建築・都市レビュー空間 note「驟雨異論」|雨のみちデザイン

「雨のみちデザイン」は、雨のみちをデザインするタニタハウジングウェアが、「雨」を切り口…

建築・都市レビュー空間 note「驟雨異論」|雨のみちデザイン

「雨のみちデザイン」は、雨のみちをデザインするタニタハウジングウェアが、「雨」を切り口にした建築家や研究者へのインタビューを、2012年より発信しているウェブマガジンです。建築の時評を中心に批評の場として企画されている連載「驟雨異論」をnote・驟雨異論として発信していきます。

最近の記事

都市のシナリオを書くのは誰なのか TEXT=太田佳代子 #01

 朝の情報番組を見ていて、思わず箸の手が止まった。いま人気の就職希望先は圧倒的にコンサルだというのだ。もはや金融系でも広告系でもなく、コンサル。業界的には戦略系コンサルと言うらしいが、シンクタンクをもつビジネスコンサルタントの存在感が強烈らしい。この調査、東大・京大が対象だから偏ってはいるが、自他ともに最優秀と考える若者たちがどこを目指すのかにはそれなりの意味がある。 で、ランキングの1位から7位までがずらりコンサル。しかも野村総研以外、オール外資系だ。へぇ、いつの間

    • 建築表現とノスタルジー TEXT=山本想太郎野(建築家) #04

       建築専門家にとって「建築」の少しだけ外側になってしまっている領域を「建築の大気圏」と名付け、そこにある事物から、建築と社会の関係の可能性を探るシリーズ。最終回の今回は、建築に流れる時間について、「ノスタルジー」という言葉を通して考えてみたい。 ノスタルジーとどう向き合うか 社寺のような本格的な古建築だけでなく、古い民家、廃墟など、時が刻みこまれた建物やその痕跡には、えもいわれぬ魅力がある。私自身も、いとも簡単にそれらに心ひかれてしまうことは否定できないのだが、その度に、建

      • 設備との距離感 TEXT=山本想太郎野(建築家) #03

         建築専門家にとって「建築」の少しだけ外側になってしまっている領域を「建築の大気圏」と名付け、そこにある事物から、建築と社会の関係の可能性を探るシリーズ。「住宅の後付けバルコニー」「設計者を選ぶというプロセス」に続けて、今回は「建築設備」をとりあげたい。 近代建築と設備  近代以降の建築とそれより前の建築の違いは何か。鉄筋コンクリートや鉄骨・ガラスといった新素材の登場、あるいは地域性や歴史性といった要素が消失した合理性、といった大転換はたしかに建築の歴史上特筆すべきものであ

        • 選ぶものと選ばれるもの TEXT=山本想太郎野(建築家) #2

           建築専門家にとって「建築」の少しだけ外側になってしまっている領域を「建築の大気圏」と名づけ、そこにある事物から、建築と社会の関係の可能性を探るシリーズ。前回は「住宅の後付けバルコニー」をとりあげたが、今回は概念的な大気圏にあるものとして、「設計者を選ぶプロセス」について考えてみたい。 「設計者を選ぶプロセス」の冒険性 「建築をつくるのは大変」なのは間違いない。たしかに建築が建つまでのプロセスや技術はとても複雑で、建築主自身がそれをすべて取り仕切るのは至難の業である。という

        都市のシナリオを書くのは誰なのか TEXT=太田佳代子 #01

          バルコニックカルチャー TEXT=山本想太郎野(建築家) #01

          上写真:南面に並ぶ後付けバルコニー。明らかに建物とは違う周期で更新されている 連載テーマ「建築の大気圏」 戸建て住宅の改修計画の際によく問題となるもののひとつに、後付けバルコニーがある。鉄やアルミ製のフレームでできていて、外壁にとりついている、あれである。特に、新築時ではなく後から設置されたと思われるようなものの場合、その違法性や危険性ゆえに撤去したり改修したりせざるを得ないこともあるのだが、そんな時にはいつも、もやもやとした感覚が心に残る。専門技術者の責任としてはそうすべ

          バルコニックカルチャー TEXT=山本想太郎野(建築家) #01

          負担が作り出す「コモン」 TEXT=野沢正光(建築家) #04

           2021年の春に至りました。驟雨異論への寄稿の誘いを受けすでに約1年、今回にて終わりとなります。ありがとうございました。この1年、驟雨はまさに終わりの見えないコロナと並走することとなりました。息をひそめるような長く終わりの見えない時間、これがこれからの社会に何をもたらすのか、何ももたらさないはずはありません。今は何もわかりません。ただし、このこと自体が大きな変革のはじまりであることは間違いがないことであり、私たちの在り方に大きな変革が求められている、そして私たちはその大きな

