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ぬとるーとらのおはなし

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むかし書いたにんげんではない生き物の「おはなし」。
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記事一覧

虫電話

リリリリリ、リリリリリリ 夕刻に、虫の鳴き声が聞こえるようになると、 ぬは急にそわそわしはじめます。 小走りに外へ向かって、 じっと虫の声を聞くと、 目をきらきらさせながら、 おうちへ走り込んできます。 「お山のるーとらたちから虫電話がかかってきたの!」 人間のひとはやさしくこたえます。 「へえ、るーとらたちは、なんて言ってるの?」 「あのね、山でくだものやきのこがたくさんなってきたから  取りにおいでって」 「今の時期はなにがとれるの?」 「あのね、クリでし

1コ100えん

 近ごろ、「ぬ」の様子がおかしい。  夕方帰宅すると、なんだかぐったりしているし、夜布団に入る前に小さな声で 「1コ100えん、1コ100えん」 と呟いていたりする。  ここのところの暑さのせいかと思ったけれど、なんだか違うようなので「1コひゃくえん…」と言っている時を見計らって尋ねてみた。  「なにが1コ100円なの?」  「……ぬ。」  驚いて聞き返す。「ぬが1コ100円なの?」  ぬは、ちょっと困ったような、悲しいような顔をしてうなずいた。  「ぬ、おやさい売り場

ほんとうのこと

 近ごろの「ぬ」は強情だ。  仕事を終えて話しかけても、こちらの言うことを最後まで聞かない。  途中、必ずこう言って遮る。  ほんとうのことをおはなししようよ、ほんとうのこと。  「ほんとうのことってなぁに?」  そう訊ねると、「ぬ」は目に力を込めて考えるそぶりをする。  それから何も言わずに、ふいっととらすけの小屋へ行ってしまった。  じっと耳を澄ましていると、ぬがとらすけに話している声が聞こえる。  あのね、きょうほんとうのことがあったんだよ。  お空がね、空でいっ

やまゆりが咲くころ

ヤマユリが満開です。 おひさまがたくさんあたる山の斜面にポン、ポンと白い花を咲かせています。 いっぱいのヤマユリを咲かせたのは、るーとらたちです。 夜のうちに、両腕いっぱいにつぼみのヤマユリを抱えたるーとらたちが、斜面にヤマユリをさしていきます。 たいせつにひとつひとつさしおわったら、つぼみの後ろ側から、息をぷぅっと吹きこむのです。 ぷぅっ、と吹き込むたびに、ヤマユリは ポン! と花をひらきます。 ぷぅっ、ポン! ぷぅっ、ポン! いっぱいに咲いたヤマユリを見て、るーとらた

5人のきょうだい

 るーとらは5人きょうだいです。  一番上がびっくりるーとらで、  一番下はこわがりるーとら、  残りの3人は楽しいるーとらです。  るーとらたち、おうちって見たことあるかい?  いいえ、ありません。  だって、るーとらたちはいつも地面に横になって眠るのです。  雨の日は大きな木の陰で、寒い日は5人で身を寄せ合って枯葉にくるまって。  るーとらたちは、葉の隙間からのぞく星を数えたり、虫の唄を聞いたりしているうちに、すうっと眠りの中に入って行くのです。  きょうも森にあた

ぬとるーとら

 5人のるーとらたちは、大きな木の根元で小さくかたまってふるえていました。  誰が、るーとらたちをそこへ置いていったのかは、わかりません。  るーとらたちは、小さすぎて自分で食べ物を探しにゆくことができませんでした。  木の葉に集まるしずくを5人でわけあって飲んでいました。  るーとらたちが本当にひもじくて心細くて、泣く元気もないくらい弱っていたときに、助けてくれたのが「ぬ」のかあさんでした。  そのとき、「ぬ」のかあさんは、まだかあさんではなかったので、おっぱいはでませんで

るーとらたちの朝

るーとらたちは朝の森を駆けてゆくよ。 ぱたぱたぱたぱた…… 夕べは風が強かったので、地面はまだわかい落ち葉や木の実で埋めつくされている。 ときには堅い木の枝も道に横になっていて、るーとらたちはすってんころりん転んでしまう。 あはははは…… どこかでだれかがわらう声がするけれど、だいじょうぶ、気にしない、また駆けだすよ。 パタパタ、パタパタ、跳ねまわっているうちに、痛いのなんかわすれてしまうんだから。 朝の森は、いろんなあたらしいことであふれている。 いつも水遊び