【プレイ感想】メタファー:リファンタジオ
幻想、つまりファンタジーは作りものであるが、その存在は無意味かと言われると決してそんなことはない。憧憬や希望、不満などといったことが吐き出されたファンタジーは人を引き寄せ、拠り所となる。そういった意味では『メタファー』は確かにファンタジーで、正しくRPGであるに違いない。
腐敗や差別などが蔓延る王都は、前王の死によってさらに揺らぐ。前王は暗殺によって殺され、その息子の王子も、襲撃を受け昏睡状態。そんな状況を打破すべく、主人公は王都に赴くことになる。……というのが導入。
そのあとは暗殺した(疑いのある)ルイと、前王時代からの権力者フォーデンの後継争いになるかと思ったが、前王の仕込んだ魔法によって「選挙」がおこなわれることになる。しかも候補者のうち上位候補は暗殺という手段は不可能になるとのことで、その解決策を探したり、候補として存在感を示すことでルイに近づいたりするために冒険に出ることになる。
「悪を討滅するため」というJRPGの文脈こそ不変でありながら、その手段として選挙を提示したのはかなり面白い。最初聞いたときはなんかこう、ネタか?とまで一瞬思った覚えがあるが、案外食い合わせは良く感じた。いわゆるファンタジー世界における種族間の差別、そして権力階級の腐敗と入り混じる思惑というのは、政治的要素との相乗効果がある。
主人公が支持を集めるという行為も、RPGにおける協力者の登場と良い合致ができている。それぞれの仲間とのコミュも、『ペルソナ』シリーズと違って学校/学生という身分に囚われていない関係の話ができるので、エピソードの重みや深みが増しているように思った。
ゲームシステムに目を向けてみれば、かなり『ペルソナ』のまま(ここでいうペルソナは、基本的に3以降の話としている)。アーキタイプというペルソナにプレスターン制のバトル。状態異常は「不安」をはじめびっくりするくらいキツいし、そこから瓦解することもありうる。いつものアトラスといったテイストになる。『メタファー』の方がより状態異常と回避に対してシビアな気はした。
ただ戦闘をはじめからやり直せるようにしていることでバランスを取っているのかもしれない。耐性や特殊な状況を引き起こす技だとか、一旦喰らってみたりしてやり直しもできるので、結果としては割と易しめな難易度になっていると思う。普通に難易度調整もできるし。だからと言って序盤から反射を持ってくるのはいかがなものかと思います。
ただ比較してみると、ペルソナと違って戦闘中の付け替えは出来ないし、マナの消費がきつい割に回復手段が限定されてる(できないことはないけど、結構面倒)といった具合なので、一長一短か。
ちなみに選挙をしていることもあり、当然日程には制限がある。これもペルソナ譲りではあるが、難易度Normalでやったところだと、サブクエ全制覇/コミュ全上げができて日数も余ったので、かなり余裕のある方だと思う。鎧戦車による移動パートとかで交流もできるのはいいですね。
この後はストーリーの根幹に関係する話をするので、一度ネタバレ用のワンクッションを置いておきます。
本作はルイに対する主人公組、主人公に対する小説の存在、そして現実世界に対する『メタファー:リファンタジオ』という形で「現実/幻想」の対比を取っていると思っていて、その仕組みは好きだった。このご時世では、典型的なファンタジーは鳴りを潜めがちな印象がある。近年リメイク/リマスターが話題になったり、一周回ってこういう王道よりのファンタジーが出るのは、その揺り戻しでもあるのかなと感じた。
だけど思うところはある。特別な力だったり何故か人を引き付ける魅力を持っている主人公・強大な悪・剣と魔法という古典的なJRPGというフォーマット。そして一方では差別や信仰という重いテーマを扱った、安易な答えの出ないストーリーライン。それをペルソナのチームが手がけるということで、どういった化学反応が起きるのか、大きな期待を寄せていたところがあった。
ただストーリーの最後は、理想を掲げていたはずのルイの目的が矮小化されてしまったような気がする。特にエルダの生まれであることが分かった以降は、演出が露骨に「(主人公にとっての)悪であること」に終始していたと思う。『FF16』で途中から奴隷であるベアラーの存在が放っておかれてしまったり、『テイルズオブヴェスペリア』の途中でユーリとフレンの求める理想の違いが、ラスボスの存在でなし崩し的に決着してしまったように、序中盤で根底としていたものとは違うところに着地してしまった感覚というのが近いか。
ほかにもストーリーにおける決断だとか、作戦立案みたいなのが結構ツッコミどころ多めというのも気になったところではあった。完全版で補完するという話であれば、もう好きにしてくれ。
あとこれはゲームとは直接関係のない話になるが、「真なる幻想世界(ファンタジー)」を掲げ、アトラスの社内スタジオ「スタジオ・ゼロ」を設立して、8年ほどかけて作られた本作。それが新たな世界を見せてくれたかというと、まあ半分程度だろうとは思っていて、結局やってることは「ファンタジー設定にしたアレンジ版ペルソナ」のような感じに落ち着いてしまったことは残念。集大成と言えば聞こえはいいが、要するに“歴史の切り貼り”の部分が多いということでもある。アトラスの35周年記念タイトルということもあり、期待が先行してしまった感じは否めない。
ゲーム部分がつまらないとまではもちろん、言うつもりはない。プレスターン制でバフデバフ/状態異常に気をつけつつ戦う清く正しいRPGは面白い。それはJRPGの力であり、長年の積み重ねで築き上げられた開発のなせる技といえる。ただしそれは、幻想の地平において新たな景色を見せてくれるほどのものではなかった。ファンタジーが生き続けるというのなら、できればこの先では、新たな幻想に出会わせてほしい。