもらえないならこの世の中の女全員いなくなっていい』
私は思ったね!!
こいつ!!隣で寝ている私たち消えていいって言った!!
あんたの恋を守るために何で私たちが消されなきゃいけないのよ!!
消すんじゃないよー!!って!!」
田辺さんはあの日を思い出したのかものすごく怒っていました。
田辺さん「酒寄さんも覚えてるでしょ?だってあの日驚いて私が思わず目を開けたら、
酒寄さんと目が合ったもの」
私「覚えてるよ」
あの日、私も〇〇くんの言葉を聞いて『え?今私消された?』と思わず目を開けたら田辺さんと目が合い、お互い無言で頷きあったことを覚えています。
田辺さん「でさ、そしたら〇〇くんはまだ続けたのよ。
〇〇くん『待って、お母さんだけは残そう』
って」
私「〇〇くん家は仲良しだものね」
田辺さん「そしたら彼女がさ、
彼女『お母さんだけで良いの?もっと残したい人いるんじゃない?』
って、言い出してさ、
〇〇くん『じゃあちっぴ(田辺さん)とのんちゃん(私)は残そう』
って!!じゃあって何よ!!一回消しといて簡単に復活させて!!」
私「多分私たちが隣の部屋にいるの思い出したんだろうね」
田辺さん「私たちがもし聞いてたらって思ったんだろうね。よっぽど私乱入してやろうかと思ったよ!!私はさ、〇〇くんとはすごく仲良しだと思ってたんだよ!!なのに消したんだよ!!あいつ!!」
私「まあまあ」
田辺さん「あの日隣の部屋にいなかったら私と酒寄さん消されたままだったの?」
私「いや、そんなことないよ。きっと、『あ!やっぱりちっぴがいない世界なんて嫌だ!』ってなったよ。仲良しだもの」
田辺さん「じゃあえのちゃんは?」
私「え?」
※えのちゃんは私たちの同期のミズドリというコンビの女芸人です
田辺さん「えのちゃんも〇〇くんとすごく仲良かったけど、隣の部屋にいなかったから?
えのちゃんは消されたよー!!」
確かにえのちゃんは消されていました。
田辺さん「私はね!!この世の中の女全員の為に怒ってるの!!勝手に消すな!!私たちだって人生あるんだよ!!本当に愛してるならこの世の中の女全員消さないでも愛を証明できるようになりなさいよ!!」
私「そうだよね」
田辺さん「私はカップルが『幸せ、、、このまま世界が終わっても良い、、、』とか言うのもあんたたちの都合でやめてよって思うわ!恋は盲目ってあるけどさ、本当人様に迷惑はダメだよ!」
私「田辺さん次の日KAT-TUNのライブだったらどうする?」
田辺さん「マジ最悪なんだけど!!私は生き延びたいよ!!
もしそうなったら私が戦ってカップルを倒すしかないよね……物騒ね」
私はもし本当に世界を消滅できる力を持つカップルが現れたらこの世界の存続は田辺さんに託されるのかと思いました。
田辺さん「あの日結局ちょっとしか寝れなかったわ!!おかげで次の日の仕事は散々よ!!全然面白いこと言えなかった!!〇〇くんのせいよ!!」
私「多分面白いこと言えなかったのは自己責任だと思う」
田辺さん「だからね、私次の日、早朝の仕事終わってからまた〇〇くん家に舞い戻って文句言いに行ったのよ」
私「え、何それ私知らない!」
田辺さん「それは秘密にしてたの。馬鹿みたいだから」
確かにちょっと馬鹿みたいだと思いました。
田辺さん「私が『あんた私を消そうとしたね』って言ったらさ、
〇〇くん『ごめん。不安となる材料は全部排除したかった』
だって!!
ってことはよ?結局排除されなかった私と酒寄さんは不安となる材料じゃなかったってことになるのよ。
それも失礼しちゃうよ!!こっちだってあんな男願い下げだよ!!」
私「田辺さんよく数年前の話を昨日のことのように怒れるね」
田辺さん「言われたほうは忘れないよ!!」
私「でもこのエピソード愉快だね。18期生のライブで話せばよかったのに」
田辺さん「いや、プライベートなことだから〇〇くんの許可なく話したら悪いと思って」
私「はっ!!確かに!!田辺さんちゃんとしてるね」
田辺さん「まぁね~!」
私「でも、私このエピソード好きだな~どこかで披露したい」
田辺さん「じゃあ〇〇くんに使って良いか確認したら?」
私「うん!聞いてみる!」
田辺さん「あ、〇〇くん連絡してもLINE遅いから気長に待ちな!」
私「〇〇くんってそうだっけ?」
田辺さん「私は返事遅すぎてもう連絡とるの止めたもの!笑」
私「わかった!・・・よし、送ったよ!!」
田辺さん「返事来なくても怒ってるとかじゃないから気にしないほうが良いよ!」
私「あ、〇〇くんからオッケーの連絡きた!オレの全エピソードオッケーって!!」
田辺さん「はやっwww」
駅までの帰り道、田辺さんが
「〇〇くんとつるんでた頃、私働かないでフレンチトーストばっかり焼いてたよね」
とパンを卵液にしみ込ませるようにしみじみと言ってました。
おわり
***
※ぼる塾の日常が一冊の本になりました!「酒寄さんのぼる塾日記」全国で発売中です。田辺さんが「〇〇くん家で格闘ゲームやって私がずるして酒寄さんぶちぎれたよね」って言ってました。私と田辺さんの前のコンビ時代の話も沢山収録されています。前コンビ時代の書き下ろしの話もあります!詳しくは↓
https://www.amazon.co.jp/dp/4847071301
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