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ローカルの食と人を繋ぐ、オンライン料理教室の可能性

食材の卸先が減ってしまっている農家や漁師、加工業の方々。店を開けるに開けられず困っている料理人の方々。お弁当が増え、自炊の内容も偏ってしまっているみんなの食生活。

そんなみんながお互いちょっと助かる、ローカルの食材とシェフ、食べる人を繋げるオンラインキッチンを、4月から2回開催してきました。

開催してみて思ったことや、気づきをまとめておくことで、ローカルで飲食に携わる方々への参考になるといいなと思っています。

ことの始まりは友人シェフのお店のオープンの延期

もともと僕の友達に、地元新潟県糸魚川市でフレンチをやっていたシェフ(以後ミツノリ)がいました。そんな彼は、自分のお店を持つという目標を実現させるべく、3月末に元々働いていたレストランをやめ、4月末から新しくできた市のシェアスペース「キターレ」の中に、農家の奥さんと一緒にフレンチレストランをオープンする予定でした。

ですが、新型コロナウイルスの世界的な流行の影響を受け、2月末から少しずつ僕らの生活や経済活動には徐々に制限がかかるようになっていきます。特に飲食店はそのアオリを直にうけ、多くの店舗が自粛ムードに。

その後、4月7日に出された緊急事態宣言。

ギリギリまで判断を迷っていた彼もその報を受け、お客さんの安全性を第一にと、遂にオープンの延期を決めました

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料理を通して、この状況だからこそできることは?

その連絡を受けた時に、「英断だし、しょうがないよな」と残念がる気持ちもありながら、なにか手伝ってあげたいなと思うおせっかいな気持ちが、勝手ながらふつふつと湧いてきました。

そこから「オンラインで料理教室やろう」に変わるのは結構早かったと思います。

元々、ミツノリがはじめようと考えていたお店の名前が「つなぐキッチン レ・ジョン」。フランス語で人々という意味を持ちます。人と人、地域と人、生産者とお客様...自分がつくる料理を通して、たくさんの人たちとつながりたい、つないでいきたい。そういったコンセプトを持っていました。

今の社会状況の中で、お店もオープンできず、提供できるリアルな場所はまだない。

でも実際に、

「美味しい料理を家庭でもつくりたい」

「誰かと話しながら料理を食べたい」

「詳しい人から食材のことをもっと知りたい」

といった、人が本質的に求めていることがあるのは事実。

であれば、コンセプトである人を繋げることすら、“オンライン”でもできるんじゃないか。そして料理教室という座組みであれば、“シェフが直接料理を提供する”という形以外で、彼の持っている素晴らしい料理というスキルがお客さんのためになるんじゃないか。そう考えたのです。

また、彼の奥さんは農家で、飲食店の自粛の余波で実際にお店への卸が減っている現状などを聞き、そうした食材の行き先を見つけるため、PRする場にもなればいいなと思っていました。

そうしたこっちからの提案にミツノリもいいね!と言ってくれて、オンラインでミーティングをすることに。あれよあれよという間にスケジュールが固まり、イベントの開催が決定しました。

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実際に開催してみて

①準備:コンテンツ作成、各種告知などの準備
ミツノリも地元でイベント的に料理教室を開いていたこともあり、ある程度勝手がわかっていたため、料理の内容や料理中の進め方については一任しました。主にコンテンツの部分を練ってもらった形です。

その代わりオンライン上で何かすることには慣れていなかったので、自然と僕がそれ以外のイベント設計や、Facebookページの立ち上げ、クリエイティブ、集客告知などを担うようになりました。ここら辺は元々仕事でやっていたので問題なく進めることができました。

②集客
告知はこちらからすごく積極的にしたわけではありません。Facebookページに投稿し、自分のタイムラインにも記事を投稿、Instagramのストーリーで3度ほど投稿、twitterでの投稿、元々興味のありそうな人に個別での連絡を若干した程度です。元々目の行き届く範囲を考え、少人数でやろうと思ったことも、あまり積極的に打たなかった理由です。

◾️初回開催時のイベントページ

◾️2回目開催時のイベントページ

2回目はありがたいことに、なんと4組がリピーターとして参加してくださいました。

準備:開催前日まで
当日使うzoomのURLを事前に発行しておきます。無料版だと40分で切れてしまうので、有料版を契約しました。また、初参加の方にはzoomの使い方から合わせても細かくお伝えしていきました。

2回目は、初回にもらった意見としてあった「料理にあうお酒を知りたい!」という要望にお応えして、この段階でおすすめペアリングワインを送っていました。

③料理教室当日
参加者が徐々にzoomに集合していきます。初回はみんなカメラの位置がしっくりこず、そこで時間をくうことに。2回目はあらかじめこの準備の時間をとって、開始を早めました。

