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太田直樹さん×太刀川英輔さんが“X”を進化させる! 〜「進化の学校」オープンデーvol.3 イベントレポート〜

オンラインスクール「進化の学校」は、太刀川英輔さんの『進化思考』を教科書にして“適応”と“変異”を実践的に学んでいく、3ヶ月限定の学校です。“学長”を務めるのは太刀川さん。トークセッションでは毎回ゲストを迎え、進化思考をもとに何をしたいか、社会をどう実装したいかを語り合います。4月18日に開催されたオープンデーvol.3のゲストは、進化思考ワークの実践者でもあるNew Stories代表の太田直樹さん。「直樹さんは進化思考の“育てのおじさん”の一人」と太刀川さんが言うように、太田さんと進化思考には深いつながりが…。お二人のトークの様子をレポートします。

「コクリ!海士プロジェクト」から生まれ育った「進化思考」

進化の学校を主催するのは、全国の公務員が集うオンラインサロン「市役所をハックする!」。代表の山田崇さん(塩原市役所企画政策部官民連携推進課)は、書籍化以前から進化思考に触れてきた一人であり、今回の司会・進行を務めています。

山田さん(以下、山田) 2017年4月に、海士町を舞台に数年間をかけてシステムチェンジを起こそうという「コクリ!海士プロジェクト」が始まりました。この取り組みを通して、海士の風の代表である(阿部)ベックさん、(太田)直樹さん、(太刀川)英輔さんをはじめとしたメンバーが出会い、それぞれが「100年後から逆算して考え、進化させたいもの」を語り合うなかで、進化思考が育っていったんですよね。コクリには私も参加しており、メンバーとのワークをきっかけに、「市役所をハックする!」を立ち上げました。
太田さん(以下、太田) 僕自身も、会津若松をはじめさまざまなところで進化思考のワークをやってきたので、こうして書籍となったことは感慨深いですね。この本がいろんな人の手に渡ることで、たくさんの未来への希望や願いが生まれてくることに、大きな期待感をもっています。

正しい手法を学べば、誰でも創造的になれる!

続いて、太刀川さんが改めて進化思考について解説し、太田さんが実際の進化思考ワークの事例を紹介しました。

太刀川さん(以下、太刀川) 進化思考はイノベーションや創造性の手法です。創造性は才能のある・なしで捉えられがちですが、本当はそうじゃない。創造性について知らないから発揮できないだけで、正しい手法を学べば誰にでも発揮できるはずだ…というのが僕の出発点であり持論です。創造性について探究した結果、行き着いたのが生物の進化でした。生物の進化は、“変異”と“適応”の往復で起こります。変異はDNAのコピーミスで、エラーです。何かが足されたりなくなったり増えたり減ったりする。それが自然淘汰されるか適応して進化につながるかは、生物学では大きく3つの観点で捉えられています。内部的な構造の“解剖”の観点、歴史的な流れの“系統”の観点、そして、外部的なつながりの“生態”の観点の三つです。さらに、私たちは未来をつくるため、今とは異なる状況にするために創造性を発揮するわけですから、未来をフォーキャストしたり未来からバックキャストしたりする“予測”的な観点も必要になります。それを足せば4つの観点がある。進化思考ではこの4つを時空観学習と呼んでいますが、過去(系統)・未来(予測)という時間軸と、内部(解剖)・外部(生態)の空間軸で考察していくと、変異のうち何が適応するかが見えてくるんです。
また、創造性において変異というのは、たくさんのランダムなアイデアです。エラーはパターンを身につければ発生確率を上げられる。それを適応の軸で刈り取り続けると、どんどんアイデアの精度が上がっていく。変異と適応を繰り返すことで、螺旋を上がっていくように高みに登っていける。いわゆる創造的な人というのは、こういうことを無意識にやっているんです。その登り方を指南したのが、『進化思考』です。

