元プロモーター目線から見る、サマソニ

今年は去年のサマソニが幻だったんじゃないかってぐらいの客入り。

20周年ということもあり、3日開催でラインナップも力が入っている。ヘッドライナー発表では予想は見事に外れたが、チェインスモーカーズをトリに持ってくる（れる）のはサマソニらしさの現れだと思ってる。

今年の一番の特徴は、日本人アクトの充実さでそこはB'zがヘッドライナーになったというのはもちろんですが、メインステージにヘッドライナー級の邦ロックバンドが揃い踏み状態で（あまりマリンに行かないのでなんとも言えないけど）、久々に早い時間から熱いマリンを見たような気がした。

こんな感じで、強邦楽アクトのおかげで早い段階からチケットが売り切れになったのはすごくいいことだけど、洋楽中心のプロモーターが開催するフェスとしてはなんだか複雑な気分にもなったりする。

そう考えると、それがすべての原因とは言わないが洋楽の集客の低さが年々浮き彫りになってくるのは洋楽中心のサマソニならではの現象だ。AlexandrosとB'zに挟まれたThe 1975のように日本でも人気が出る基盤のあるアーティストを間に挟んでプレゼンする。彼らはポップさやアイドル的なルックスもありつつ、アーティスティックな存在として最高の変化点を迎えている。もう現状のUKロックバンドの中では最後の希望と言ってもいいぐらいなので、彼らをこういった満員のステージで見せられるのはすごく大きい。

Babymetalの前に出演したBring Me The HorizonなんかはOne OK Rockの日本での支持が爆発する中、めちゃくちゃキャッチーになった近作からして受け入れる土台十分というように見える。日本での単独公演にもゲスト出演するようなので、ぜひ名前だけでも覚えて帰ってもらいたい。

さて洋楽のプロモーターにとって、日本の洋楽市場を盛り上げて拡大していくという至上命題であると思うが、とっつきやすい邦バンドから似たジャンルの海外バンドを知ってもらうというのは、まあベタな手法だ。実際その影響はわからないが、ライブを見て家への帰り道や自宅でサブスクから気になったアーティストを聴いてくれているのだろうか？と思うと、フェス側も出演前後での再生数の推移などを指標にすると、より音源を聴いてもらいやすい環境を整える意識やアーティストを軸に、どう新しい音楽を知ってもらうかというレコメンドを考えるなど展開しやすい。ただ音楽ファンというものが存在しておらず、いまはアーティストごとのファンに細分化しているので、そもそも「新しい音楽の発見」といったテーマ自体もはや過去のものなのかもしれないが…。

サマソニ自体は、初期は洋楽オタクによるライブ中心のロックフェスであったのに対して、一時期の日本でのフェスムーブメントの中、都市型という間口の広さを生かして、ポップスと流行を取り入れていったフェスとして成熟していった。そこからは東京・大阪の中心地からその日に行って帰ってこれる特性を活かして「入り口」としてうまく機能していたと思う。かたや比較しやすい同・洋楽系のフジロックは象徴というポジションをとりながら97年の最強ラインナップ以降、かなり早い段階でライブから”コト”中心にコンセプトチェンジしていて、場を活かすことで時間をかけてフジロックのファンを熟成させる「体験」ベースのファン作りの思想を持っていると思う。これは本当に素晴らしい。近年のアウトドアブームの煽りを受けていることもあるが、現代のマーケティングにあった体験設計と、ロイヤルカスタマー熟成を時間をかけてやってきたことがお世辞にもインパクトがあるとはいえないラインナップの中でもチケットの売れ行きにも現れていると思う。

そう考えると、フェスがこうも乱立し夏の風物詩として世間に受け入れられた中で、サマソニの入り口という役割はすでに果たし終えたように思う。

近年のフェスムーブメントは日本だけでなく、海外でも起きていて欧米だけならず、アジアでのフェスも増えている。それにより洋楽勢のブッキングをするのが年々難しくなっているという事情もある。現状のシーンではもう洋楽ラインナップ中心が苦しいというのはまさに去年のこと。さらに海外のシーンと剥離が起きてくると、流行のヘッドライナーをブッキングできているにも関わらずやっぱり集客に結びつかないなんてことが起こる。

今年はついにYoutubeでのライブ配信も行なわれ、世界中からそのライブを見ることができるようになった。洋楽という特性を活かして「サマソニに出演すると世界レベルで注目される場でライブが配信される」というのもひとつアドバンテージになりそうな要素がひとつ増えた。

来年は東京オリンピックの影響を受けて、2020年は未開催となる。今回のお休みを経て、王道フェスとしてさらにパワーアップして帰ってきてもらいたい。フジと並んで唯一の洋楽系ロックフェスが個人的には無くなってしまっては困るのである（切実）。