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本の感想・紹介

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読んだ本の感想と紹介など。よかった本だけ。
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災害対応、復興支援にあたる人におすすめの書籍

 能登の震災は、まだ緊急対応の状況ですが、災害対応は、次におこることを予測して、先手先手を打って様々なことを同時並行で進めていく必要があります。
 災害直後の対応が、その後の被災地の運命を決定づけることも少なくありません。それぞれの災害の起きた条件によって、個別の事情は異なってきますが、人間心理の動きであったり、大枠で問題になるところは共通している箇所は多く、過去の知見を踏まえれば、一定程度、なに

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2023年 お送りいただいた本

2023年 お送りいただいた本

ご送付いただいた御本をお送りいただくたびにご紹介できればよかったのですが、年の瀬もまとめてのご紹介で失礼致します。
まだすべて読みきれていませんが、とてもよい本ばかりですので、手に取っていただく参考にしていただけたら幸いです。

『開かれたかご』 キャシー・ジェニトル=キジナー『山上徹也と日本の「失われた30年」』 五野井郁夫/池田香代子『所有とは何か』 岸政彦/梶谷懐『黙殺された被曝者の声』 ト

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献本御礼:『山上徹也と日本の「失われた30年」』

献本御礼:『山上徹也と日本の「失われた30年」』

 著者の池田香代子さんから御献本いただきました。

 山上徹也の銃撃によって、カルトの政治への深い侵蝕と宗教2世問題をはじめとするカルト被害の問題が明るみに出ることになりました。一方、多くなされた報道のなかで、山上が就職氷河期のロスジェネ世代であることはあまり強調されていないように見えます。この本はそこに焦点をあてた内容になっています。

 わたし自身、ロスジェネ世代になりますが、山上のことは、お

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読書感想文:中谷内 一也『リスク心理学 ─危機対応から心の本質を理解する』(ちくまプリマー新書、2021)

読書感想文:中谷内 一也『リスク心理学 ─危機対応から心の本質を理解する』(ちくまプリマー新書、2021)

 私ごと、この春から放送大学の大学院でリスク学の勉強をしている。原発事故のあと、自分がしてきた放射線測定に関連する活動は、一般的には、「リスク・コミュニケーション」というジャンルに該当する。自己流で四苦八苦しながらしてきた活動が、大枠ではリスク学にカテゴライズされることがわかったので、自分のしてきたことの意味を学術的に整理しておきたい、というのが大きな動機だ。

 ただ、それとは別に直接の動機がも

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読書感想文:齊藤誠『震災復興の政治経済学』(日本評論社、2015)

読書感想文:齊藤誠『震災復興の政治経済学』(日本評論社、2015)

 誰もが奥歯に物が挟まったように言葉を濁すばかりで、はっきりと言わないけれど、福島の復興政策はうまくいっていない。いったいなにをどうすればいいのかわからないまま、やみくもに予算を投下してきたのだから、うまくいくはずもないのだけれど、その違和感をエビデンスに基づいて示すなんてことは、私の能力を超えている。そう思っていた。

 ところが、2015年の発刊の本書のなかで、すでに圧倒的なデータに基づいて示

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読書感想文:『セカンドハンドの時代ー「赤い国」を生きた人びと』 ーなぜ、プーチンは〈西側〉を憎むのか

読書感想文:『セカンドハンドの時代ー「赤い国」を生きた人びと』 ーなぜ、プーチンは〈西側〉を憎むのか

 2015年にノーベル文学賞を受賞した、ベラルーシの作家スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチの2013年刊行作だ。

 日本では、アレクシェーヴィチといえば『チェルノブイリの祈り』がもっとも読まれているかもしれない。私も『チェルノブイリの祈り』には格別の思い入れがあり、なにを手放しても最後まで残す本の一冊ではあるのだけれど、アレクシェーヴィチの著作のなかで一冊を選ぶとすると、この『セカンドハンドの時

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献本御礼:『「ナルシシズム」から考える日本の近代と現在』・『科学リテラシーを磨くための7つの話―新型コロナからがん、放射線まで』

献本御礼:『「ナルシシズム」から考える日本の近代と現在』・『科学リテラシーを磨くための7つの話―新型コロナからがん、放射線まで』

 あけび書房様から、献本を頂戴しました。感想は、また書きたいと思いますが、お礼かたがた、ご紹介をいたします。

 私のようなさして宣伝力があるとも思えない者に献本頂くのは恐縮なのですが、ありがたく拝読したいと思います。

 どちらの本も、著者のみなさま方、原発事故のあとにお知り合いになった「戦友」のような方ばかりです。お名前を見ながら、10年間の時間に思いを馳せました。

 著者の堀先生は、原発事

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読書感想文:『人びとのなかの冷戦世界ー想像が現実となるとき』ー「災害ユートピア」の後始末譚、あるいは、なぜ我々は原発事故のあとに「風評」という社会的装置を必要とするのか?

