
無人のコンビニ
最近運動不足の1日を反省するように夜中に散歩に出かけることがある。22時くらいの街中は真昼の喧騒とは離れて、また増加しているコロナウィルスのことも一旦忘れさせてくれる。
散歩するにしてもただ当てもなく歩くより目的があった方が道を決めやすい。
夜までやっているTSUTAYAに行くこともあるし、ドンキホーテにいくこともあって、その度予定にない買い物をしてしまう。
浪費が続いていたので今回の目的地はコンビニにしようと決めた。
学生時代の通学路にあるコンビニで駄菓子の種類が豊富なところ。ちょっとだけ駄菓子を買いに散歩にでるのだ。
その気になって早速向かった。
最近よく聞くnever young beachの曲を流しながら歩いてゆく。
2キロくらい先のコンビニに着いた頃にはうっすら汗が滲んでいた。
『ウィーン』と自動ドアが空いて久しぶりの涼しい冷気に晒される。
『いらっしゃっいませ』の声は聞こえない。店員さんはバックヤードにいるのか、返答が無くてもあまり気にならなかった。
店内をぐるっと一周して駄菓子のコーナーで立ちどまってどれにするかを考える。チロルチョコと蒲焼きさん太郎、あとタラタラしてんじゃねーよのスティックタイプを手にとった。100円は超えるから駄菓子だけでも恥ずかしくないはずとレジに向かったけれどまだ店員さんの姿がない。
『すいません〜』と大きめに声を出してみても応答はない。
お店の中には店員さんがいるものだと思っていたのにいないなんて、そういえば他のお客さんもいない。一人で心細くなった。
『すいません』もう一度言ってみても反応はなく急に怖くなった。
これはこのコンビニの中でだけ?それとも変な世界に入ってしまったのか?
オカルトマニアの私は「きさらぎ駅」みたいな事を考えてしまっていた。「きさらぎ駅」とはオカルトマニアの中では超有名な話で電車に乗っていて気づいたら誰もいない誰も知らない場所に行き着いていたという話だ。
このコンビニ内で物語の展開のとおり太鼓の音なんか聞こえたら発狂してしまうと思い、駄菓子をもとあった棚に戻すと早足で店を出た。
この世界が自分一人だけになっていたらどうしよう。焦りと汗が噴き出てきた。
コンビニの外には数分前と何も変わらない世界が広がっていた。焦っていたのは私一人だけだった。
普通に考えれば店員さんが奥で寝てて気づかなかったのか、ワンオペ中にばっくれたのか、そんなところだと思うけれど私は真夏の夜に一人で肝を冷やす体験をした。
オカルト好きだが、実際に怖い事に巻き込まれた事がない私にとって、自分の身に不思議な事が起こって嬉しい気持ちが正直あった。
大阪駅の泉の広場という場所がある。そこは心霊スポットとしても有名で赤いワンピースを着た女の人がずっと立っているというものだ。
諸説ある話だが、赤い服を着た女は生前娼婦で男性はホテルに誘われるとか。
私も見たことあるような気がする。
気がするのだ。チラッと見たのか、誰かがYouTubeの企画とかでふざけ半分でやっていたのか分からないけれど、私の記憶の中では泉の広場で赤い女を見た気がするのだ。
多分オカルトが好きすぎて色々聞いた話がごっちゃになって記憶に定着したのだと思う。
今回私が勝手に恐怖を感じた無人コンビニでの話も記憶とともに忘れていくのか、ねじれてもっと怖い体験をしたかのようにいつか語るのか分からないが、何も無い今年の暑い夏の涼しい思い出となった。