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アメリカの大学で教えてみないか(9):ハラスメントはあるの?

アメリカの大学にアカハラ、パワハラ、モラハラ、セクハラはないの?これを読んでくれた友人からのリクエストにお答えして。

結論から言うと、セクハラ以外は案外少ないです。ビミョーな問題なので、表沙汰にはなりにくく、ゴシップにはあんまり興味がない僕が知らないだけかもですけど。

何よりも、周囲の監視が厳しいので、ハラスメントが起きた場合、すぐにバレるし、それ以前に抑止効果が大きいです。僕は学部長になる以前、学部の大学院ディレクターというのを9年に渡ってやってたんですが、そこで徹底したのが「院生を契約時間以上は絶対に働かせない」ことでした。

院生は成績や学位っていう弱点を握られてるので、教員から「タダ働き」を要求された場合、拒否することが難しい。実際にそうなったケースは2、3回しかありませんでしたが、それ以前に周りが監視するし、院生も僕に相談して来るので、タダ働きは未然、もしくは直ちに防げたケースが多かったと思います。

日本ではありがちなのが、教員が学生(特に院生)をこき使うって奴ですね。特にひどいのは私用に使う場合です。

アメリカの場合だと、「公」の領域と「私」の領域が比較的きっちりと分けられてるので、この手の混同が少ないのかも。僕は夏に「飲み代稼ぎ」で、慶應で大学院の集中講義を11日間で4回やるのですが、初日は「顔合わせ」、最終日は「打ち上げ」で4回のうち、2回も飲み会やりますw。

でも、アメリカでは院生と飲みに行くことはほとんどありません。年に1、2回、学部全体の(ホーム)パーティがありますけど、家族も含めて何十人も参加するような奴です。学期の最後に院生を家に呼ぶ教員もいるようですが、多分少数派です。

教員と学生(院生)の付き合いがドライな分、「公私混同」的なハラスメントは少ないのかも。

稀に、教員と学生(院生)がロマンチックな関係になることがあります。この場合は成績をつけた後であれば、特に問題はありません。僕の同僚の一人がこのケースになり、深い仲になりましたが、何年後かには別れてしまいました。

教員同士の場合、話として聞くのは「テニュア」審査に絡んだもの。つまり、准教授と教授は、助教授の「殺生与奪」の権利を握っているので、ハラスメントが起きやすい。

よく聞くのは学部が2つの派閥に分裂して、助教授がどちらの派閥につくかを強要されるっていうケースです。つまり「こっちのグループに入らないとテニュアの審査に響くよ〜」って奴です。

幸いにして僕の学部ではそうしたケースは僕が知る限りは皆無です。

実際に目にしたケースはやはり(というべきか)、セクハラですね。

1つ目のケースでは僕の大学でテニュアを持っている女性教授がクビになりました。新聞で読んだ限りですが、授業中に下ネタや卑猥な言葉を連発して、学生から抗議があっても止めなかったようです。日本だと「セクハラ」に分類されるかどうか疑問ですが、こちらではそのように分類されてました。

また、身近な学部でもセクハラがありました。学会で泊まったホテルのバーで男性教員が酔っ払い、自分が指導する女性の院生に「オレの部屋に来い」って言ったらしいです。ギリギリでクビは逃れましたが、アメリカ的には、これも完全にアウトです。最近は日本でもアウトでしょうね。

一度疑いをかけられたら「密室」でのことなので、「シロ」を証明するのは至難の業になります。なので、僕も女子学生が研究室に来たら絶対にドアは閉めません。

ルイジアナっていう州は全米でも貧困率が高く、家族に問題を抱えた学生も多いところです。

ある年のこと、それまでほぼ全ての授業に出席して成績もよかった女子学生が急に授業に来なくなったことがありました。「どうしたの?何か事情があるのかな」って研究室に呼んだら急に泣き出しました。曰く、「両親がアルコール依存症で、その面倒を見なければならず、授業に来られないんです」

普通だったらハグして「大変だね。大丈夫だから」って言うところですが、研究室ではご法度です。傍目には相当ギクシャクした光景でしょうが、泣く女子学生を前にして何もできません。「大変だね。大丈夫だから」とは言いましたが、なんだかなあ、です。両手を縛られてる感覚でした。

セクハラは「性差別」の観点で捉えられることが多いので、きちんとした法律があり、大学内でもその扱いははっきりと決まってます。まず、教員が学生から「ハラスメントを受けている」と相談された場合は、必ず大学の人事部に届け出ないといけません。これは被害者が男性の場合でも同様です。

ただし、学生がそれを他人に知られたくない場合もあるので、その場合は、詳細を聞く前に「僕が話を聞いちゃうと人事部に報告しなきゃならないんだけど、それが嫌なら僕以外に話を聞いてくれる人たちがいるからそっちに行く?」って聞くことになっています。学生が人事部に報告せずに相談だけしたい場合はライトハウス(lighthouse=灯台)と呼ばれるグループに持ち込むことになります。

テーマがテーマだけに、ちょっと堅い話になっちゃいました。退屈だったら申し訳ない。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

*見出し画像は同僚の家で行われたホームパーティの様子です。ザリガニを丸ごと茹でるルイジアナ名物、crawfish boilでした。おまけにもう一枚、写真つけます。


人とは違う視点からの景色を提供できたら、って思ってます。