見出し画像

5年前の私小説

昨日何となく2年前のこのツイートを思い出してリツイートしてみたんですが、実はこの日のことに関して書いたブログがあり(今はもう公開されていません)それを少し編集してこちらに載せてみます。
※まだ今ほど中目黒が桜の名所として有名になっていない、「インスタ映え」という言葉もなった今から5年も前の話です。


======

『桜の夜に』

三月中に桜が咲くなんて、不自然極まりない。私が住んでいた頃の新潟はゴールデンウィークあたりに咲いていた気がする。
だから昨夜の中目黒があんなに混んでいるなんて全く予想できていなかった。私も目黒川から見る桜は好きだ。しかしジンクスがある。

「目黒川で一緒に桜を見た男とはすぐ終わる」

昨夜は同じ会社で働いている男と目黒川の近くで飲んでいた。桜も見ずに。
花見と金曜日が重なりどの店も満員で三十分くらい歩き回ってようやく見つけた。なんの面白みもないメキシカンの店すらこの日はほとんど満員だった。
中目黒で勤務しているにも関わらずオフィスから桜は見えないし四半期末で忙しくしている間に気付かぬうちにほとんど満開になっていた。

歩いている途中、出張で訪れたクアラルンプールを思い出した。
あの時もこの男と私は酒が飲みたくて二人で知らない街を歩き回っていた。

今日も何も無く飲んで終わるんだろう。こちらは好きだと言っているのにそれには全く触れられない。あおるように、テキーラなんかも飲んでトイレに立った。

ふとカウンターを見ると、かつて私が付き合っていた男が女と飲んでいた。さすがに目を見開く私、男は気まずそうに笑う。隣にいた彼女には申し訳ないがその二人の表情を見れば全てを悟ることができただろう。
去年はこの男と目黒川で桜を見て、男は目黒川で桜を見るのは初めてだととてもよころんでいた。
さすがに二人は気まずくなったのかすぐに店を出て行った。

その後も散々飲み、店を出た。駅までの短い道のりで男は私の手を握ってきた。でもそれ以上は何もないし、何も言わない。そのまま駅で別れた。
東横線に揺られながら店で会ったかつての男とメッセージでこんなやりとりをした。

「何もなかったの?」
「うん」
「抱けよな、いい女だよって言ってやりたい」
「言ってよホント」
「相性良かったと思ってる」
「そうだね」
「合わせなくていいよ」
「そんなことないよ。好きだったし。つらいな、と思って終わったけど」
「後悔していないならいいな」
「男女の関係において後悔なんてしたことないよ」

この男も最終的に、なんてひどい男なんだと思って関係を終えたが、
どうやっても私を愛してくれない男よりもかつて私を愛してくれた男のほうが、よっぽど愛おしく思えてきた。
今ここでそれは愛なのかどうかを自問自答するつもりはない。少なくとも彼は私の欲求に真摯に応えてくれた。

なのにあの男はリスクも負わなければ愛してもくれない。抱いてもくれないし突き放してもくれない。やりきれない思いのまま渋谷に着き、地下にもぐった東横線からの最悪な乗り換えをしようとしているとまた別の男から連絡が来た。

以前一度だけその男の家に泊まった事がある。
二つ年上だが昔から知っている人なので、気の置けない仲と言える。
電車もまだあったかもしれないが面倒なのでとりあえずタクシー乗り、中野に向かう。このまま一人で帰るわけにはいかなかった。

中野に着くと私と同じくらい酔った男が駅前で待っていた。どんな男でもたいてい、久々に会うとうれしい。男の馴染みの店に行って少しだけ飲む。

「桜が今咲くなんてありえねぇよ」

そう言う男も秋田出身の人間だ。彼も今年三十になるので田舎からプレッシャーをかけられ結婚に対して焦っているようだった。でも男の身勝手な性格では難しいことも、本人自身分かっている。
私も彼も金はそれなりにある。でもお互い結婚なんて出来る気配もないし、
彼氏や彼女すら出来る姿が想像つかない。

店を出て当たり前のように男の家に向う。私も当たり前のように着いていく。

適当なジャージに着替えて男とベッドに入った。少しキスをして男が、
「飲み過ぎて俺不能だから、今」
と言ったのを笑ったのが最後の記憶だった。

私は朝早く起きてしまいシャワーを浴びて、男がベッドから出てクリーニング屋に行くのを横目にまた寝た。

「飯食うぞ。焼き肉食うから」

と起こされた。

「焼き肉?朝から重いですね……」
「いやもう昼だから。行くぞ」

肉を焼きながら男が言う。

「セックスできる相手は3人いるんだよね」
「だから昨日しなくても大丈夫だった、と」

以前は会社の先輩後輩だったので、一応まだ「ですます」だけは使うようにしている。敬語とは言えない。

「昨日は泥酔してただだろ、俺もお前も」
「はい。でも、そういう女がいたらなおさら結婚なんて遠ざかりますね」
「一人切ろうかと思って」
「なぜ?」
「K−POPの話しかしないんだよ」
「え、韓国人嫌いって話してないんですか?」
「俺話さないし。そういう女といる時は。だいたい女から連絡が来るし、そういう時は何か話したくて連絡するわけで、俺はそれを聞いてるだけ」
「何いい男ぶってるんですか? めっちゃ喋るイメージしかないんですけど」
さすがに普段とのギャップがありすぎて吹き出してしまった。
「また飲もう。いつがいいの?」
「飲み足りない金曜深夜」
「俺もだわ」

店を出た。何だかんだ二日酔い中の焼き肉も旨かった。

「たまには連絡して。俺が不能じゃない時にまた会おう」
「不能でもいいですよ」
「ありがと。気をつけて」

二十代後半の男女が何をしているんだろう。冷静に考えると滑稽で仕方ないが、でもこうやって寂しさを埋め合う男女がいてもいいだろう。

みんながみんなどっかしらで寂しさを埋めている。

桜は、もうすぐ散る。

(了)

お読み頂きありがとうございます。最近またポツポツとnoteを上げています。みなさまのサポートが私のモチベーションとなり、コーヒー代になり、またnoteが増えるかもしれません。