太田 進化思考を使ったワークの事例で印象的なのが、広島県福山市の教育委員会と一緒にやったもの。通知表や時間割を進化の対象“X”として、どう進化させていくかを考えていったんですが、宝探しの地図化した時間割などおもしろいアイデアがいっぱい出て…。福山にはイエナプラン型の小学校もあるので、実証に向けて進んでいます。また、英輔さんと一緒にやった会津若松のワークでは、お寺にある過去帳、ゴミ捨て場、観葉植物、お土産…などさまざまなX(進化の対象)について考えていきました。出てきたプロトタイプがエモい感じで、あれがこうなっちゃうんだという驚きがありましたね。みんなでワイワイとプロトタイピングをするというのは、すごくいいですよね。進化思考が生み出す関係性は素晴らしいなと実感しました。

太刀川 会津若松での探究は、僕のなかでも進化思考のワークを実証してきた基盤になっています。また、パナソニックの新規事業開発部門での進化思考ワークで、X(進化の対象)を深掘りするなかでXそのものがもっている“願い”が見えてきて、それにメンバーが共感することで一体感が増していく…とプロセスを体感したのも印象に残っていますね。

進化は必然的な偶然である

ワークの事例を振り返りながら出てきたのが、進化の“偶然性”と“必然性”の話でした。進化は必然的な偶然である…!? どういうことなのでしょうか?

太刀川 進化って、偶然に起こるんですよね。それは、変異が偶然だから。一方で、適応には必然性がある。つまり、偶然と必然は進化の両輪で、偶然(変異)がないと必然(適応)は起こらないんです。僕たちは大人になると、思考や行動の範囲がある程度決まってしまって、いろんなことをやらなくなります。逆立ちとか、あまりしないですよね。でも、逆立ちをしないとわからないことだってある。自分のなかに常に変異を飼っておくというか、偶然に触れ続けている状態にしておくことで、新しいアイデアに気づきやすくなるんです。直樹さんが、「あれがこうなっちゃうんだと驚いた」というのはその通りで、進化も創造も壮大な結果論だと考える方がわかりやすい。アイデアメーカーは最初からねらっているわけじゃなくて、最初は偶然。それを検証していくうちに、必然になっていくんです。

太田 企業でも行政でも、現場で新しいことをしよう、何かを変えようとする人は嫌われがちですが、実はその変化は偶然のようで必然なんだというのは、とても素敵だし、勇気が出ますよね。

山田 私自身も変異ばかりやっている身ですが、この企画案は偶然ではなく必然なんだと人に伝えるときに、進化思考の適応の4つの観点が非常に役立っています。例えば、歴史的な経緯などの説明を補っていくと、説得力が出てくるんですよね。進化思考は私の武器になっています(笑)

太刀川 アイデアを適応の観点で見ていくことで、「なぜならばこうである」が言えるようになって、アイデアを強化できるんですよね。パナソニックの例でいうと、創業者の松下幸之助の言葉を引用しながらアイデアを話すと、社員は上司に縛られることなく文脈に応援されるんです。お茶だったら千利休に立ち戻るとか、否定できない軸を系統から発見するのは、ルールをハックする人の力になります。「僕はこう思う」だけじゃなくて、「僕はこう思うけど、昔の人もこう言っている」という系統の流れを踏まえることで、共感が得られやすくなるんですよね。これも4つの軸の一つを使った適応の一例です。

“土”の進化を、進化思考で考える

続いて、太田さんが安宅和人さんらと取り組む「風の谷」プロジェクトについて言及。都市集中型社会へのオルタナティブをつくるため、地方のさまざまな課題やテーマに分野を横断したメンバーが共に取り組んでいること、今年4月には群馬県庁内に「風の谷実現係」が誕生したことなどを紹介しました。そしていよいよ、太田さんの“X”が登場します。

太田 風の谷ではあらゆることがテーマになるんです。例えば、気候変動。群馬県の利根川水系は、首都圏の人口の約8割、約3千万人の生活を支えています。一方、2080年頃には、平均気温が現在から3度ほど上がると言われていて、そうなると利根川の水源である雪が降らなくなってしまうんです。これは大問題ですよね。大災害をもたらすような集中豪雨も、昔は100年に1度程度だったのが、今や毎年のように起こる時代になっています。自然環境については、明治以降の植林により、江戸時代はハゲ山だったところに木が増えて災害が少なくなったとか、系統を辿ると悪い話ばかりじゃない。でも、このままでは立ち行かなくなることがたくさんあって、いろいろと“進化”させていかないといけないなと…。

太刀川 ブレストしてみましょうか。いろいろあるなかで、直樹さんが今一番進化させたいXは何ですか?

