おしゃべりランジェリー

生まれ変わったらブラジャーになりたい!
生まれ変わったらブラジャーになりたい!
生まれ変わったらブラジャーになりたい!

10月、日本海沿い。
サナトリウムの裏の海岸。
全身に転移した癌の宣告をされたのはもう半年も前だ。
身辺整理も大体終わると何故か、シンプルな願いが残った。

「だから下着を作る会社に入ったの?」とこの期に及んで笑われるのも癪なので、ニュースで知った流星群の夜、僕は一人病院を抜け出して星に願うことにした。

鎮静剤で体がもうだるい。
そのまま砂浜に横たわり、もう目を閉じようとしたその一瞬、流星の一つと目が合った。
気がした。

ーー

砂煙を突っ切るように駆け出し、崩れかけの石塀の裏へ転がり込んだ。元いた場所を、機銃の弾の雨が通過した。

国境付近の小競り合いは散発していたが、今回は特に長い。

渡航費はあっち持ち。経費も後日精算可。色々条件が良すぎると思いつつ手を出したが、合点がいった頃には戦場の真ん中にいた。

「生きて帰らないとギャラが出ないんでしょう?」

胸元から声が聞こえる。
呑気な男?だ。ブラジャーに性別があるのかは知らない。
セールだったから珍しく買った日本製の下着が、ある日突然話しかけてきた。
私もどうやら、長く戦場にい過ぎたようだ。

「こんな戦場、もうごめんだ。まとまった金を作って、故郷にレストランを開く」
つい、本心をこぼした。

「そういうの、やめましょう!」
胸がギュッ、と締まる。
バンっ……
元からGあるものを寄せて上げたので軍服が弾け、谷間が露出する。

「わかった、わかった」
「頼みますよ」
緩むブラジャー。寒いので乳はしまう。

「……危ない!」
急にブラジャーのワイヤーが蠢く!

ギチッという音がして、後から胸を殴られたような痛みに咳き込んだ。

「流れ弾です」
「……ゲホッ……止めたのか?」
「胸を守るのが本懐なので」

どうやらこの下着、本当に私を戦地の真ん中から逃がす気らしい。

「胸が弾むな」
「支えますよ」

【続く】

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