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読みかけ「ノートルダム・ド・パリ」 進捗 9 二つの告白


時間が経ちすぎてしまったので、ラストまでサクサクと紹介したい。
だけど正直な話、ここまでというより、この記事までが序盤だと思う。
ここからがメイン。
ここから読み始めてもいい。


目次はこちらです。

まとめ 読みかけ「ノートルダム・ド・パリ」進捗 1~8まで


グーテンベルクのリンクです。(英語版フランス語版
フランス語は読めないので英語の翻訳で挑戦。
訳したのはIsabel F. Hapgoodさん

前回までの記事

注:この記事はネタバレです!

さて、フィーバスがエスメラルダを半分脱がせた所で終わっていたのだが…。(このえっちな一コマにどんだけ筆を裂くのか)
ここが大きな分岐点であるのは確かで、エスメラルダは自らの意思でアミュレットの祝福を手放した。

さあどうなる!という所でいきなり部屋に飛び込んで来たフロロ!

背中からクソ男をぶっ刺したー!!

記事が始まるなりこれか。
いきなり早すぎる展開。

フロロがフィーバスを刺す展開、これは一応あらすじを読んで知ってるつもりだった。
しかしあれこれ想像していたシチュエーションとはずいぶん違っていた。
(道でデートしてお話している最中に後ろからドスッとやったのかと思ってた)

隊長に閉じ込められ、いちゃいちゃの一部始終を見させられるという変態的苦痛に耐えられず、フロロはこじ開けるなり何なりしてここまでやってきたらしい。
隊長!残念ながらNTRはフロロの性癖ではなかったようです。
(NTRが何か知らない方は検索しないでください)

エスメラルダの貞操はかろうじて守られた。

というわけで隊長は刺され、エスメラルダは気絶、フロロは逃走、騒ぎの果てに警察が押し寄せる。
押し寄せた警察はエスメラルダを逮捕。

あれっ…?
エスメラルダ捕まった…??
もう?

おかしいな展開が早い。
エスメラルダ捕まって冤罪着せられて処刑?もう終わり?
あと何章だ?
いま8章に取り掛かったところで11章で終わり。
ここに至るまであまりにもカジモドが出てこない。

だってこれって原題は「ノートルダム・ド・パリ」だが、日本語の題名なんて「ノートルダムの鐘つき男」とか「ノートルダムのせむし男」とかとにかくカジモドが主人公じゃなかったのか。

一体カジモドは何なんだ?
それともここから大逆転してくるのだろうか。

あとでわかることだが、唐突なエスメラルダの逮捕はフロロのせいだった。
「魔女が刺したー!」と訴えていた。
警察があんぽんたんなのかと思っていた。

つかまってからの裁判シーン、拷問、死刑宣告、嫌な所だ。
テンション下がる。

裁判は粛々とこうだと観客及び裁判所が決めた通りに進む。
ジプシーが魔女の技を用いて射手隊の隊長を殺害しようとした罪という風に。

エスメラルダは自分が罪に問われたことよりも隊長の容態と命
の方が心配でほとんど反応しない。
それに何を言っても信じてもらえず、拷問が提唱される。
もう、すべてが一転して胸糞。
この世界によくある光景の一端をシンプルに見せられている。

イノサン・ダンスマカブル・イノセントデイズ・ダンサーインザダーク。

"What an annoying and vexatious hussy," said an aged judge, "to get herself put to the question when one has not supped!"

ああ無情のときも、コゼットの母親ターン長かった。
不気味な描写が腹が立つほど美しい。

The iron grating which served to close the oven, being raised at that moment, allowed only a view at the mouth of the flaming vent-hole in the dark wall, the lower extremity of its bars, like a row of black and pointed teeth, set flat apart; which made the furnace resemble one of those mouths of dragons which spout forth flames in ancient legends.