まずは乾杯からスタート。乾杯して少しお話をすると、変に気負わず料理もできるのでいいですよね。参加する人の心の負担を下げるのって、何よりも大事でよりこういうクローズドなイベントの時は、主催者がそこまで気をつかわないといけないと思っています。

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料理を実際にスタートした後は、シェフのガイドで進んでいきます。進行の中でもポイントを抑えることは意識していました。

・シェフの手元のカメラで料理工程をわかりやすく
・チャットにリアルタイムで手順を載せる
・チャットに分量を再度掲載
・分量を、グラム換算と大さじ小さじ換算で伝える
・都度「みなさん大丈夫ですか?」の確認→しっかり一人一人の状況を見ながら対応することが何より少人数で実施する価値であるため、自分がオペレーターとなってみんなの状況を常に見ていた
・盛り付けのコツや、シェフによる仕上がりのチェックなど逐一サポート

終了後は料理の豆知識を聞きながらみんなで食べたり飲んだり。初回は食べるまでが長くなってしまいましたが、2回目はレシピ自体を時間がかからないものにするという工夫もし、中だるみをしないように注意しました。

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④終了後

終了後は皆さんへその回のレシピ、また投げ銭用のURLをそれぞれに送付しました。お店とお客さんとの関係も、1対1のコミュニケーションが大事だと思い、感謝はそれぞれに送るということだけは意識しました。

また、レシピは参加者だけの特典しました。それはイベントに参加する=お店の食事を食べに行く、といった「そこで何かを体験する」ということに対しての付加価値になってほしいと思っていたからです。

確かにオープンソースにすることでの、良さもあると思うのですが、参加してくださった人が一番満足してもらい、一体感を持ってもらうことが、ミツノリの今後のお店にも活きてくると考えています。

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これからの時代の飲食店とお客さんの関係性づくり

今回実際にオンラインで実施したことによって、色々と見えたことがあります。僕は料理人でもないですが、面白いなと思った点がいくつかありました。

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①「身体性を伴うお店での飲食」から離れた料理人の価値の発揮の仕方
飲食店は基本、料理人が料理を出して、お客さんがそれを食べるというスタイル。ですが、オンライン料理教室の場合、料理人が料理の“スキル”を出して、お客さんが“料理して”食べるという新しい構造が生まれました。物理的な制約があり、これによって足を運べなかったお店を「擬似的」にも体感することができます。

②「オンライン」と「オフライン」を組み合わせた新しい関係性の作り方
今まではお店に行くことでしか、続くことのなかった関係性がオンライン料理教室を通して「オンライン」と「オフライン」を往復し、より濃い関係性になっていくこと。これは、料理教室で体験した料理を実際に食べにいくモチベーションにも繋がりますし、継続的にお店に触れ続けるタッチポイントにもなっていくと思います。

③料理人の腕を目の当たりにする機会に/ひと皿へのリスペクト
これまで料理人の腕は味で確認するほかなかったのですが、オンライン料理教室を通して体系だてて学ばれた料理人の叡智に触れることができるのが、面白い発見でした。家庭料理とは違う正しい火の入れ方、繊細な盛り付け。ただオープンカウンターで見るのではなく、説明も入ることでより確かな技術を感じることができました。料理は五感で味わうと言いますが、料理人へのリスペクトを含め、一つの皿が生み出されるのではないのでしょうか。

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お店とお客さんという一方的な(もちろん色々な配慮がされているのは理解している上で)コミュニケーションになりがちな中で、シェフと参加者という関係の元、インタラクティブなやり取りができるのが何より素晴らしい仕組みだと思いました。

オンラインを使うことで上がるローカルの底力

あのシェフがいる店に行きたいから、あの地域に行ってみようと思える人が増えていけば、ローカルの飲食店の新たな解というだけでなく、ローカル全体の魅力の底上げにもなると思います。

今回のように地元の食材×レストランの配信で、生産者への還元にも繋げることができますし、地元の○○×○○の組み合わせでできるオンラインでの発信には無限大の可能性があると思います。(勿論コンテンツがぐだぐだなのはダメです、参加者に失礼)

社会状況が大きく変化している中で、発信、売り方、人との繋がり方は変化していく必要があります。この生活が続き、みんなが今までを振り返り、消費の仕方も見直されていくはずです。その時に、「あの人がいるから買う」「あの人がいるから行く」あの人が間にいるからこそ生まれる消費というものの価値はより輝きを増していくのではないでしょうか。

短期的な利益にはなりづらいかもしれませんが、リアルでの接点が少なくなっている今だからこそできることを考えて、ローカルの基礎体力をあげていければ。自分もそこに引き続きトライしていきたいと思います。

ありがとうございました。

ぜひ新潟県糸魚川市に、そして彼のお店に足を運んでみてください。

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