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HIPHOPと都市・まち〈戸塚編〉ドリームランドとドリームハイツとHIPHOPドリーム

行ったこともない遊園地に魅了されている。

住んでいる大船駅からモノレールで8分、かつて「ドリームランド」という遊園地があった、らしい。

その存在を知ったとき、その存在は消え失せていた。

横浜ドリームランドが気になる。
どうにも気になる。

ドリームの残り香を求めて、ドリームハイツ行きのバスに乗った。

ドリームハイツとサ上とロ吉

きっかけは、ドリームランド併設のその名も「ドリームハイツ」という団地出身のHIPHOPアーティスト、サイプレス上野(サ上)とロベルト吉野(ロ吉)だった。

2000年にあらゆる意味で横浜のハズレ地区である『横浜ドリームランド』出身の先輩と後輩で結成。(サイプレス上野とロベルト吉野 公式HPより)

私が鎌倉市に引っ越してきた2010年にはすでにドリームランドはなかったので、ラジオなどでサ上が発する「ドリームランド」という響きにもピンとこず、架空のHIPHOP王国なのだろうと勝手に思い込んでいた。

大船に住んでみると、車で移動するたびになにやら戸塚付近に怪しい塔が目に付くようになる。

なんだありゃ、宗教施設か!? とググってみると、「横浜薬科大学 図書館」…?ん? さらに謎が深まる。そして、その横には「ドリームハイツ」という名前の交差点が、これは気になる。

でもなんとなく放置していたところ、「ドリームハイツ夏祭り2019」にサ上とロ吉が出演するというホットなイベント情報が飛び込んできた。
(結局雨の順延でお二人のステージはなしになったのだけれど)

ドリームハイツに入れるチャンス! と行ってきた。

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ひと気のなかった広場に続々と老若男女が集まってくる。

団地の夏祭り初めてだけれど、このこじんまりした規模感と一体感、良い、すごく良い。

興奮のあまり小銭をぶちまけたよそ者の私の小銭をみなさんが総出で拾ってくださる。人情に胸熱。

小上がりになったステージでは団地の子どもたちのダンスをお披露目。これ、よくある光景なんだけれどほかのローカルイベントと違うのは、ダンスのレベルが圧倒的に高いこと。
(舞台制作時代にプロのダンサーとお仕事しているので若干はわかる、つもり)

あと選曲がDOPE(笑)。

そして音響機材もレベルが高い。

これも団地からHIPHOPスターが誕生しているDNAなのかと勝手に納得。

この日は見られなかったサ上とロ吉のステージを疑似体験すべく見たこの2017のもようがとてもよくて嘘じゃなく感涙。

育った団地で凱旋ライブ、白い手袋ひらひらさせて踊るおばあさんや子どもたち、まさにブロックパーティー。うつくしい。

さて、この楽曲のタイトル「WONDER WHEEL(ワンダーホイール)」でピンときたあなたはドリームランド通。

そう、ワンダーホイールはドリームランドにかつて存在した観覧車だ。

なんだかはちゃめちゃな動きをするらしい。
「横浜ドリームランドファンクラブ」という私設サイトがあって(このサイトがまたすごい情報収集力!)そちらが詳しい。

このほかにも、「大海賊」や「コンドル」「ミュージックエキスプレス」と言ったドリームランドの乗り物名や、ちなんだ商店街「ドリーム銀座」などが、サ上とロ吉のアルバムタイトルに使われている。

このMVもやばい。地元愛。

夢の国の跡また夢作り出す。
何も知らない世代にここからパス。
「ドリームアンセム」

ドリームランドとドリームハイツ

さて、ドリームランドが気になってしょうがない私は近所の友人やお店のお姉さんに「ドリームランド行ったことあります?」って聞いてまわる怪しい人だった。

わかったのは若いアベックの定番デートスポットだったこと。

そして、絶対に上がるのが「ミュージックエキスプレス」の名物、ヘイヘイおじさんだということ。いまだにインタビュー記事が続々と出ているほどの地元の有名人である。

フィンガー5の『学園天国』を歌いながら仕事をしていたらそれが話題になって、営業時間中ずっと歌い続けていたという伝説のおじさんだ。ずっとドリームランドの近くに住んでいるらしいのも胸熱。

「横浜ドリームランドファンクラブ」によると、「ミュージックエキスプレス」は現在なんとクウェート『Kuwait Magic Island Park』に現存しているようである。これまた熱い。

さて、話をドリームハイツに戻そう、シュタっ!

1970年から経営悪化によって段階的にドリームランドの敷地売却が行われ、
売却された土地にできたのが「ドリームハイツ」だ。

まず、名前がいい。大船駅から乗ったバスが「ドリームハイツ行き」でネーミングのわくわく感がもうすごい。

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巨大!

