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🇫🇷 | ノルマンディの2人

フランスの留学生活を振り返る時、
いつだって時系列は滅茶苦茶だ。
実はまるまる一年分、
日記をどこかへやってしまって、
未だに失くしたまま見つからない。

三年もの月日が流れてしまった今、
当時誰と知り合って、どこへ出かけたか、
整理するのは難しい。
それでも、忘れてしまう前にここに思い出していこうと思う。

これは留学生活二か月目、四月のお話。

だんだんと日も伸びてきて、
語学学校の授業にも慣れてきた頃、
先生がクラスのみんなにパンフレットを配って宣言した。

エクスキュルションのアンケートを取ります」

ーエクスキュルション。
日本語で小旅行、または遠足。

今回の企画はフランスの北の大地、ノルマンディ地方への小旅行。カーンの平和記念博物館を中心に、海沿いを巡る日程だった。クラスメイトと一緒に。

ノルマンディでまず思い出されるのは、
名作「史上最大の作戦」「プライベート・ライアン」、
それから留学前に4DXで観た「ダンケルク」。
....行きたくないわけない。

それでも、この話を聞いてウキウキとしながら辺りを見渡すどころか、
情けない事に、私は俯いてしまった。

だって、クラスにまだ、そこまで仲のいい友達がいなかったから。

結局、アンケートは提出しないまま、
用紙を鞄にしまい込んだ。
用紙は皺くちゃになってしまった。

放課後、帰宅してから、唯一のお友達であるイダンさんに相談したんだ、
遠足に行きたいんだよ、って。

「クラスメイトと行ってこい」

だなんて、そんな野暮な事を言うイダンさんではなかった(彼は紳士気取りだった)から、
仕事のついでだとかなんとか、二つ返事で車を出してくれた。

それが私とイダンさんの初めてのドライブだった。

まず目に飛び込んできたのは、巨大な石のモニュメント。

そして見渡す限りの白い砂浜と、英仏海峡。

フランスでは「ラ・マンシュ海峡」、英語では「イギリス海峡」と呼ばれているという話は、なんとなく「日本海」呼称問題に通ずるものがあるんじゃないだろうか。

ここがノルマンディ上陸作戦の、まさに上陸した地とのこと。

歴史的要所を訪れた興奮と、畏怖の念。
そして「映画の舞台」を前にして、熱い気持ちで名作映画の魅力を語ってみたけれど、
イダンさんからは文法ミスを指摘されるばかりで、パソコンから目を離してもらえない。
どうやら仕事が忙しいらしい。

そんな彼は、炎天下の駐車場に放っておいて、私は先を急いだ。

少し海岸沿いから離れて歩いていくと、お目当ての博物館に辿り着いた。

ドイツや米国のプロパガンダから程近い場所に、
寄せ書き入りの日章旗や戦時中の国民服の展示コーナーを発見。

真珠湾攻撃の資料なんかもあった気がする。

その時、ちょうどある外国人観光客二人組が
日本軍が行進する模様を収めたPVの前で立ち止まった。

「日本ってこんな国だったんだ」

そう一言漏らし、また熱心に動画を見つめていた。

写真を見返す度、彼らの事を思い出して、
異国で戦争を学ぶとは、こういうことだなと、
酷く感心したのを思い出す。

暫く見学した後、外で待っていてくれたイダンさんと合流して、また歩き出した。

道なりに歩いていくと、とある地点から小高い丘になっている。

その丘の凹凸は不均一で、所々地表が見え隠れし、目に写る草花は青々と輝いていた。

美しいところだなあと、カメラを構えていたその時に、〝ソレ〟に気付いてしまった。

ああ、ここって、爆弾が落ちた場所だ。

突然暗い感情が押し寄せる。
海岸沿いの真っ平な野原が、夥しい爆撃によって、何度も何度も抉れる様を思い浮かべて、思わず泣きそうになってしまう。

すると、それまでずっと黙って隣にいたイダンさんが、
まるで父親が子にそうするように、肩を抱いてくれた。
驚いた。

彼の方に振り返ると、そうするのが当然だというかのような、いつもの表情だった。

多分察してくれてはいないけど、犬みたいに愛情深くて勘の鋭い人だと思う、この人は。

「この町は好きか?」

イダンさんが口の端をニッと吊り上げて笑う。
その質問には勿論、しっかりと頷いておいた。

ここノルマンディで日本人とフランス人が、
肩を抱き合って二人、並び立っている。

その現実が、あまりに私にとって大切だったんだ。


帰り道は打って変わって、突然の雷雨。

土砂降りの雨の中、何とか休日でも開いている店を奇跡的に見つけ、食料を調達。
適当に買い付けたサンドイッチを、狭い車内で「まずいまずい」と言いながら笑いあった、そんな思い出。

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