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味噌汁、腐る

この時期だ。毎年5月頃。
夏の訪れを感じる、汗ばむ季節──味噌汁が、腐る。

冬というのはいい。
洗濯物を30分ほど放置していても生乾きの匂いになりにくいし、台所のコンロの上に置きっぱなしの味噌汁が腐らない。みんながちょっと元気がないから、自分の怠惰さが少しだけ許されたような気持ちになる。

大雪に見舞われる地域に住んでいる方々に向かって軽々には言えないけれど、冬が好きなのだ。

そして冬が去り、三寒四温を行ったり来たりして春を過ぎゆき、初夏になって半袖のTシャツが寝間着がわりになるころ。気づかないうちに汗ばむ気候になっている。

一人暮らしの冷蔵庫には鍋をそのまま突っ込むことができなくて(というか、実家は涼しく風通しのよい台所があったのでそうしていたのもあり)、作りすぎた味噌汁はコンロの上に置きっぱなしにしてしまうわけで。機密性の高いマンションの、風呂場と隣接したキッチンはとんでもなく蒸し暑い。私が起き出す昼頃に、味噌汁が悪くなってしまっていた。あーあ、もうさいあく。なにもかもむり。

季節の移ろいというものが曖昧になっていると、人は言う。
春夏秋冬をパッキリと四季だけに識別できることが日本の美しいところだったのに、異常気象のせいで季節感がバグっているのだと。ほころぶ蕾、吹く風、散る花びらに四季を感じたい。それはそうだ、風流だもの。風の匂いの変わったのに、春の訪れを感じるのが「おつ」ってもんだ。

いつも「台所の味噌汁の味が変」という雅もへったくれもない出来事で、初夏の訪れを知る。まったくもって、やってられない。今年こそ、味噌汁を冷蔵庫に入れられる生活をしたいし、あるいはいいかげんに1人前の味噌汁を作れるようになりたい。

今年も夏が来た。
きっとまた、ふと気がついたら秋風が吹いているのだろうな。