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彼女に連れられ宝塚歌劇を観たら、完全に心を掴まれた話

大学生の頃、宝塚歌劇が観てみたい、と言う彼女の一言から始まった。

彼女はフランスからの留学生で、知り合ってから一ヶ月も経たずに付き合う事になった。

宝塚歌劇ってあれでしょ、何かあればすぐ歌う人達ですよね知ってます知ってますよそのくらい。でもその類には全く興味ないし、僕は芸術とは無縁の人生を歩んで来たし、フランス人じゃないから分かってあげられないんだ。ごめんよ。

あなたと初デートで観に行ったKyoto Experiment。舞台に並べられたシンバルを男達が真顔でゆっくり回して擦ると

ヴュオオオオオン...ピュィィインんっ...ポワンポワンワンワ〜ン

と鳴り出す。大小10個くらいのシンバルの音の羅列が織りなす宇宙の世界。男達は真剣な面持ちで入れ替わり立ち代わりながらシンバルを擦る。聴いている者たちも一切物音を立てずにその音を聴き入る。僕はゆっくりと目を閉じた。


ほぉ、これが芸術か。と感心した。

そしてこれは40分くらい続いた。僕は真剣な表情の演奏者と観客の顔を見ていると徐々に笑いが込み上げてきた。

なぜ彼らは、シンバルを擦っているんだ!

という人類普遍の問いかけが、僕の内部を満たしていく。駄目だ、ここで笑ったら彼女に嫌われるだけではなく他の観客に白い目で見られてしまう。

そしてなんで皆は20分も30分もそんなにじっとしていられるんだw 地蔵かwと心の中でツッコミを入れながら40分の間笑いと脚の痺れに堪え切った。

もうあんな苦しい思いはしたくない。

しかし、彼女の行きたいと言った場所へ行ったことで世界が広がった事もまた事実。美術館も有名ではない寺も神社も、イルミネーションも。

宝塚駅は実家から遠くないし、了承した。調べてみると、さすがは宝塚歌劇、オンラインチケットもすでに完売、残すは当日券のみだった。2時間前に宝塚駅に着き、歩いて劇場へ向かう。

立派な建物の入り口には、上品なおば様達、いかにもバイオリンやピアノを嗜んでますよ感が否めない若い女性たち、地下アイドルの古参オタクが如く無意識の同世代的連帯感を纏った熱狂ファンがハイタッチを交わす。

やはりここは僕みたいな雑魚がくる場所ではなかった。

後悔の念に押しつぶされそうになりながら最後尾を探す。

ちらほらと借りてきた猫状態で小説を凝視するのは、奥様に運転を任された挙げ句、一切の小言を許されないであろう死んだ魚の目の男達。彼らの視線は一様に小説を通り越してその先を見据えていた。

彼らに同情しながらも最後尾に並んで座った。景気づけに真顔でじゃがりこを頬張ったが5分も持たなかった。

夏の日差しが容赦なく照りつける8月だった。汗だくになりながらようやく門が開かれ、長蛇の列は館内へ吸い込まれてゆく。

ここから更にチケット売り場の前から列に並び、30~40分待つ。その日観るのは月組公演のエリザベート。いったいなんの話かもさっぱり分からない僕に彼女は嬉しそうに内容を教えてくれる。しかし、チケットが完売すれば観る事はできない。

楽しみにしている彼女にがっかりして欲しくないし、ここまできたらなにがなんでも観たい、そう思いながらチケット売り場へと着くと、最後列の4席だけが奇跡的に残っていた。

彼女は満面の笑みでヨカッタヤンナ☆とクセの強い関西弁で喜びを表現していた。

遂にその時がきた。

男役の方がアナウンスでそれでは開演します、と告げた時には、僕のテンションはあがりまくっていた。

二人で顔を見合わせ、キタキタキタァ!とはしゃいだ。

静かに始まったその劇は、キレッキレのダンスと、痺れるような声音、そして歌声。全てが完璧であった。

僕は劇が終わるまでの間、鳥肌が立ちまくっていた。

ちょ、おまっ、ちょっ、え?!脚なっが。。
ほぼアシナガバチやん。え??

ってゆうくらい脚が長い珠城りょうは、男から見てもめちゃくちゃ格好良かった。ダンスも上手い、歌も上手い、演技も上手い。なんだこれ。

相当厳しい練習をしてきた事は明白で、シビれまくった。

サイゴッノォー!ダンスッハァ!オレーノッモッノー!!

かっけぇええええw

僕は、アイドルオタクさながら、心の中で彼女の歌にすかさず合いの手を入れる。

タイガァ!!!ファイヤァ...!!!!

その日は、帰ってる間も、帰ってからも宝塚歌劇の事で頭がいっぱいだった。彼女も興奮した様子で大喜びだった。

こんな素晴らしいものが、こんな近くにあったなんて。それからは、彼女と宝塚歌劇についての話で盛り上がったり一緒に写真集を見たり。二人でハマってしまった。

間違いなく彼女らはプロフェッショナルで一流である。彼女がまた日本に来たら一緒に観に行くのが楽しみで仕方がない。

画像: ミュージカル『エリザベート−愛と死の輪舞(ロンド)−』 撮影:森好弘
引用元URL: https://www.google.com/amp/s/spice.eplus.jp/articles/204922/amp

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