          負担が作り出す「コモン」 TEXT=野沢正光(建築家) #04

          責任と成果 TEXT=野沢正光(建築家) #03

           ご存じの通り建築確認申請についての考え方、運用の仕組み、姿勢はこのところ大きな変貌を伴っている。 2005年に構造計算書の改ざんが露呈した耐震強度偽装事件がひとつのきっかけであるのだろう。以降きわめて性悪説的な法の運用が普通のこととなった。建築士の定期講習義務付けもこれに伴い始まっているが ここで行われている講習内容は明らかに「法に徹し、それに悖ることを戒める」性悪説に基づくものだ。  それほど世の建築士は悪行をなしているのか。 ちびまる子ちゃんのセリフに「私は褒めても

          悪意へ誘導する法とは? TEXT=野沢正光(建築家) #02

           鷲田清一氏の朝日新聞朝刊の人気コラム 「折々の言葉」、 5月 10日は 奥本大三郎氏のエッセイ 「蝶の唆え(おしえ)」からの引用である。 「嫌なことを我慢することはない。今まで通りでよいのだ。第一、お前には、嫌なことなんてできないし、続かないではないか。」そして、外題で引いた部分の後に 「人間の悪意を想定した法律書なんかより美しい文章を読もう」というくだりがあると解説する。改めて気づかされる。奥本氏の指摘によらずとも、一般に法律は人間の「悪意」を想定しているのである。  

          悪意へ誘導する法とは? TEXT=野沢正光(建築家) #02

          歩道と道路への懐疑 TEXT=野沢正光(建築家) #01

           今はこの原稿の締め切り間近、コロナ禍真っただ中である。在宅蟄居しながら 浅田次郎の最新作、『 流人道中記』を読む。面白い。批評のこもるエンターテインメントである。徳川末期長期政権の中で停滞しきった「世間や社会を疑う人」としての主人公が登場する。 「260年も続くと安住して懐疑しなくなる、現代も、懐疑する人がいなくなったからさ」 著者は新聞のインタビューに答えている。「世間や社会を疑う人」としての主人公・ 流人青山玄蕃はこんなことをいう 「社会が堕落したから法が現れた、孔子の

          歩道と道路への懐疑 TEXT=野沢正光(建築家) #01

          「紐状の都市エレメント」がつくるコモンズの再生 TEXT=北山恒(建築家) #04

          ムラと都市  私のコラムは真壁智治の渋谷再開発を扱った著書『臨場』に反応して書きはじめた。それは、工事の作業進捗に合わせて「場当たり的」に生成される仮設構築物のなかに「ブリコラージュ」としての新しい「公共空間」の登場を予見し、「これからの建築」をそこに見る。そしてそれは、この開発工事が完工し「予定された建築」に支配されたとたん蜃気楼のように消えてしまった、と書かれていた。渋谷の巨大再開発の途中に裂け目のように現れた出来事なのだが、これは都市空間が商品化され管理する構造が強く

          「紐状の都市エレメント」がつくるコモンズの再生 TEXT=北山恒(建築家) #04

          クリストファー・アレグザンダーの『人間都市』(a human city)を知っているか? TEXT=北山恒(建築家) #03

           前回で「渋谷問題」は「コロナ」の力を借りて、未来都市の話まで飛ばしてしまった。でも、そこで「渋谷問題」を追いかけていくと、オフィスビルという不動産商品を都市の主役にした「シカゴモデル」という、経済活動の結果として生まれる都市モデルの問題に入っていく。事物が人の認識を超えて巨大になると日常とは異なる次元に入ってしまうので、それを評価するのが困難になる。私たちは現代都市という枠組みの中に生きているので、その外部からこの都市のありようを批評するのは困難である。都市を評価するには、

          クリストファー・アレグザンダーの『人間都市』(a human city)を知っているか? TEXT=北山恒(建築家) #03

          未来都市はムラに近似する TEXT=北山恒(建築家) #02

           「驟雨異論」というお題だから、「驟雨」が何か感じてなくてはと思う。真壁智治さんからこの Webコラムの話をいただいたのは、今年の1月だった。長く工事中だった渋谷駅の仮設が取れた時期であったのと、何よりも真壁さんの渋谷再開発を扱った『臨場』が上梓されたので「渋谷問題」で行こうと考えた。 1800字という字数制限があったので、なんだか中途半端な「異論」になってしまった。それで、「渋谷問題はまだ続く」とした。ところが、その後「コロナ」が「驟雨」となっている。今回は字数制限が外され

          未来都市はムラに近似する TEXT=北山恒(建築家) #02

          渋谷問題 TEXT=北山恒(建築家) #01

           まずは 真壁智治さんが提起した 「渋谷問題」について書こうと思った。それは真壁さんが出版した 「臨場/渋谷再開発/工事現場」(平凡社)を読んだからである。この本を読んで、渋谷の再開発を毛嫌いして、渋谷から足を遠避けていたことを後悔した。この数年、できるだけ渋谷に行く用事をなくしていた。どうしても行くときは、最短ルートで最小の滞在時間にしようとしていた。駅という公的なサービスを行う都市施設は、私たちの日常生活にかかせない存在であるが、それに付随する商業施設やオフィスは駅を利用