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セナのCA見聞録 Vol.32 ゴーアラウンド

よく晴れ上がった夏のある日。

私はソウルから普段と変わらぬ仕事を終え、着陸に備えてジャンプシートに座って外の景色を眺めていました。

房総半島沖を海岸沿いに北上し、九十九里浜上空から成田に向かって左に折れると10分もしないうちに着陸します。

見慣れた空港周辺の景色を眺めながら、自分の目線が間もなく地面と重りそうなタッチダウン直前、突然飛行機がグーンとノーズ(先端部分)を急に上げ、また上空へ向かって飛び始めました。あまりに急に上向きにあがったので、一瞬体が背もたれにグッと吸い付くような感じがしました。

ほんの今、もう自分の真横に見えかかっていた空港ターミナルビルはあっという間に視界から消え、飛行機は再び九十九里浜沖の上空まで戻り、そこで旋回を始めました。

ここまで来てようやくコックピットからアナウンスが流れました。

「私たちの便の直前に着陸したC航空の飛行機が着陸後に滑走路上で故障を起こし、現在そのまま停止している模様です。その飛行機が滑走路から離れるまでは、着陸ができません。滑走路使用の許可が下りるまで旋回をして上空で待つようにという管制塔からの指示に従い、ただ今着陸待機中の状態です。再度管制塔から連絡が入り次第、また皆さんには最新情報をお知らせします。」

着陸を試みている段階で、前方機との間に十分な間隔がとれなかったり、滑走路上に障害物があったりした場合、着陸をやり直すために再度上昇していくことを、“ゴーアラウンド”(go around)といいます。

話には聞いていましたが、実際に自分の乗務するフライトで経験するのは初めてでした。

窓の外を見ると、同じように着陸を待って旋回している飛行機が三機、そう遠くないところに見えました。大きな円を描くように上空をぐるぐると回り始めて20分、そして30分と時間が経過しても、まだ着陸の許可は下りないようでした。

いつ着陸するのか分からない状態では立ち上がってサービスをすることも出来ないので、シートベルト着用のサインはずっと点灯されたままで、乗客乗員全員が座席についたままひたすらコックピットからのアナウンスを待ち続けました。40分近くたった頃にようやく再びコックピットからアナウンスが流れました。

「この機体に残っている燃料ではこれ以上旋回を続けることができませんので、当機はこれより羽田空港に向かい、そこで燃料補給を受けることになりました。ご搭乗の皆様にはご迷惑をおかけ致しますが、どうかご了承下さい。」

羽田空港?

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