太田 “土”ですね。世界の農地のうち、約5割で土壌の劣化が進んでいると言われています。最も大きな原因は、とても古い発明である「耕すこと」なんです。。土と農業と人間の関係はこれから変わっていくだろう、変えていく必要があるんだろうと思っています。ただ、一元的には語れないんですよね。例えば、水田は環境にマイナスだという側面がありつつ、水を張っていることで防災に役立つとか、焼畑には自然破壊のイメージがあるけど、実は合理的な側面もあるとか。進化の可能性を多角的に模索する必要があると思っています。

太刀川 生態的にも予測的にも、現状の農地は持続可能ではなく、このままでは土が痩せていってしまう、農業ができなくなってしまう。だから、土を進化させたい、ということですよね?

太田 はい。農地に限らず、人間が使っている土地全般ですね。農地は約5割、牧地は約2割、森林地も約2割が劣化していると言われています。

太刀川 生物学者のウィルソンは「ハーフアース」を唱えています。彼によると、地表面の75%ほどが農地などを含めた人工物で覆われていて、その割合を50%にしないと、つまり、地表面の半分は自然のまま残すようにしないと、持続不能になるそうです。そうなったときに大事なのが、どうやって畑を作るかではなくて、どうやって人が自然から後退するか、自然に戻すかということ。耕作を放棄したからといって農地は自然に戻るわけではありませんから、何らかの施しが必要です。

太田 風の谷では、高田宏臣さんの『土中環境』という本がバイブルになっているのですが、高田さんによると、コンクリートなどで押さえつけられることで土壌の呼吸が止まってしまい、空気や水が流れていない状態なのだそうです。そうなると、土の生産性も下がるし、防災面でも弱くなる。人の手により固くなった土壌をほぐすという意味合いで、我々はよく“逆土木”という言葉を使って議論するのですが、今後はそうした取り組みが大事なんじゃないかと考えています。

太刀川 生ゴミを堆肥に変えるコンポストを街中に設置するとか?

太田 堆肥にして有機物や微生物を土に戻してあげるというのは、ヒントになりそうですよね。

太刀川 余った給食などのフードロスを分類して焼却することで、焼畑をしなくても焼畑をしたような質の良い灰が手に入るかもしれない。

太田 捨てるものを利活用するという循環は、いいですよね。今は離れている“生産”と“消費”をつなげられたらいいなと思います。

太刀川 土を進化思考するにはまだ足りない情報が多いので、整理が必要そうですね。土に何が起こっているのかという生態系としては、化学肥料や農薬は何がどう便利で使われているのか、生産物のクオリティを上げないといけないから化学肥料や農薬に頼らざるを得ないのであれば、あくまでも予測ですが、JAのスクリーニングが緩くなるとエコにつながる可能性があるのか…とか。昔はどうだったかという系統も土を考えるなら知りたくなりますね。人が土地を耕すようになったのはいつからでどのタイミングで加速・拡張したか、土壌改良の歴史はどうか…など。未来に向けては、予測の先にあるのはトラクターの自動運転とか、耕作放棄地を耕すとどうなるかとか、自然に還す逆土木をしてくれるトラクターってどうだろうとか…こうなると“変異”の領域になってきますが、変異と適応を同時進行的に考えていくことで見えてくるものがある。土は深いですね。でも、世界中の土の課題はほぼ同じでしょうからある意味ではシンプルで、土へのフォーカスはレバレッジが効くかもしれません。土は、どういう状態になるのが望ましいのでしょうか?

