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宝の地図

僕の名前はそら。小学校4年生。
僕は学校が大嫌い。
だって学校って、いじわるなんだもん。

校庭に川を作るって楽しい遊びをみつけても、
夢中になってやってた工作も、
チャイムが鳴ればやめなきゃいけない。

僕って、のんびりな性格で、やることもゆっくりしかできない。
僕にとって学校は忙しすぎるんだ。

だから僕は学校に行かなくなった。

家で好きなゲームや、工作をしていたほうが時間の無駄じゃない。

でもさ、友達とは遊びたいんだ。
ゲームも工作も沢山して、少し暇だなって思うこともでてきた。
友達と遊べない、それがさみしく感じる。
だってみんな学校に行ってるし、
塾とか習い事もあって、忙しいんだって。
次は友達といつ遊べるの?
1日に何回も
お母さんにそうやって聞く日々が過ぎていた。



そんなある日、僕の家に郵便が届いた。
「そらの宝の地図」
って書かれた黄色い封筒。

僕はワクワクして封を開けた。


「何これ?」

その地図には、僕の家がぽつんと書かれてるだけで、周りには何もない。
なんか、僕の友達と遊べなくて寂しい気持ちを表してるみたいで、すごく嫌な気分になった。

「何が宝の地図なんだよ!!」

僕はいらだって地図をぐちゃぐちゃにして、床に投げつけた。

一体だれが送ってきたんだろう。差出人の名前もない。
でも、宝がすごく気になる。

説明書はないのかな?
封筒の中を見てみると、小さい紙が入ってた。

「宝物は確実に存在します。
 探してみてください。
 その地図が宝探しを手伝ってくれますよ。」





一晩寝て、いら立ちがおさまって、
僕はぐちゃぐちゃにした宝の地図を手できれいに伸ばした。

昨日と地図が少し変わってる!!

家しかなかったのが、道ができていた!!
そして、1か所、きれいな色をした魚の絵が浮かび上がっている!!

僕は気になって、魚の絵があるところまで
地図を辿りながら行ってみた。

着いたところは特に、何のへんてつもない普通の家だった。

「やっぱりこの地図、宝の地図じゃないのかな?
 普通の家じゃん。得にお金持ちそうでもないし。
 でも、もしかしたらこの家にお宝が隠されているのかもしれない。」

そう思って、思い切ってピンポンしてみた。

出てきたのは、僕とそんなに背の大きさが変わらない、
小さなおじさん。
低い物腰で、とても優しそう。でも少し興奮しているみたい。

「僕の大好きなグッピーが、そろそろ赤ちゃんを産みそうなんだ。
 良かったら見ていきなよ。すごく神秘的なんだよ。」

初めて会った僕を家の中に入れてくれた。

グッピーが何のことかわからなかったけど、見てびっくりした。

地図に浮かび上がっていたきれいな魚だった。

おじさんはすごくキラキラした顔でグッピーを見つめている。
子供の僕が言うのもなんだけど、子供みたいだな、このおじさん。

「ほら、見てて。グッピーはね、たまごからじゃなくて、
 お魚の形で生まれてくるんだよ。
 お母さんのお尻のとこから赤ちゃんのしっぽから出てくるんだ。
 人間は頭から出てくるけどね。」

魚はたまごから生まれてくるものだと思ってたから驚いたけど、何よりも僕はおじさんのとっても嬉しそうな顔が印象的だった。

僕は思った。
学校で先生たちがみんなこんな顔をして、自分が好きなことをキラキラした目で話してくれてたら、僕はもっと学校を好きになっていたかもしれない。

小さなおじさんは、僕に
「おじさんと友達になってくれる?」
そう言って握手を求めてきてくれた。

「もちろん!」
僕は小さなおじさんと握手をした。
とても嬉しくなった。

家に帰ってからも、なんだか僕の中はとってもあたたかい。
なんでかわからないけど、幸せな気分が続いていた。

もしかしたらこの地図は、
僕の友達をみつけてくれる地図なのかもしれない。


次の日の朝、起きてすぐ僕は地図をみた。

また新しい絵が増えてる!!
今日はトマトときゅうり。

昨日の流れから考えると、きっとここにいけば
おいしそうなトマトときゅうりがあるに違いない。

僕はうきうきして家を飛び出した。
地図のとおりに行ってみると、ほら、やっぱり!予想通り!!
そこには広い畑があった。
トマトときゅうりだけじゃなくて、
とうもろこしや、枝豆、なす、ピーマン、たくさんの野菜が育っていた。

僕はきゅうりに味噌をつけて食べるのが大好き。
だからとれたての野菜も魅力的だけど、
僕が期待していたのは、
今日も友達ができるんじゃないかってこと。
畑の中を見回して、誰かいないか探してみた。

ガサガサッ

!!!!!!

畑の中から出てきたのは、白黒の猫!!
しかも背中にきゅうり担いでるし!!

