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雑感:電力危機と原発事故

やにわ「電気が足りない」という騒ぎになっている。だが、原発事故以降、エネルギー問題に多少でも関心を払ってきた人ならば、なにをいまさら、というところだろう。

日経あたりには、エネルギー政策の怠慢によって電力供給不足に陥る危険性について、もう何年も前から切迫感のある記事が繰り返し掲載されていたし、安倍政権時代、世耕経産大臣のときにエネルギー政策の見直しについての委員会が開かれたものの出てきたのは骨抜きの内容の提言で、どうするつもりなんだ、という指摘も多くなされていた。その頃にはとっくに老朽化した火力を無理無理に動かして電力を賄っていたし、その火力発電所も徐々に閉鎖していくということも既定路線であった。要は、現状は昨日今日の原因で起きたのではなく、政治がリスクを取りたくなくて、10年近くに渡って先延ばしにし続けた必然の帰結が訪れただけのことだ。

問題は、短期的に収束せずに、長期化・慢性化する情勢のところだ。非常時対応というのは、短い期間で少ない回数ならば対応できるけれど、それが度重なると、対応する体力そのものを劇的に奪っていくし、フラストレーションも桁違いなものになる。(原発事故後の後始末が疲弊するのは、長期化するところが大きいとしみじみと思う。)
エネ庁の電力見通しでは、夏場よりも冬季の方が供給見通しは厳しくなっているので、夏を乗り切れたとしても、冬は乗り切れる見込みはないし、仮に乗り切れたとしても、無理に需要を抑えることになるので、体力は大幅に奪われて、社会的には大きく疲弊することになるのだろうと思う。

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/050_04_04.pdf

この電力危機の日本での起点は、いわずもがなの2011年の原発事故にある。日本の電力の主力を占めていた原子力発電が、これまでのように使えなくなったわけだから、新たな方向性を出すことは必須のことだった。ただ、それには社会的に大きな論争を巻き起こすことは必定で、政権の支持率にとっては悪影響しかない。原発事故の「戦犯」となった経産省は、エネルギー政策を主導することができなくなっていたせいもあり、誰も貧乏くじをひかないまま放置され続け現状に至る、というところだろう。ウクライナ危機も気候変動も福島の今年2月の地震による火発の運転停止も、今回の電力危機のきっかけではあるけれど、日本においては根本的な問題は原発事故後のエネルギー政策の放置そのものにある。

以前、リスク分野における「ソーシャル・アンプリフィケーション」(ひとつのリスク事象が社会的に伝達される過程において、増幅されていくメカニズム)という概念があることを紹介した。社会学では使われているのかどうかわからないけれど、汎用性の高い概念だと思う。

チェルノブイリ原発事故が、ソ連解体に大きく影響したというのはよく耳にする話だ。直接的な放射能汚染の影響もさることながら、その後の政策的対応、巨額の財政出動、マネジメントのまずさから高まった社会不満などが、社会主義制度の行き詰まりとあいまって、ソ連という国家体制そのものを崩壊させる要因のひとつとなった、と言われている。

ソ連は、原発事故を隠蔽していたためその後の対応も取られていないかと思われるかもしれないが、「超軍事国家」であると同時に「超福祉国家」であったため、原発事故の原子炉対応だけでなく、住民対応についても財政出動は広く行われたようだ。なんの財政的裏付けものないのに大盤振る舞いをしてどうするつもりだ!とソ連科学アカデミーの副総裁だったイリーンの著書に書かれている。(『チェルノブイリ:虚偽と真実』)

私は、生活者レベルにおける急激な生活変化は、それそのものが「災害」であり「ストレス」になるので、生活は急激には変わらない方がいいし、変化は対応できる程度の緩やかな方がいいという信念を持っている。この定義において自分は「生活保守」だと公言している。そういう意味で、原発事故のソーシャル・アンプリフィケーションの振幅幅をいかに抑えるか、ということが自分の発想の基盤にはあったのだと思う。ただ、結局、今回の電力危機に見られように、日本全体としては先延ばしの結果、増幅を最大振幅幅に近いレベルまで大きくしてしまった、という印象を持っている。電力だけでなく、避難区域対応も、処理水対応も同じだ。わざと社会的な影響を大きくさせているのではないかと疑うくらいには、私の想定できる範囲内で考えれば、振幅幅は最大値を示していると言ってもいい。

来年の春がどのような春になっているのかは、正直、怖い気がする。柏崎・刈羽を再稼働させろ、という声は強まるだろうけれど、規制委の審査はとおったにもかかわらず、東電の管理ミスの続出で稼働の見通しがたたなくなっている原発だ。無理に再稼働させて、無事に運営できるとは正直信じられないし、仮に再稼働させたあとにトラブルでも起きようものなら、もはや目も当てられない事態になるだろう(し、これまでの状況を見ているとその可能性は決して低くないだろう)。

時間差で、福島の復興政策へも大きな影響を及ぼすことになるだろうけれど、それがどのようなものになるのかも、じきに見えてくるのだろう。

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