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アニメ『CRY-SIS』に見る"VRにおける精神と肉体との乖離"についてのいくつかの事実

こんにちは。バーチャルYouTuberの赤坂まさかです。バーチャルアニメプロジェクトというアニメ制作プロジェクトで超監督を務めています。

今年5月にYouTubeで公開したアニメ『CRY-SIS[クライシス]』。シリーズ14話の総再生回数は8000回を超え(総集編含む)、現時点で44万再生のぽんぽこ24 vol.3のCMにて本作のティザー映像が採用されるなど界隈に大きな激震をもたらした本作。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLy_B7Tz8Pch7ErN1QunKsOx-kW3Dmeo6Q

バーチャルYouTuberやVRChatなどの流行で「現実の自分以外の別人格を仮想空間上に持つこと」が特におかしなことではなくなってきているこの時代に警鐘を鳴らすべき作品だと自負しています。

『CRY-SIS』あらすじ

物語のあらすじを紹介してみます(軽微なネタバレ含む)。

物語の主人公はアバター生命体である双子のサユとナユ。彼女たちは単一の"魂(=中の人)"を持つという稀有な存在。しかし、VEC(バーチャル・エモーション・キャプチャー)という技術の登場によって事態は一変します。

VECは仮想空間上では腕時計型のアイテムとして実装され、装着したアバターと"魂"とを直結し、多彩な感情表現を実現すると謳われ大流行しました。しかし、その実態はアバターと中の人との精神を"統合"するもの。特に現実と仮想空間での"精神の在り方"の乖離の大きいバ美肉(=バーチャル美少女受肉の略、男性が美少女のアバターをロールプレイすること)の人々を中心に"バ美死(=バーチャル美少女突然死)"と呼ばれる現象を引き起こしてしまいます。現実世界では、アバターに精神が移管されてしまい心が空洞になる"空っぽ化(Emo-pty)現象"が社会問題となります。

"空っぽ化"はサユとナユの"魂"である少女、マユにも襲いかかってしまいます。サユとナユは、VECによって自立した感情を獲得したことに喜ぶも、マユの"空っぽ化"を嘆きます。さて、双子はこの問題にどう立ち向かっていくのでしょうか。

本作はSFでありながら、近い未来に起こりうる「精神・肉体乖離問題」を描いたセンシティブな物語であると思っています。

第二人格への昇華

仮想空間上でのセカンドライフは、やがて現実より楽しくプライオリティの高い(優位な)ものへと昇華されていきます。これは、そういった体験をしたことがある人であれば誰しも感じうることだと思います。

人間は古来から精神と肉体が同一である状態が続いていました。その均衡状態がこの数年で崩れ始めているのです。一人格分のキャパシティしかもちあわせていない肉体(脳)はそれに耐えきれず、精神に異常をきたすのです。

では、その状態に陥った人間はどうなってしまうのでしょうか。

乖離により発生しうる問題

この項目は、心理学や医学に全く知識もなく書いているのであくまでもSF半分に読んでいただければと思います。

目が覚めて、夢と現実を混同してうわ言を言ってしまった経験、誰しもあると思います。そういった、仮想空間と現実の混同がまずは起こりうるでしょう。

ゲームと現実の混同なんてありえないと思うかもしれませんが、それはあくまで自意識とゲーム内での人格が別だと脳が理解できているから言えることで、仮想空間上での没入感の高いロールプレイが現実よりプライオリティの高いレベルで実現した時、脳が混同してしまうことは十分にありえます。

また、仮想空間と現実でのギャップによる鬱状態に陥ることも考えられます。

仮想空間ではかわいいアバターでちやほやされるのに、現実では散々。そんな時、現実生活を無意識に(深層心理レベルで)放棄してしまうことも十分考えられます。

仮想空間での生活が充足していくにつれ、現実生活はずさんになっていきます。周囲は心配をするも、当の本人は仮想空間での充実に捕らわれ問題意識も低い。仮想空間での生活に使う経済的・時間的・精神的コストが増えるにつれ、現実に割けるリソースは減ります。そういった中、ふと現実に立ち返った時、その絶望感は測れ知れないでしょう。この問題は現に起き始めています。私がソースだ。

これらは全て、『仮想空間での別人格』という自然にはありえなかったものが技術の進歩や倫理観の発展により生まれてしまったことによる必然的な対価であると思います。同じようなものに原子力エネルギーが挙げられます。

ちなみに、こういった多重人格は英語ではサイコパスと呼ばれます。

どうすればいいのか?

人間のみならず、生物はすべて快楽の多い、幸福度の高い在り方への移行に逆らえません。

「仮想空間上の理想の自分」は、人類史上常に追求されてきたものでもあります。ある時は戯曲によって、ある時は演劇によって、ある時は小説によって美しく魅力的な人格は描かれ、演じられてきました。しかし、より没入感の高いバーチャルリアリティの登場によってロールプレイはより高次のものとなります。人間はそれらから逃れられないのです。

抗うべくは、現実を疎かにしないこと。仮想空間上の自分と、現実世界での自分を意識的に区別すること。平たく、詩的にいえば、「仮想空間での自分にいつまでも恋をしておくこと」。これが大切なのです。

最後に、『CRY-SIS』の登場人物の台詞を引用しておきます。

「世界は本当はまるくって、それが自然なんだ! 地球や、月みたいに! 時計だって四角かったら回らないだろ! だから四角いものは良くないんだ! それになぁ!」
「.......それに、いまはまだ、そんなに未来じゃないよ」


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