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インタヴュー ウィズ オスプレイ ⑦

3+1から2+2へ

―さて、いよいよミサゴという鳥のボディスペックを紐解いていきたいわけですが、まずはタカ科からの独立、ミサゴ科という一科一属の決め手とされているのが、足指のつくりですよね。

ミサゴ そのようですね。通常、鳥の指は前向きに3本、後ろへ1本となります。そのうち前向きになっている外側の第4指、人間でいえば小指に当たるのでしょうか、これをほぼ90度、後ろ向きに開くことができます。もちろん関節を外すわけではないので、クレーンゲームのようなものですね、前2本、後ろ2本という状態でモノを掴めます。このように足指の向きを転換できるのは、私たちだけ。魚を確実に捕えるための独自の進化と言えます。

―しかも、その指1本だけを後ろへ開くのは、ダイビングの瞬間なんですよね。つい誤って開き損ねるようなことは、ないのですか?

ミサゴ こればかりは、生まれついての本能というしかないでしょう。いよいよ着水というときのダウン・イン・ポーズ、つまり脚を体の前にぐっと突き出す際に足指が反応するわけです。人間の科学からみて、これを反射というのか、それとも条件反射になるのか、研究の成果が出るとすれば、私たちにとっても興味深いところです。

―指もですが、ダウン・イン・ポーズの際の翼のたたみ方といい、脚の突き出し方といい、体全体の関節がとても柔らかいと思います。

ミサゴ 両脚を顔の前まで伸ばす前屈姿勢は、着水時の理想形です。人間でもこのようなストレッチができると、すごく柔らかいと言われるでしょう。これを垂直落下でできるようになると一人前。そうだ、人間のオリンピック種目で「飛び込み」というのがありますよね。あれを想像してみてください。同じような姿勢を落下のときにやってますよ。

―確かに、それはわかりやすいですね。でも、人間と同様に相当な修練を積まないと難しいのでは?

ミサゴ 子どもたちの漁をご覧になったでしょう。まだ、タッチアンドゴー、つまりV字飛行の延長で斜めから水面に突っ込み、空振りするケースが目立ちますよね。完全に前屈できていないから、獲物に対して思ったところに爪がかからないのです。タカ類の捕獲の習性は、このV字飛行から爪で獲物を引き掻くようにして掴むのが一般的です。理屈は私たちも同じで、子どもの時分から本能的に身についています。ですが、これは空中や地上の獲物、魚でも水面に浮いている状態にしか通用しません。水中では光が屈折して、視界の立体感とはズレがありますからね。私たちの眼球にはその修正能力も備わっていると言われますが、やはり漁の精度を上げるには、視線と爪の位置を揃えることが第一。そのうえで、水中の魚から死角になるよう、真上から突っ込むと、まず逃すことはありません。

―トビが言っていましたが、そもそもミサゴの脚は長くて太いと。改めて見ても、前屈で顔の前まで伸びるほど長いのは、ほかのタカ類にない特徴ですね。それに加えて、つま先まで盛り上がった筋肉。水の抵抗もある中で、暴れる魚を引き上げる筋力も相当なものですね。

ミサゴ 成鳥の筋力で持ち上げられる魚の重量は、おおよそ1キロ余り。自分の体重と同じくらいが上限でしょうね。それ以上だと、さすがに泳ぐか溺れるかという事態になってしまいます。まあ、体格の割には大物を持ち上げたがる、パワーリフティングのような競い合いの向きもありますかね。オオワシみたいに、もっと体が大きければ、ブリやマグロにもチャレンジしてみたいのですが。

―海辺をテリトリーにするミサゴに対して、川の上流に住むものは、重量よりも技の競い合いだとか?

ミサゴ それは、そうですね。相対的に川魚は海のものより小さいですから、重量より数で稼ぐしかありません。私には住みづらそうに思えるのですが、大分の耶馬渓にいる家族の話では、冬より夏の方が魚の旬なので、一番大変な子育て期の環境には、むしろ適しているといいます。つまり、メインになるのが繁殖期のアユです。遡上の群れを探知できれば、片脚で2匹ずつも可能だと。これは高度な技ですし、巣立ち前の大食の子どもたちには最高のごちそうでしょう。あえて大物を狙いたければ、コイやナマズ、ウナギも獲れると言っていましたね。

―ウナギも掴めるんですか! そういえば、ウナギに限らず、魚はみな表面にぬめりがあって、ただでさえ暴れられると滑るはずですが、よく見るとあなた方の足の裏も特殊ですね。

ミサゴ はい、これもほかのタカ類にはないものですが、表面が鱗状というか、細かいトゲが浮いているんですよ。これがストッパーの役割を果たしてくれて、ヌルヌルの魚でも滑らずに固定することができます。いくら爪が鋭くても、突き刺しているだけでは、飛行中に滑り落ちてしまうものです。こうした特殊加工のようなつくりもまた、タカ科からの独立の一因とされているようですね。

―ところで、オオワシでも水面はともかく、水中の獲物を掴み、しかも助走なしで離水するような能力はもっていません。あの状態で羽ばたき上がる上半身の筋力も半端ではないですよ。

ミサゴ 水中の獲物を持ち上げるようにしてから反動をつけ、一気に羽ばたいて離水する。これも人間でたとえると、鉄棒の蹴上がりみたいな要領です。子どものうちは総じて、飛び込みよりもこちらの方に自信がなく、だからタッチアンドゴーで水面近くの小さな魚をさらおうとしがちなのです。これでは、トビと変わりませんからね。ミサゴの矜持のなんたるかを、しっかり研鑽してもらわないといけません。

―ちょっと「韓信の股くぐり」の故事をにおわせますが、トビに対してはケンカをせずとも軽侮をお持ちのように感じられます。

ミサゴ それはいけませんね、言葉をわきまえるようにします。もっとも、彼らもタカ類では特殊な存在で、狩猟の技術よりも生存術重視ですよね。それは体の構造にも表れています。トビの翼は私たちよりも短めですが、幅が太くなっています。翼の幅の太い方が、風をとらえる面積も大きいので、とくに旋回飛翔は楽です。彼らは英名で「カイト」と言いますが、それはつまり「凧」と同義。凧のように舞い続けるのがトビの省エネスタイルで、彼らは空中では、ほとんど羽ばたきをしませんからね。長くて三角に開く尾羽も、タカ類では唯一無二です。風をより多く受けて、バランスを取りやすい。いかに体力を温存しながら獲物探しに多くの時間を割くかという、これはこれで進化の極みだと思います。

―そのトビが、あなた方のアクロバット飛行を評価していました。省エネスタイルとは対極的なミサゴの飛行術も、引き続きお聞かせください。

(つづく)


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(発行・編集人:安藤進一)