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第112回:「自分の気持ち」で、生きづらい世界を変えよう。

こんにちは、あみのです。
今回の本は、櫻いいよさんのライト文芸作品『図書室の神様たち』(小学館文庫)です。

正直今作は、嫌な現実の中にずっと閉じ込められているような物語で、読むのが辛くなる展開も多いかもしれません。
でもこの物語が、世の中に溢れる「生きづらさ」と向き合うひとつのヒントを教えてくれるのは確かだと思います。理不尽な話題が多く飛び交う今だからこそ心に刺さるメッセージがたくさん詰まっている1冊です。

あらすじ(カバーより)

 家に帰りたくない爽風さやかが、放課後足を踏み入れた学校の古い図書室。そこで爽風は見知らぬ男子生徒、笹木誠と出会う。「この世界の神様になりたい」と呟く誠の顔には、誰かに付けられたらしい青痣が。その理由も聞けないまま、爽風は誠と図書室でたびたび会い、心を交わすようになる。そんなある日、偶然手にした数年前の学校のアルバムに、誠の姿を見つける爽風。さらに誠の副担任だった教師から驚愕の事実を知らされて――。
 時間が交錯する不思議な図書室で、つながった二人の「今」。爽風は未来の”死”から誠を救えるのか。魂がふるえる感動の純愛ストーリー!!

感想

あらすじから、よくあるSF要素の入った高校生同士の恋愛ものかと思っていた今作。しかし実際に読んでみると、この物語は「生きづらい世の中をどう生きていくか」を描いた少し意外性のある内容でした。

2018年に発売された作品ですが、昨年から続く「想定外の生活」でストレスや生きづらさをより感じやすくなった今読んでみると、作中のシーンがより深く心に沁みる物語だと思いました。

ピリピリとした学校の空気、悪口をぶつけ合う両親の姿。数々の「見たくない現実」に爽風は、学校でも自宅でも居心地の悪さを日々感じていました。そんな彼女の癒しとなるのが、学校の図書室でたくさんの本と過ごす時間でした。

古びているせいか少し怖い噂もある図書室。そこで爽風が出会ったのは、不思議な雰囲気を放つ笹木誠という男子生徒でした。
笹木も爽風と同じく物語の世界に浸ることが好きで、すぐに彼女と仲良くなります。その一方で、「この世界の神様になりたい」と意味深な発言をする一面もありました。

生徒会の手伝いをしていた爽風は偶然、笹木に関する衝撃的な「現実」を知ってしまいます。それは、笹木は3年前に図書室の窓から飛び降りて意識を失い、現在も眠り続けている生徒であることでした。

爽風は笹木を悲劇から救うため、「神様」という言葉の意味と彼が死を選ぼうとした原因を探し始めます。
しかし笹木を救うには彼のことだけではなく、爽風自身の学校や自宅での悩みとも向き合う必要がありました。

笹木の過去を紐解いていくうちに、彼も爽風と同じく身の周りの「人間関係」で非常に苦しめられていたことが判明します。
自分は他人にどう思われているのかわからない。優しさは薬にもなるし、猛毒にもなる。こういった爽風と笹木の気持ち、私もよく知っている。

人付き合いって正解がないから、相手のことを考えて行動してしまうととても息苦しい気持ちになります。爽風も笹木も自分より他人を優先し過ぎて行動していたことが、それぞれの「生きづらさ」の原因になっていました。

人の気持ちを考えるって難しい。
どれだけ考えても答えは本人の中にしかない。
痛みも、苦しみも、喜びも。
聞いて初めてわかることがたくさんある。

爽風は生きづらさを乗り越えるため、これまでは避けていた友達や家族と「会話」で向き合うことを選びます。
本音を話したことによって、友達側の考えや意外な姿を知ることができたし、家族には爽風の理想をしっかり伝えることができました。

会話を通して、相手の気持ちや価値観の一致を確かめる。私も人と話すことは苦手な方ですが、本当の気持ちを話すことによって変わる世界もあるんだなと思いました。

また今作を象徴する「神様」という言葉には、「自分の考えを大切にすること」という意味が隠されていたと私は思いました。
人間の数だけ、考え方の数だけ「神様」は存在する。だから今作のタイトルも『図書室の神様”たち”』となっていたんだなと思いました。
世の中には、多種多様な考えがあるから生きづらさを感じてしまうこともある。一方で「楽しい」と思える時間も生まれていく。そんなことを強く感じた作品でした。

私も理不尽なことばかりの現実にいるのが嫌になって、様々な物語の世界へ逃げたくなることがよくあります。なので爽風と笹木が物語の世界を愛する気持ちは非常によくわかりました。

でも場合によっては、理不尽な現実と戦わなければならない時だって少なからずあるかと思います。今作では「逃げる」以外の選択肢を学ぶことができました。

他人の意見に左右されない自分だけの考えを持つ。自分だけの考えをはっきりと人に話してみる。勇気のいることではあるけれど、これらってすっごく自分を成長させるためには大切な行動だなと思いました。

心に溜まっていくもやもやとした感情が、クライマックスで一気に晴れていく、非常にいいよさんらしい表現が味わえた物語でした!

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★過去にも1冊いいよさん作品の感想を書いているので、興味があれば下記の記事もぜひ。

(こちらは「家族の形」を描いた物語で、今作とまた違う雰囲気が味わえます)

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