「ちょうど良かった。猫の手もかりたいと思ってたとこだ。
 畑の仕事手伝ってくれない?」

いやいや、待ってよ。
猫がしゃべってるし!
猫の手も借りたいって、そもそも君は猫で、僕は人だし!!
確かに猫じゃこの広さの畑をやるのは大変だろう。
僕は土で汚れるのは本当は好きじゃないけど、
しょうがない、手伝うか。

猫が一生懸命野菜を収穫して運ぶ姿がかわいくてかわいくて。
しかも、一生懸命収穫してるのかと思ったら、途中で虫を追いかけ始めたり、ごろんっておなか出して寝転んだり。

「僕疲れても手伝ってるんだから、もっとしっかりやってよ。」
そう言うと、
「疲れたら休めばいいじゃん。カラダとココロが休みたがったり遊びたがったとき、それを叶えてあげられるのは自分しかいないんだよ。
人ってさ、見てて不思議なんだけど、自分の声を聞くのが苦手なんだよ。
ま、そんな君たちもかわいいと思うけどさ。」

そう言われて、少し疲れたな、休みたいなと思っていた自分に気が付いた。
僕、休んじゃいけないって思ってた。
学校行っているときだって、
がんばらなきゃいけない、できるようにならなきゃいけない、
しっかりやらなきゃいけないって思ってた。
だから苦しかったんだ。

寝っ転がってしっぽをパタンパタンって動かしている白黒猫の横に
僕も寝っ転がった。

空が青かった。涼しい風を感じた。
風の声が聴こえた気がした。
まんまの君でいればいいんだよって。

白黒猫が僕の顔にゴロゴロ言いながらすり寄ってきた。。
「また一緒に遊ぼうよ。僕と君は友達だ。友達スタンプ押しとくね。」
そう言って、柔らかいふわふわの肉球で僕の鼻をぷにって押した。


この宝の地図、この地図自体が僕にとって宝物だ、そう思えてきた。
起きたらすぐこの宝の地図を広げる。
毎日地図に絵が増えていくわけじゃないけど、
そこにいるグッピー好きな小さなおじさんの顔や、白黒猫と過ごした時間のことを思い出すだけで、すごく幸せな時間が過ごせる。

でも、今日の朝はこの地図を広げて、心がざわついた。
だって、増えた絵は、救急車。
どういうこと?
僕はあわてて、その救急車の絵が描かれた場所に向かう。

そこには一軒の大きなおうち。
風鈴の音がどこかから聞こえる。
救急車が来てるわけでもないし、あわただしいわけでもない。
僕は風鈴の音のする部屋の方に行ってみた。

大きな家の隅っこの方にある、広い部屋。
大きなベッドの上に、おばあちゃんが寝ていた。

おばあちゃんは僕に気づくと、「こっちにおいで」とベッドの上から手招きをした。僕がそばにいくとおばあちゃんは話し出した。

「体が弱くなってね、動けば転んだり、若い衆に迷惑かけてばかりで。
 今は一日こうやってベッドの上にいて、天井を眺めてる。
 孫たちも来てくれるけど、年寄りが古いこと言ってもおもしろくもない。
 余計なことを言わないように、余計なこともしないように、
 こうやって毎日過ごしてたらちょっとさみしくなってきてね。」

僕はなんだかさみしくなってきた。
僕はここにいちゃいけない、迷惑はかけないように過ごそう、
そんな風に思ったことがあった僕だったから、
おばあちゃんの気持ちが何となくわかった気がした。

「僕、おばあちゃんと友達になりたい。
 また、ここに来ていい?おばあちゃんのお話、僕聞きたいよ。」

そういうとおばあちゃんは泣き出してしまった。
「また来ておくれ」そういうのが精いっぱいな感じ。
おばあちゃんの笑った顔がみたいな。
そう思って、僕は帰った。



家に帰って、宝の地図を広げる。
僕は金銀財宝の入った宝箱がどこかにあると思ってた。
でもこの地図は、どうやらそういうものではなさそうだ。
この地図を通して出会った人たちは、
僕の気持ちを温かくしてくれたり、
僕の気持ちをわかってくれたり、
僕でも役に立ちたいという気持ちにさせてくれたりした。

宝物の意味が、やっとわかった気がした。
宝物って、物じゃないんだ。

そんな気持ちで地図を眺めてたら、
宝の地図に宝箱の絵が浮かびあがってきた。
しかもそれは僕の家のところに。

一体どういうことだろう?


お母さんに聞いてみた。
「うちのどこかに、宝箱があるの?」

お母さんはその意味がすぐわかったみたい。
にこにこ笑いながら僕に言った。

「宝物、ここにいるじゃない。」
そう言って僕の頭をポンポンとなでた。

僕の心はとってもあたたかくなって、一日中にやにやが止まらなかった。

僕はずっと、外に宝物を探してた。
この宝の地図がなかったら、
僕自身が宝物だなんて思えなかったと思う。
だって、この宝の地図で出会った人たち(猫もいるけど)は、
僕にとって宝物だったから。

僕は思う。
「自分自身が大事な宝物だよ。」
そんなことを教えてくれる学校があったらいいなって。
自分がだめだって思う時があっても、
うまくできないことがたくさんあっても、
泣いたりわめいたり、気持ちが荒れてる時があっても、
もうがんばれないよって時があっても、
どんな状態でもいいよって言ってくれる。
大事な大事な宝物だよって繰り返し教えてくれる。
そんな学校。

救急車の絵だったおばあちゃんにもわかってもらいたい。
きっとそのうち、救急車の絵はおばあちゃんらしい絵に変わる。

僕はこれからこの宝の地図を片手に
たくさんの宝物と出会う旅に出ようと思う。
みんな素敵なんだよ、自分自身が宝物だよ。
それを教える先生になって。





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