太田 土の中を空気や水が循環して、有機物や微生物が豊富で多様な状態になることですね。土は人工的には作れなくて、1センチの土ができるのに最低でも100年くらいかかるのだそうです。乾燥した地域だと、1000年ほどかかるのだとか。それを農業では、10年くらいで使ってしまう。地表では、あと60回しか農業ができないんだそうです。つまり、60年後には土を使った農業ができなくなっているということです。

太刀川 そうなんですね。“循環”がカギなら、既存のうまくいっている循環させるための仕組みと交配することで、進化できる可能性があるかもしれませんね。例えば、ジャストアイデアですがマッサージとか鍼灸あん摩とか…ヒントがないですかね。土をマッサージしてほぐすと考えると、今までとは違う耕し方が出てくるかもしれません。

太田 そう、鍼を打つツボがあると思うんですよ。まさに、ほぐす土木ですね。進化思考的に言うと、マッサージに“擬態”した土木…ですね。

太刀川 ほぐして循環をよくするものだったら、パイプの詰まりをとる薬品とか、血液をサラサラにする薬とかもありますし、流動性を高めているものに何かヒントがありそうですよね。化学肥料のように不自然な栄養を補給するものではなくて、土がほぐれる薬とか…そういうのがあるかもしれない。疲弊した土を元気にするために必要なのは、エナジードリンクじゃなくてマッサージ。そのネタを探していけそうですね。

悩める越境人材のコンパス的存在に

“土”を進化思考で考えるトークは白熱。あっという間に終了の時間が来てしまいました。最後に、『進化思考』をどんな人に届けたいか、どう受け止めてほしいか、太田さん、太刀川さんがそれぞれメッセージを贈りました。

太田 いろんなセクターをまたがって越境している人こそが未来をつくると、私は確信しています。一方で、無我夢中でやっているんだけどうまく動けていないと悩んでいる人も少なくないでしょう。そうした悩める越境人材に手に取っていただき、向かうべき方向を指し示すコンパスのような存在になればいいなと思っています。

太刀川 越境することの重要性は数学的にも明らかになっていて、『進化思考』でも「複雑ネットワーク」に触れている箇所で解説しています。越境者こそスモールワールドネットワークをつくる存在。ハブ(つなぎ役)に終始せず、自らも創造性を発揮するためにも、越境人材にはぜひ読んでいただきたいですね。直樹さん、今日はありがとうございました。

太田 こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。


太田直樹
(株)New Stories代表。ボストンコンサルティングの経営メンバーとしてアジアのテクノロジーグループを統括した後、2015年1月から2017年8月まで、総務大臣補佐官として地方の活性化とIoTやAIの社会実装の政策立案・実行に従事する。その経験から、(株)New Storiesを起業。挑戦する地方都市を「生きたラボ」として、行政、企業、大学、ソーシャルビジネスを越境し、未来をプロトタイピングすることを企画・運営する。シビックテックを推進するCode for Japan理事などの社会的事業にも携わり、国内外のイノベーション人材とつながっている。
太刀川 英輔
NOSIGNER代表。デザインストラテジスト。慶應義塾大学特別招聘准教授。 デザインで美しい未来をつくること(デザインの社会実装)発想の仕組みを解明し変革者を増やすこと(デザインの知の構造化)この2つの目標を実現するため、社会的視点でのデザイン活動を続け、次世代エネルギー・地域活性・世代継承・伝統産業・科学コミュニケーションなど、SDGsに代表される社会課題に関わる多くのデザインプロジェクトを企業や行政との共創によって実現。プロダクトデザイン・グラフィックデザイン・建築・空間デザイン・発明の領域を越境するデザイナーとして、グッドデザイン賞金賞(日本)やアジアデザイン賞大賞(香港)など100以上の国際賞を受賞。デザインや発明の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、変革者を育成するデザイン教育者として社会を進化させる活動を続けている。


書籍『進化思考』については、こちら。


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