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【短編小説】入眠セントウメンタル

以前のアカウントで書いた小説の再投稿です。


来なかった夢にただいまって言う。
よせばいいのに足つぼを刺激する踏み台をDAISOで買う。
外は寒いって思う、この感じ、夏なのかな。
私が丁度おかしくなったのは昨日の夜で、透明なLINEに、げんなりした後、不透明な嘘に、新しい自分で生きようとしょうがなく決意しただけだ。
秀君のメッセージはいつだって空っぽで、好きって文字には何も帯びてないように見える。何の色も付いてない。そこにあるのは指先だけ。私の指先には愛情の温かみがある。筈。秀君は冷たさすらない、本当の意味の0度。それで手を繋いでも、悲しい気持ちにならない自分が憎く、変わりたい、変わろう、そうして意外にもぐっすりと眠り、夢の自分は余りにも沢山何かを喋っていた、そんな感じがした。

目が覚めて、ぼんやりとした穏やかな気持ちが、定かではない中、カーテンと窓を開けてから、買って置いたパンの袋を、破り口に入れる。
頭の中に「・・・」が小さく音を立てている。何も無いと同時に、何かを刻んでいる。
テレビを付けると街中のロケ番組が放送されていて、それで頭の中が掻き消される事を、良しとするかイヤとするかを、情報が入り込んでくる前の一瞬で判断する。
観よう。
そうして、のどかな気分のまま、楽しさが脳に感じられていく。

入眠の私の事を考える。
昨日と今日で、どうして変わってしまうのか。
あんなに、悲しさで怒りを吹き飛ばし、人生を打破しようとしていたのに、起きたらこうして、のどかさにやられてしまう。
このまま、いままでと同じように、私は変わらないのだろうか。
秀君への怒りを考える。
前にディズニーランドに行った時、どのキャストの衣装を着たいか話した事がある。私はジャングルクルーズの衣装を着たいなって話した。あの、船に乗って盛り上げる役はイヤだけど、アトラクションの待ち時間の表示の隣に立っていたり、道を誘導したりする案内役でいいなら、あの衣装を一番着たい。
そうしたら秀君は、「それを着て案内してたら嫌いになるな(笑)」って言った。
私は意味がわからず、まずなんでそんな事で嫌いになられなくちゃいけないか分からなくて、私達の愛情はそんな事で途切れてしまうのか。
なんでジャングルクルーズの衣装がイヤなのかはさておき、私の外側にある何かしらの形式に対して私を判断している事が、何よりもイヤで、笑ってんなと、そのレストランから口を聞かなくなって、秀君はごめんって言い続けるけど、段々口を聞かない私に怒り出したから、パレードまでには許して機嫌を戻そうとしていた私は打ち砕かれた。
汚れた物、汚れた考え、汚れた行動が嫌いだ。
汚れでベタついた皮が空気を切って来る。すると、心は内側に引っ込み、頑なに自分で守り出す。嫌いな物は数えたくないのに、私の為に、世界の為に、蓄積されていく。

別の女と遊んでいる証拠は無いのに、明らかな違和感が私を襲う。
嫌いな所を用紙に書いて、紙飛行機にして飛ばそうか。
そんな、大した事ない物にまとめるのも、負けた感じする。
いっその事別れよう。そうして、自分も変わろう。
LINEに文章を打ち込む。
突然別れを切り出す私がおかしい事はわかっている。
でも、これは正しいんだ。私の中の正論は、どんなにおぼろげでも全てが正しく、私の中の心を愛情で満たす為の、必要な正義でもあるんだ。
文章を打ち込んだ後に、眠くなった。
なんでこんな時に眠くなってしまうのか。
絶対寝てはいけない。寝たら、前までの私に戻ってしまうんだ。
うとうとと、物凄く眠くなる。
LINEにここまでの文章を打ち込んだんだ。寝て起きても、後は決意された文章と共に送信するだけ。こんな事、出来るに決まっている。
だけれども、いつもの事も、知っている。
寝てはダメだ、起きよう、物凄い睡魔にやられないように、奮い立たせる。
送信ボタンを押すだけ。
押してから寝ればいい。
絶対に送信するんだ。

押した。
そうして、そのまま寝転び、夢の中に入った。

夢の中の私は、子供になって、広場を駆け回っていた。
嫌いな物を数える私は、そこには居なかった。
起きたら、どんな感情になっているのだろう。
それが怖くて、起きないで居た。
広場の隅っこまで行き、柵のふもとにある土を引っ掻いた。
爪の中に入る土を反対の手の指で取り除こうと、指先の皮膚が挟まれる中、痛みで少しだけ目を閉じる。
痛みが残っているのに、眠りに落ちそうだった。

起きてから、窓を閉め、意識はすぐに戻り、LINEを開くのをためらう。
どんな返事が来ているのだろう。
不思議とすがすがしい気分だった。
いや、不思議ではないのかもしれない。だけれども、不思議だなって思った。
眠って起きてから、私は変わったのだろうか、新しい自分になったのだろうか。
どっちにしろ、勇気を出してLINEを開くしかない。
ホーム画面から、一呼吸してアプリを起動しようと思っていたのに、トーク画面のまま表示を消していたから、すぐにトークが現れてしまった。
そして、まだ既読が付いていなかった。
いま予定が入っているのかな。
だけれども、LINEを開かなくても出てくる、二行くらいのプレビュー画面を見て、そのまま続きを一生見ないで欲しい。
形がある心を、形のない物にした、一緒に居た時の私のその嬉しさだけは、秀君の為に汚さないであげよう。
そう思って、目を閉じる。
涙が流れるのを待つ程のいたずらさと余りにもな傲慢さは無い。
罪悪感の為の苦しみも無い。
だけれども、眠くなる程の、汚さを、持っていない、私は居た。

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