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バーコード刑事 (4)

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冬は嫌いだ。
なぜなら、人は、凍てつく世界から身を守ろうと衣を重ねるからだ。背中は丸まり、無口になり、殻に閉じ込められたかのような静寂の日々。俺が長年探し求めているものさえも、身を潜めてしまう。
人には、美しさを愛でる時間というものが必要なのではないだろうか。見たくもない醜いものが溢れた世界で、人はそれぞれ戦っている。醜さに汚される事がないよう、美しいものが必要なのだ。美しいものの対象は人それぞれである。音楽、絵画、風景、または、愛する人であったり。とにかく、何かひとつでもあれば、人は日々、醜い世の中でも戦っていけるのではないだろうか。
俺の場合は、音楽でも、絵画でも、風景でも、愛する人でもない。脚である。美しい脚である。
美しい脚とは何か。これも人それぞれ定義があるだろう。すとんとまっすぐに伸びた脚が美しいと感じる者もいれば、形よりも肉付きに魅力を感じる者もいるだろう。俺の個人的な美しい脚の定義は、すらりと長めで、ふくらはぎは程よい肉付き、膝から太股にかけて滑らかなカーブを描き、全体的に艶やかな柔らかな肌触り、というところだ。美しさを言葉で言い表すのは難しい。理屈よりも直感なのだ。そんな美しい脚を、俺は探し求めているのである。

天才ハッカーと呼ばれる俺でも、今日の案件は厄介だった。ようやく仕事を終え、自宅に戻ったのは真夜中だ。疲れで朦朧とした意識の中、玄関の鍵を開け、明かりをつける気力もなく、奥の寝室へとたどり着き、ベッドに倒れこんだ。泥のように眠るとは、このことだろう。自らの正体をなくし、深い夢に沈む。
眩い光が窓から注がれ始めた時、俺は目を覚ました。昨日、どうやって自宅へ戻ってきたのか、うっすらと思い出しながら、体を起こす。
自分の身体に、毛布がかけられていた。昨晩は、毛布をかける気力もなかったように思うのだが。
ベッドから起き上がり、まずはシャワーでも浴びようかと寝室のドアを開ける。その瞬間、懐かしい香りに包まれた。味噌汁の香りだ。キッチンから響く、何かを刻む包丁のリズミカルな音。
まるで、実家に戻ってきたようだ。母親が来ているのか。いや、俺の住所は知らないはず。
おそるおそるキッチンへ近づく。何者かが、こちらに背中を向けて、料理を作っている様子。
レースのエプロンを身につけ、短めのスカートから伸びるすらりと長い脚。 程よい肉付きのふくらはぎには紺色のハイソックス。膝から太股にかけては艶かしい曲線を描き、柔らかく触り心地の良さそうな肌質。思わずため息が出てしまうほどの美しさ。理想の脚だ。
そして、この脚には見覚えがある。
「目覚めましたか」
くるりとふりかえったのは、バーコード頭で口ひげを生やし、眼鏡をかけたおっさんだった。

To be continued.

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