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「東京男子図鑑」とは何だったのか?

職場の女子2人に勧められて、Amazon Primeで「東京男子図鑑」を見てみた。かなり久しぶりにドラマを見たので、感想でも書いてみたいと思う。

あらすじ
「『女なんて、どうせ金を持っている男が好きなんだろう。そう、思っていました。』そんな風に思うようになったのは、いつからだっただろう。これは、大学入学とともに上京した翔太(現在・44歳)の半生を振り返るお話。東京を舞台に、金と仕事と女に奮闘しながら年齢を重ね上り詰めていった或る東京男子の、リアルな回想録である。」

翔太は、夢を見たことがない人間だ。寝ているときも、起きているときも、彼は夢を見ない。彼の前には、ただ現実があり、その現実は無情だ。大学生時代に心を許した彼女には年上の高年収男性と浮気され、彼女のような人間を見返してやろうと入社した大手商社では下に見ていた同期との出世争いに負け、上司からは「お前だけにできる、価値ある仕事なんてない」と諭され、転職した先のベンチャー会社でも長年の貢献を認められずに「お前はいらない」と切り捨てられる。

友人と呼べる人はほとんどおらず、付き合った彼女達からはこき下ろされ、上司からも努力や結果を評価されない。自分自身にやりたいこともなく、仕事にやりがいも感じず、将来の展望もない。

一方で翔太は、容姿が優れ、人よりも器用で頭がよく、年収や生活水準も高い。人が羨むものをたくさん持ちながら、それでいて出会った人からは、評価をしてもらえない人間なのだ。

彼は、不幸だろうか。たしかに、傍から見ると、空っぽで悲しい人生だ。年収は高くて生活水準は高くても、親友もいなければ、愛する家族もおらず、信念もない。そんな人生は送りたくない、というのが大半の意見だろう。

しかし、彼は、自分のことを不幸とは感じていないのではないかと思う。なぜなら彼は、「東京」という街を愛しているからだ。彼は、夢を見ない。それは、夢を見る必要がないからではないかと思う。東京で生きることこそが、彼にとっての夢なのではないか。彼は、東京を愛し、東京で生きることにこだわる。東京で挫折を何度経験しても、浦安の実家には頑なに帰ろうとしない。東京に何度期待を裏切られようと、もがきながら東京で生きている。

彼は、20代で渋谷に住み、麻布十番・月島・赤坂を経て、清澄白河に移り住む。これらのエリアには、「東京らしさ」がつまっている。「若者の街」渋谷、「シックな大人の街」麻布十番、「閑静で落ち着いた川沿いの街」月島、「品格とモダンさが同居した街」赤坂、「オシャレでありながらも、ゆったりとした街」清澄白河。東京が見せる多彩な顔を、彼はどこまでもひたむきに愛している。

彼は、自分の人生にも「東京的」であることを求める。それはたとえば、良い会社に入り、高い年収を稼ぎ、良い暮らしをして、美女と付き合うということだ。彼の価値基準は「東京的かどうか」であり、「東京的」でないものには関心を示さなかったり、時には見下したりもする。恋人に「翔太にとって私はなんだったの」と詰め寄られて「渋谷」と答えたり、地元浦安の知人・友人に「俺は、お前たちとは違う」と言ってしまうのも、東京への愛の表れだ。

翔太を演じている竹財 輝之助(たけざい てるのすけ)は、インタビューで彼のことを「クズだけど愛しい」と表現する。クズに見えるのは、東京への愛が行き過ぎて、目の前の人達やその想いを蔑ろにしてしまうから。そして、愛しく感じるのは、報われない愛にも関わらず、それを一途に持ち続けているからではないかと思う。彼は器用に見えて誰よりも不器用で、クズに見えて誰よりもピュアで、コミュニケーション能力は高いのに人ときちんと対話する術を知らない。東京を愛するように、人を深く愛することができない。しかし、心の奥底では愛されたいと願っていて、自分が東京を愛するように、「東京的な自分」になればみんなに愛してもらえるのではないかと無自覚に信じている。そして、周りの人たちは、彼が「東京的」であろうとすればするほど、彼から離れていく。

だけど、それでも彼は幸せなのだ。挫折するのも、裏切られるのも、思い通りにならないのも、すべて「東京的」だからだ。東京は、やさしく包み込んでくれるような街ではない。むしろ、どこか冷たくて、無機質で、非情な街だ。だから、東京の街で翻弄される人生は実に「東京的」であり、愛するものから与えられる試練といってもいい。どんなにつらいことがあっても、東京から逃げ出さず、東京の中で生きていくことで、「お前の愛は、本物なのか」という東京からの暗黙の問いに、彼は見事に答え続けている。

心から愛するものがある人生は、とても幸せで充実していて、その愛を貫くことができたなら、それはとても満ち足りた時間なのだ。それが、傍から見て、どんなに「空っぽ」に見えようとも。

そんなことを考えさせてくれるドラマだった。

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