拷問器具を前に自白を強要
恐怖に震えながらあくまで固辞するエスメラルダ。

医者・外科医揃っている所がまた胸糞。
痛めるだけ痛めて治療するのか…闇だ。

"Mercy!"のひとことは「お慈悲を!」と一般的に訳されるのかなあ。

エスメラルダの拷問は鉄の板で足をはさみつけるもの。
エスメラルダのすさまじい叫び声は村上春樹の扱ったノモンハン事件を思い出させた。

しかしこちらはユーゴー、この世の苦痛も精神世界や幻想世界には流れて行かず、物語の中でもあくまで現実の流れとして存在するのみ。

エスメラルダはただ若い少女らしい心で恋をしたというだけだ。
その根底にあるのは、この底辺の生活から助け出して欲しいという願いだった。

魔女のサバスに参加しましたか?
バフォメットに入信しましたか

耐え切れないエスメラルダは次々にYes、Yes、Yesと答えていき、最後に「フィーバス隊長を暗殺しようとたくらみましたか?」にもYesと答える。

YesやMercyといった一言の単語に幾千の意味が込められている。
死刑を宣告された少女に向かって、拷問執行人が足を調べて「大したことない、また踊れるよ」とか言うのがまた闇。

死刑までエスメラルダは投獄される。
閉じ込められている構造物の複雑さの説明が延々と入る。
それはまるで人間世界の複雑さと同じのようだ。その社会のどん底にいるのがエスメラルダという描写。

底辺から逃れようとして太陽(フィーバス)に助けを求めたのに逆にさらに奥底に落とされてしまった。誰も助ける者はいない。
ここに太陽はもう射さない。

In that misfortune, in that cell, she could no longer distinguish her waking hours from slumber, dreams from reality, any more than day from night.

水滴の音が聞こえてくる。もうそれを聞くしかない。
描写が細かいので、まるで深くかび臭い穴のような地下の牢獄に閉じ込められて死を待つ極限状態がとてもリアルに体感できる。

誰かが入ってきた光が目に痛いところまでまるで自分の目に刺さったかのように感じられる。

あからさまにフロロっぽい黒衣の僧が入ってきた。
茫然自失のエスメラルダは理解する。
ずっと自分をつけ回した挙げ句に好きな人を刺した男だ。

"Oh! wretch, who are you? What have I done to you? Do you then, hate me so? Alas! what have you against me?"
"I love thee!" cried the priest.

what's loveと聞かれて"The love of a damned soul."と答えるから、自覚はある。
知っててやってる、知ってて抑えられない。

「お前を知る前は、純粋で、幸福で、清らかだった」と言うこれにはやはりブーイングを送りたい。人のせいにするんじゃねえ。

フロロがいかに萌え狂っているかが延々と語られる。
誘拐を企んだことも自白。冤罪で逮捕させたのが自分であることも自白。
エスメラルダがやってもないことをYes, Yes, Yesと返事していたのと同じぐらいすらすらと告白している。
そもそも、誘拐がフィーバスに会うきっかけになり、助け出してくれる偶像崇拝になったのだから、やはりすべてはフロロがエスメラルダの破滅の原因を作っていた。

長々としゃべっているが、要は「宝石のような美しさをアホに惜しみ無く投げ与えるぐらいなら死ね」と言いたいらしい。

empty、rubbishという単語が飛び交うので、隊長のことを頭空っぽのくず男だと思っているのだな~と正確に伝わった。
フィーバスへの評価は読者と同じだった。
フロロは弟への愛情、カジモドを養育したり、恋に悩む所も、萌え狂わなければもののわかった理解のある人間な所もある。

ここで「エジプト出身で茶色の肌」という表現が出てくる。
ここは一般的ジプシーのイメージだ。
とりかえっこされたら白人なのでは?というメンデルの法則による遺伝のことはあまり考えてなさそう。イメージ先行。

フロロが最初にエスメラルダをさらうようにカジモドに指示した理由だが、わかりやすく「監禁してもてあそびたかった」というのでもなく、この牢獄までやって来たのも「助けてやるから愛人になれ」とかそういう単純な話じゃなくて、フロロはどうやら愛し愛されたいらしい。

この愛し愛されたいという、持って当たり前の願いが毒になる。

エスメラルダは聞いちゃいない。
「フィーバスはどうなったの?」と重ねて聞く。
それしか頭にない。

フロロは死んだと伝える。深く突き刺したからたぶん死んでると。
それを聞いたエスメラルダは思いがけない激しさで拒否する。
離れろ、怪物!死刑になるならなりたい。わたしを死なせて!という感じ。
フロロ、歯噛み。
「じゃあ死ねー!!」




続く


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