なぜわたしはあなたにあんなにも嫌われなければならなかったのだろうか。

 わたしが思ったのはそういうことであった。別に嫌いという態度をわたしがもたなかったことが、むしろ気に入らないというふうであった。わたしはその人のことを思い、わたしなどとは別れたほうがあなたはとても幸せになれるので、わたしはあなたに嫌われようと思います。幸せな人生を送るのです。それはまるで、祝いめいた呪いであり、そのときにその人の人生がぜんぶ、見えてしまった。わたしという人間が介入しないほうがきっと良いのだ。その人のことを独占しようなんてしない自分が優し気にみえるだろう。

 でも、わたしはあなたからとても傷つく仕草をされた。わたしという人間がこの世にいないみたいに無視をされたのだ。同じ空間にいて、まるで幽霊のようにわたしはそう扱われた。許すと許可は字面が似ている。わたしは許されたかったのだと思う。あれはどういうことだったのか、まったくわたしはわからない。そういうことが簡単にできるほど残酷なのだろうとわたしはそのときはじめて、気づいた。涙も出た。嫌いとも、思わない。好きとも、感じない。ただここの世界にいる人間としてあからさまな無視はけっこうなダメージだった。わたしたちは、互いに少しづつ、共用する趣味もあったし、わたしの好きな本や音楽や映画をいっときは共に楽しんだ存在であったはずだ。そのことを口にし、同じ時間を過ごした。それはもう、過去という名の忘れてしまう現在だったのだろうか。上書き、更新しなくてはならず、引きずっているのは自分ばかりだ。切り離してしまうほうがよかったはずで、自分から離した手を後悔するのだろうか。

 書いてみると驚くのだが気持ちは自然と消えていく。むしろ、書くということを行わなかったわたしが、忘れてしまうことを拒んでいたのかもしれない。

  人一人を不幸にして、あなたの幸せがなりたっているのだということを見ることも叶わなかったあなたにむけて、わたしはひとつ、強く思う。だからといって、あなたが不幸になることを望んではいないし、わたしはわたしがかわいそうだとは思ってはいないと、祈りみたいに彼女は言って、別れたけれど、あのあとどうなったんだっけ?

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