読書感想文:『人びとのなかの冷戦世界ー想像が現実となるとき』ー「災害ユートピア」の後始末譚、あるいは、なぜ我々は原発事故のあとに「風評」という社会的装置を必要とするのか?

 益田肇『人びとのなかの冷戦世界ー虚構が現実となるとき』(岩波書店、2021年) は、今年の大佛次郎論壇賞、毎日出版文化賞のダブル受賞作となる。

 1950年の朝鮮戦争期のアメリカ、日本、中国を中心とした世界的な社会変化を、冷戦世界観がどのように凝固していくかという観点から読み解いた内容になる。

 毎日新聞の書評で、日本近代史を専門とする加藤陽子さんの書評で

 とまで評されている。学問的な意

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読書感想文:吉岡斉『新版 原子力の社会史ーその日本的展開』(朝日新聞出版)

読書感想文:吉岡斉『新版 原子力の社会史ーその日本的展開』(朝日新聞出版)

 本書は、もともとは1999年に出版されていた同タイトルの書籍に、2011年の福島原発事故を受けて、加筆の上に新版として再出版されたものになる。あとがきによれば、1999年の旧版は、評価は高かったものの「売れ行きは振るわず、重版が出ないまま10年あまりが経過した」とあるので、福島事故がなければ、新版が出ることも望み薄だっただろう。ちなみに、新版では索引が付されており、旧版で索引に苦労された方も、そ

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読書感想文:稲宮康人『大震災に始まる風景ー東北の10年を撮り続けて、思うこと』(編集グループSURE、2021年)と歩く人

読書感想文:稲宮康人『大震災に始まる風景ー東北の10年を撮り続けて、思うこと』(編集グループSURE、2021年)と歩く人

 先日、「うつくしま浜街道トレイル」のモデルツアーに参加してきた。知人がコース策定にかかわっていたことから、声をかけてもらったからという理由だけれど、実は、トレイルそのものがなにかもよくわかっていなかった。そして、そもそもでいうと、アウトドア系の活動が好きでもない。それなのに出かけてみたのは、コースが浪江双葉大熊富岡といった、まだ避難指示解除がなされていない地区をめぐるコースだったからだった。

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読書感想文:堀川惠子『暁の宇品ー陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社)

読書感想文:堀川惠子『暁の宇品ー陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社)

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000354870

 本書は、広島出身の著者の「人類初の原子爆弾は、なぜ"ヒロシマ"に投下されなくてはならなかったか」というシンプルな問いから始まる。この問いに対する答えは、序章ですぐに書かれる。広島が軍事都市であったということだ。

 広島は、明治以降、戦略的輸送拠点として日本最大の輸送基地・宇品を抱え

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読書感想文:ロバート・J・リフトン『ヒロシマを生き抜く(上)』(岩波現代文庫)

読書感想文:ロバート・J・リフトン『ヒロシマを生き抜く(上)』(岩波現代文庫)

 1962年から広島の原爆被爆者に聞き取り調査を行い、1968年に出版された原爆投下の「心理歴史(サイコ・ヒストリー)」的な影響を記述した著書だ。岩波現代文庫版で上下分冊900ページに及び、しかも、注意書きを見れば、分量の都合上、原著にある二章ぶんと付録は割愛してあるという。まだ上巻しか読んでいないのだが、下巻まで読み終わってからだと、感想を忘れてしまいそうなので、まずは覚えているうちに上巻の感想

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ジョン・ハーシー『ヒロシマ』(増補版)

 ここのところ、散発的に広島の原爆投下に関する書籍を読んでいる。

 J・リフトン『ヒロシマを生き抜く』(岩波現代文庫)を開きながら、原爆体験者の手記を自分が読んだことがなく、そのため、体験談をまとまった形では知らないことに気づいた。広島で育った者は誰でもそうだけれど、平和教育の一環として、私の時代には、当時まだ存命だった被爆者から体験談は何度も聞いているし、また、子供用の本や映画、紙芝居と言った

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読書感想文 志賀賢治『広島平和記念資料館は問いかける』(岩波新書)

2020年12月に発売された本著は、2019年に大規模改装された広島平和記念資料館の足取りがわかりやすくまとめられている。歴史的な災厄をどう伝えていくかという観点から、現場の実際を十分に抑えた上で、歴史的経緯とその意義をたどっていくアクチュアルな問題提起がなされている。

著者の志賀賢治氏は広島市役所を退職後、2013年に平和記念資料館(原爆資料館)の館長に就任し、3回目となる大規模展示替えを担う

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