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台風の爪あと


※大したことはないですが、虫の死骸の写真がありますので苦手な方はご注意ください。


よく耐えてくれた!
ダムの放流をぎりぎりまで遅らせ、満潮を回避した判断の妙だった。

警報が解除されたのを見計らって川沿いまで車を走らせてみた。

かなりギリギリの所だった...と思ったのだが、ほかの河川の写真を見ているともっとギリギリな所がいくつもあったので、これでもまだ余裕があった方なのだろう。

私と妹子は茶色の濁流をずっとのぞいていたが、後ろを振り返って見るとだんなが堤防横の道路にかがんでいる。

道沿いに枯れ草が所々不自然に溜まっている場所があり、まさかここまで水が上がってきていたのか?とぞっとした。

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側に寄ると、だんなが草をかきわけて何かを指し示した。
草の合間合間に、一見ゴキブリに似た甲虫がたくさんつぶれている。
思わず声が出そうになって抑えた。

「これは…なに?」
「ゴミムシだよ」

森の掃除屋だ。

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川の掃除屋でもあるのか。
だんなは持った枯草の茎で道路のあちこちを示す。

「水が上がってきたから必死でここまで登ってきて、堤防を越えてたどり着いてここで死んだんだ」

道路の至る所に黒い斑点がある。
よく見るとすべてつぶれた虫の死骸だった。

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「こうやって洪水の時には、たくさんの生き物も死ぬんだよ」

また枯れ草だまりを掻き分けながらあとは独り言のように言う。

「これじゃハゼも流されちゃったなあ。ハゼ釣りは終わりだな」
「下流はこんなだとして、洪水の時上流の川魚はどうしてるんだろう」

だんなは少し考えた。

「耐える」

調べてみたら、ホントに耐えているらしい。

だんながさらにかき分けた中にゴミムシが一匹、無傷で元気な奴がもそもそ動き出して、枯れ草の茎に這い上がってきた。

「生き残ったのもいる」

素早い動きでさっと堤防を越えて川の方へ消えて行った。

この生き残りが合流してまた命を繋いで行くんだろう。
茶色の泥流の向こうに、台風が吹き飛ばした澄んだ青空を見た。




おわり。


まだまだ予断を許さない地域もあり、一刻も早く復興できますよう祈ります。



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