デジカメ

 先日、デジカメが壊れてしまったので、近所のリサイクルショップに行って、中古のデジカメを八千円で買った。家に帰って、さっそく説明書を読みながら、操作の練習を始めた。動画モードにして、ガチャガチャいじくっていたら、不意に動画が再生された。どうやら、それは前の持ち主が消し忘れた動画らしい。私は、他人の私生活を覗き見するような、ワクワク感を胸に、その動画を見始めた。
 薄暗い部屋の中、眼鏡を掛けた男が映し出された。それは、顔が青白く、やつれていて、大分疲れた感じのする男だった。年は、四十ぐらいに思われた。
 私がなおも見続けていると、男は、何やらカメラに向かって正座して、ブツブツしゃべり始めた。男がなんと言っているのか、ざあざあという雑音が酷く、私にはまるで見当もつかなかったが、けれども、男の陰鬱な、沈みきった表情から、彼の悲壮の覚悟が伝わってきた。私は、この後、男が何をしでかすのか、何となく予想がついた。
 案の定、男は、立ち上がると、部屋のドアまで歩いて行き、ドアノブに白いタオルを掛けた。そして、タオルの端と端をぎゅと結び合わせて輪を作ると、その中に…。
 私は途中で電源を切った。


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