この写真どこから撮っていると思います? ふふっ、あそこしかないでしょ? ちょー言いたいけど伏線として置いときますね。

さて、ドリームハイツには「県ドリームハイツ」と「市ドリームハイツ」がある。

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1-4号棟が「市ドリームハイツ」、5-23号棟が「県ドリームハイツ」のようだ。

夏祭りが行われていたのは中央広場。

若干変形のスターハウスも見受けられる。

「市」と「県」ではデザインと色合いも異なっていた。

さあ、失われた遊園地とブロックパーティー、そして団地、
そろそろあなたもドリームの魅力に取り憑かれてきた頃だろう。

そう、このドリーム一帯には、目に見えて歴史が蓄積している。

残されたもの、更新されたもの、一部が受け継がれたもの、
その時間の揺れに酔いしれることができる稀有な場所なのだ。

残され、かつ受け継がれたもの、その代表格が「ホテルエンパイア」、現・「横浜薬科大図書館棟」である。

かなり大胆な用途変更だ。

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実は、横浜ドリームランドに隣接していた「ホテルエンパイア」は、
超高層ビルの先駆けとして有名な「霞が関ビル」よりも早い1965年に竣工している。

設計施工をした大林組のホームページにも、

建設省の高層建築物構造審査会の審査を通過した第1号、つまり、わが国最初の超高層ビルである。昭和43年に完成した霞ヶ関ビルより3年早く、超高層建築の先駆けとなった。
https://www.obayashi.co.jp/company/history/year_1965.html

と書かれている。

その展望室が、毎年年始に一般開放されていると聞き、夏祭りから半年間ずっと楽しみにしていたのだ。

(半年に渡って取材した記事なんて仕事でも書いたことがないので、自分でも自分のこのパッションに驚いている)

建物は4角形だが、展望スペースは8角形。窓は斜めに傾斜している。

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クラシックホテルらしいシックさと「桃山時代の文化の復元を標榜した」和風なデザインの妙。

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はい、そうです。伏線を回収しとくと、先ほどのドリームハイツの空撮はこちらからのものでした。

薬科大にはドリームランドの痕跡がほかにも残っている。

「屋内体育館と屋内テニスコートは、ドリームランドに隣接されていたスポーツ施設をそのまま活用、当時のクラブハウスはキャリアセンターとして就職相談などの施設になっている」らしい。

当時のボウリング場が数レーン残されていて学生だけが使える!

というまさにドリームな活用も。

(残念ながらレーンは、この記事の後2019年11月に取り壊されてしまったらしい)

ここから見たかったのが、ドリームランドの旧敷地。

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おそらくこのくらいの範囲だと思われる。

ここに遊園地があったなんて、言われなきゃわからない。

開園当時から残るものはまだある。

それが、

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相州春日神社と、

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神鹿苑だ。

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鹿がいる。たくさんいる。

相州春日大社のホームページにも

当春日神社は、昭和三十九年八月に奈良春日大社の 御分霊を勧請し、ここ俣野の地にご鎮座なされました。(中略)此処に横浜ドリームランド開設されるに当り、開発の神殖産興業、安産の守護を仰がれる春日大社の御分霊を勧請し、奉斎されたものであります。

とある。

なぜ、奈良の春日大社か?

奈良県民ならご存知かもしれないが、
奈良にもかつて「ドリームランド」があったのだ。

こちらも私設の応援サイトがある。すごい。

このあたりには、本気でディスニーランドを誘致しようとした男、
松尾國三の物語があるのだが、またの機会にしよう。

夢破れたとはいえ、TDRの20年以上前に壮大な夢に挑戦した人物、
尊敬に値する。TDR開園の翌年に亡くなったというのもなんだかすごい。

R.I.P.

実はヘイヘイおじさんの入園のきっかけは、奈良ドリームランドに勤めていた妹さん、という話もあるのだがこれもまた、置いておこう。

夢の跡地で続くドリーム

最後に、ドリームな土地を継いだものたちを紹介しよう。

まず、「俣野公園・横浜薬大スタジアム」だ。

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時は戻って2019年夏。

夏祭りに気合い入れて早く着きすぎた私。

ちょうど甲子園予選ー激戦の神奈川県予選ーが行われていたので観戦。
何気にここ数年よく見に行ってるので、完全におっさんである。

とか言いつつ、ここの見学も狙ってたことは認める。

そう、ここはドリームランドの跡地なのである。

ドリームランドの跡地が高校球児の夢の舞台へ…沁みるでしょ。

跡地にはほかに、お墓もある。
人間の生の夢の跡、これもまた、いいではないか。


幻の遊園地を追いかけてクウェートにまで行きかねない自分のパッションが、
なんだか恐ろしくもあるのである。


勝手に連載シリーズ「HIPHOPと都市・まち」第一回はこちらに。



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