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長野解剖合宿記 2023/12/26

 ふたたび参加したことについて、昨年度の知人はなかなか気付いてはくれなかった。ひとえに影が薄いというのもあるのかも知れないが、その後歩きながら本を読んでいたときに気付いてくれたのだから未だ希望を持つことは出来る。
 昨年度この合宿に参加したときは、同学年のTとNと同じ部屋を割り振られ、そこで燃料切れで暖房が働かずに室内温度があわやマイナスへと突入しかかったことがあった。
 今回は宿泊地がかなり動いて小諸から佐久へ、調べてみるとなかなかよい旅館になっている。それに触発されたのか申し込みが相次ぎ、しかしその中でも上手く抽選に通ることに成功した。
 そして当日。スーツケースに詰め込んだ荷物に加えて痴人の愛、レパントの海戦、陰影礼賛、文章読本などを持って集合場所へ向かう。かなり早めに集合場所の鍛冶橋駐車場へ到着し、バスに乗り込んで本を開く。辺りを見回すと、かなり見知った顔が並んでいる。昨年度同室だったTにN、忘れ物をしたり落とし物をしたりと事件を起こし続けてあわや強制送還となりかけたO、同班だったK。しかし誰も僕には気がつかない。それもそのはず。Nを除いてみな3~5回参加したベテラン達。1回のみの僕の顔を覚えているはずはない。また、別にバスの中で思い出されても逆に困ってしまう。せっかく時間があるのだから、バスに揺られて本を読みたい。昨年は酔わなかったのだから大丈夫だと調子に乗って陰影礼賛を読んでいたのだが、いつの間にかバスは発車、30分ほど経ってたちまち気分が悪くなる。本を閉じ、ひたすら堪え忍んでなんとかサービスエリアに到着した。
 そこから更にバスに乗って2,3時間。小諸に到着した。けれども、辺りを見渡しても雪など1欠片も見当たらない。おかしい。昨年は何㎝も積もった雪に足を取られてOが激しく転倒していたのに、今年はそれすら見られないというのだろうか。彼が転ぶのは、毎年の恒例行事なのに……
 昼食後いつもの山へも行ったのだが、やはり雪は殆どない。いちおう申し訳ばかりに日陰に積もった雪を見ると、なにやら微妙な光景に顔を顰めざるを得ない。
 凍った池の脇を通りすぎると、昨年度は見ることのなかった動物の糞が多くある。昨年は雪が多く降り足跡を見ることの出来た代わりに、雪に埋没してしまい糞を確認することは出来なかったのだ。
 テンや鹿の糞などを見ながら進んでいるうち、昨年に引き続きOが転倒した。相も変わらず何もないところで。毎度の光景ともなったそれに注意を払う人は誰もいない。そのまま前進し続け、班ごとに分かれて監視カメラを設置しにかかる。
 これも例年の光景で、初日に動物の通りそうな場所へカメラを設置、2日目に解剖実習に携わって最終日にカメラの映像を確認するのだ。もちろんこのカメラに動物が写っているとは限らない。回収に来た先生のみが映っているときだってざらにある。けれども、だからこそ動物が映っているととても嬉しいのだ。
 さて。僕は3つある班の中、2班に配属となったわけだが、どこにカメラを設置しようかと考えているとき、ふと谷底に倒れている丸太の上に雪が積もっているのに気がついた。その雪に足跡が付いている。G先生曰く、このあたりの雪は3日ほど前に降ったものだそう。ということは、3日の間になにかがここを通ったということ。先生曰くテンのように見えるそうだが、3日で1回しか通っていないということはそこまで使われる道ではないためカメラを設置したときに通る確率は些少だという。
 けれども、班員の誰かがこう言った。もしも写真が撮れたなら、その丸太の上をあるくテンの写真は、最高にばえるよね(ほぼ原文通り)と。そんなことを言われてしまっては、猪突猛進を第4第5の坐右の銘とする僕は(ちなみに第1は「石橋も叩いて渡れ」)引くわけには行かない。幸い、同じ班であったOも同じ意見のようで反対意見の出ないうちに即断即決、倒木のよく見える位置にカメラを設置する。
 ほかの二班もカメラを設置し終わったようで、しばらくして全員がイノシシのヌタ場跡に集合。例年であれば雪を踏み踏み進行するはずなのだが、どこにもそんなもの見当たらずせいぜい川にツララがある程度。昨年のように坂道で誰かが転倒するといったこともほとんどなく、バスまで帰還した。
 その後はT先生が小諸にてハクビシンのフィールドサインを教えてくれるのだが、やはり雪がないためか数が少ない。昔は民家の屋根に数百匹が生息していたとのことだが、やはり空き家が増えていることもあって食べ物が少ないのだろう。山に戻っていっているのか。
 ところで、先生の話によればハクビシンの個体数減少に反比例するかのようにアライグマの生息数が隣の軽井沢で急上昇しているらしい。一度は見てみたいものだが、野山にアライグマしか生息しないのも非常に困るので、ぜひ罠で駆除を進めていってほしい。
 その講義が終わったころには、もうすっかりと日が暮れている。例年であればこの講義は宿泊地で行っていたのだが、ここは小諸で宿泊先はおとなり佐久市。かなり距離もあるようで、ついた時にはまさに一寸先も闇。
 たおれこむようにして旅館に入り、荷物を部屋に置きに行く。今回宿泊先が変更になったことで皆喜んだが、この部屋が最も顕著な例であろう。なんといったって、燃料切れで暖房が停止するといったことがない。上着掛けに押し入れもあり、廊下に出ても全く寒くない。昨年を知っているものからすれば夢のような空間だ。
 食後、入浴してふたたび食堂へと集まる。食堂とはいっても多目的室のようなもので、ここで解剖の班分けが正式に発表されることとなる。僕は「G班」で対象はタヌキ。惜しくもテンを解剖することはかなわなかった。
 しかしながら、ほかの班員(ここでは解剖班のことを指す)の内訳が経験者(1回)と初心者であったのはまだよかった。
 他所の班ではあるが、常連が参加直前に体調を崩したおかげで初心者2人のみで小さく解剖しづらいテンの解剖に向かったグループもいたのだ。それに、タヌキもやったことはない。ハクビシンと比べてどのようになっているのか楽しみで仕方がない。

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