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V編・オブ・ザ・デッド

「O村さん!!S、S木さんが机で死んでます!」
「マジかよ。時間無ェからさ、起こしてきてよ」
「違うんです!冷たくなってます!」
「は!?」

 深夜3時。隣の新聞配達のバイクの音が去った後、鹿威しを打ったようにスタジオは静まり返った。
「行政魔法書士リーガルまさみ」9話は週末にV編を迎える。
週末といっても、明けて今日は水曜日。3日後に映像が完成していないといけない。僕にとっての、審判の日だ。

そしてS木さんというのは9話の総作監。
何十人ものアニメーターで分担して作画するTVアニメが一本の映像作品として絵が統一されている理由はシンプルだ。総作画監督が基準となり、作画を時に一人で整えるからだ。

つまり、S木さんがいないと9話は完成しない。
細い体に積載量オーバーのガッツを持つS木さんは、昨日「あと3日寝ないで作業すれば勝算あるので!」というデスクのO村さんの狂った要望に首を縦に振ったばかりだった。当然、僕も寝ないことになるのだろう。

我に返ったように作画マン部屋に駆けだすO村さん。僕も後を追う。
O村さんのサンダルのペタペタという音が作画部屋に入ったら、カリ、カリという鉛筆の音が聞こえてきた。

「なんだ、生きてるじゃん」
「違うんです。触ってみてください。」

肩に手を置いた。冷たい。リアクションが、ではない。
首元に除く肌も土気色というか、緑だ。S木さんは作業の手を止めない。

「これ、ゾンビ症ですよ」
大陸由来の未知のウイルス。感染力が高い以上の特徴は、罹患者が死後復活するということだ。最初にニュースが出たのは何週間か前だが、O村さんは「ゾンビ禍で放映伸びないでしょ?」とか言ってオシマイだった。

「上りは?」
「5カット出てます」

O村さんがペラリ、ペラリとS木さんの成果物を見る。
1時間で5カットなら、生前の倍のぺースだ。

「H本ォ」
「は、はい」

嫌な予感がする。

「勝算、見えてきたな」

……言うと思った。

【続く】

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