「甘く浮く醸造」への道③
第3回 「優雅な足踏み」
人生は時に色々な事が同時に起こるものなのですね。
2018年秋。島根から帰った数日後、僕たち夫婦は念願の赤ちゃんを授かった事を知ったので、醸造所立上げの準備はしばらくお休みして出産や育児の準備に専念する事に。
商売に於いて計画遂行のスピードは時にとても重要なのかもしれませんが、結果的にこの足踏み期間は実に優雅な実りある時間となりました。
子供を授かって以降、僕たち夫婦の最大の楽しみである飲酒に取って代わったのは読書。
当時、市営の図書館の真裏に建つアパートに住んでいたので環境にも恵まれ、気の向くままに様々な本を読み漁りました。
ビールのみならず、ワイン、日本酒などの醸造に関する本。
世界の様々な発酵食品を紹介する本。
家を安く建てたいという安易なきっかけで偶然知ったタイニーハウスカルチャーに関する本。
そこから派生して、セルフビルド、パーマカルチャー、小規模自然農業、オフグリッドに関する本。
潜在的な願望もあったのかもしれませんが、子供を授かったおかげで出来た時間を通して、次第に自分たちの生活をよりコンパクトかつ丁寧に営みたいと思うようになりました。
そんな中、縁が縁を繋いでくれるような形で沢山の方達と知り合う機会を得ることも出来ました。
中でも僕たち夫婦にとって印象的だったのはNasu&breadの細田さんとの出会いです。
彼女がどんな想いでこの地でパン屋を営んでいるのか。(現在移転準備中)
以下はNasu&breadで販売されたシュトレンに同封されていた一文です。
那須の恵みのシュトレン
このシュトレンは、店主が思う、この土地で育まれた自然で素朴な宝物のようなおいしいものをかき集めてぎゅっとかたまりにした、この土地への感謝のこもった食べものです。牛乳、小麦粉、柿、栗、胡桃、山葡萄、ワイン。どれも那須の何気ない風景の中で育まれた、何でもないようだけれどスペシャルな素朴です。
できあがったシュトレンは、これまた素朴な味わいです。派手さや、繊細な味わいはありません。熟練した複雑なテクニックも注ぎ込まれてはいないので(そもそも持ち合わせていません)、ただシンプルに、素材の味を殺さないようにできあがったシュトレンです。これが那須の味かぁと思っていただければ幸いです。那須の素材で那須のパンをつくるというのがナスアンドブレッドの目的です。世界中の一流の素材をあつめておいしいパンをつくるより、もしかしたら多少品質は劣っていたとしても、自分が暮らす土地の素材をつかって、この土地のパンをつくりたい。食べたひとに「那須っていいところだなぁ」と感じてもらえたら、わたしの目論見は達成したことになるのです。
目的がはっきりするのが僕は好きです。
そしてその目的にたっぷりの愛着を感じられるのなら、目的はささやかな使命になるのかもしれません。
初夏になったら細田さんの案内で試験的にホップを栽培している農家さんのところにお邪魔する予定です。
今から暖かい季節が楽しみです。
(つづく)
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