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旅することの葉

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外の世界に飛び出した。出会いや発見や、あたらしい希望への旅立ちになればいい。書き残すこと、もうひとつの「旅」のはじまり!
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51. ここはもうひとつの旅の入口、冬のデッキチェア

51. ここはもうひとつの旅の入口、冬のデッキチェア

 冬の至福といえば、ぽかぽかと照る陽ざしの時間だ。どの季節よりも光のオーラを集め、まっすぐな力で完全な日だまりをつくる。凍るような北風を忘れるほどに、陽差しはものすごい力で人々をぬくめ、行き交うものや車のフロントガラスや、裸の木々、緑やそこかしこに濯がれて、万物に安らぎと安心を与えている。ほんの一時のマジックのように。

 今年、デッキチェアを購入した。南向きのベランダに配置し、水やりした植物から

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42.小樽で「伊勢鮨」そしてなにを思うのか

42.小樽で「伊勢鮨」そしてなにを思うのか

新千歳から小樽行きの電車、快速エアポートに乗る。高い山がない。水をこぼしたような空と大地。針葉樹の野原が続く。地平線があるわけではなく、初夏というのに積雪のある峰々に囲まれていた。

小樽に近づくにつれて、左側の車窓からは平原と、こんもりした山がみえ、右側の車窓には海が広がる。波が高い、うねる。はてしない海原だ。島は見えない。日本海や太平洋とは全く違った寒々とした海。荒涼といっても良い。この向こう

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41.食の北海道へ、ひとっ飛び!

41.食の北海道へ、ひとっ飛び!

少し前のこと。降ってわいたような北海道への旅が手に入った。弾丸で一泊という縛りだった。Nが仕事の時間が不意にあいて、航空券を提供してくれたので、前日まで仕事をぶっ続けでし、朝8時の大阪伊丹空港のANAで飛び立った。

今回の旅の目的は、「食べる旅」と決めていた。

数年前とはうって変わって、新千歳空港はガランとしている。NとLINEでやりとりをしながら、わたしはしつこく、週明けの月曜日に提出する予

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38.  桜日記)戦争の哀しみをもちながら今年の桜を仰ぐとき

38. 桜日記)戦争の哀しみをもちながら今年の桜を仰ぐとき

2022.04.06(水)晴夕方五時半。阪神間の桜を見るため、友と待ち合わせをした。ここは香櫨園浜から夙川、苦楽園、甲陽園まで続く松と桜の並木道になる。ちょうど満開。夙川の水音を聞きながら、花びらがはらはらと飛び、まわるっていくさまをみるのが、愛おしい。一年でいちばん美しい時だ。目に淡い色を感じながら、友の話に感情移入していく。

川沿いを山手に向かって歩く。店の名前は「KOTTABS」(コッタボ

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37.京都御所から円山公園の一重白彼岸枝垂桜、祇園白川へ

37.京都御所から円山公園の一重白彼岸枝垂桜、祇園白川へ

 桜が咲く頃は気もそぞろである。はやく仕事よ終われ、終われと心のどこかで思いながら、近所の桜の開花が気になって仕方がない。夜、布団の中で、風がゴーゴーと音をたてて吹き始めるや、月灯り、もわっと淡色の花がいま咲かんとするところを、想像してしまうのである。奈良の信貴山へ行った翌日、いそいそと京都へ出掛けていった。

 河原町についたのは、昼過ぎていた。この日は、気温が3度。小雨が落ちて、湿度が高い。雨

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36.  さくら詣で。毘沙門天王の総本山 奈良の信貴山朝護孫子寺

36. さくら詣で。毘沙門天王の総本山 奈良の信貴山朝護孫子寺

私の高校時代の友に、パワースポット好きな子がいます。神社仏閣が好きなので、同行するうちにはや5年くらいーー。

なんといっても、社寺の荘厳な雰囲気は、日頃の穢れを払い、気持ちをあらたかにする。美しい草木を愛で、庭にぽつんと座っていると、ここがいつのどの時代なのか、錯覚してしまいそうなほどに、ぼんやりしてきます。そういうひとときがたまらなく好きなので、この日も御朱印を鞄の中へ入れて、いざ出発しました

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35. 雲に近い山の畑。ワイナリー「奥出雲葡萄園」を訪問しました

35. 雲に近い山の畑。ワイナリー「奥出雲葡萄園」を訪問しました

好きな酒はなにか、と問われたら。ワイン、日本酒、ビールの順。うまいと思えば、しばらくはこれ1本やりというのがわたしの特徴なのかもしれない。

年齢を経てくると、料理とともに味わう酒が、やはり格別と思うようになった。

そういうことから、昨年末「ふるさと納税」で、ワインをお願いした。島根県雲南市の奥出雲葡萄園ワイン&チーズセット、というのがそれ。

杜のワイン赤。杜のワイン白。奥出雲葡萄園のぶどうジ

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32.  睦月の祈り

32. 睦月の祈り

 睦月は、神さまを近くに感じる季節だ。姿の見えない賓客をお迎えし、感謝の気持ちを申し上げる。お迎えしているのは、御先祖ということらしい。罪や汚れを祓うために大晦日には、家中の掃除をし、お節料理の煮炊きをしながらNHK紅白歌合戦をつけるのが、わが家流の過ごし方。日が変わる前には出雲蕎麦をゆで、自宅で揚げる海老天か、かきあげをのせる。紅白を見た後は、「ゆく年くる年」へとつづく。居ながらにして初詣。全国

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14. 随筆家 白洲正子の書斎

14. 随筆家 白洲正子の書斎

ある日。
東京に行くたびに、行ってみたい場所があった。町田市・鶴川の「武相荘」(ぶあいそう)である。  

白洲正子の書くものを初めて読んだのは、10年以上前か。近江の古寺を訪ねた「かくれ里」、「近江山河抄」「高山寺」の回想録もよかった。影響されやすいわたしは、湖北の向源寺の「十一面観音」をみて、高山寺の鳥獣戯画にも会いにいった。正子は歩く人だ。ぐいぐいと肩から体ごと前のめりに野里を分け入り、修験

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10. 物語の外と内を旅する贅沢なしあわせ

10. 物語の外と内を旅する贅沢なしあわせ

確かに、ぼんやりとしたところがあると思う。

「あなたは浮世離れしているところのある人だから」家人は、わたしのことを、こう比喩する。そういえば、付き合いはじめた頃から、隣のシートに座ってドライブしながら、別の時間と空間のなかに身を置いているようなことが、なかったとはいえない(笑)。

ただ。ここで書こうとしているのは、わたしの浮世離れの話しではない。
いつか読んだ物語と、いまを、行ったり来たりする

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1.  七人だけが聴いた昭和初期のクラシック演奏会

1. 七人だけが聴いた昭和初期のクラシック演奏会

 ANAの機内アナウンスで本から目を離し、窓外をみると深青の海が横たわっていた。日差しが、波立つ絹の上に注がれて静寂を映している。

 2020年。混沌とした焦燥感とともに、何をさしおいても手放したくないものを自覚した半年をいま振り返っていた。旅の活力が、わたしのこれからの方向性と、核心を教えてくれるような気もして、どうしても由布岳の里を訪れてみたかった。

 同伴者は、日本の東西に別れて暮らし4

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