『さあ、』


「さぁ」

それは彼の口癖だった。

「さぁ、たって」
「さぁ、いこうよ」
「さぁ、わらって」
「さぁ、てをとって」

その口癖に続く言葉はいつだって私を彼の世界へと連れ込む魔法の言葉だった。
ずっと、そうであって欲しかった。
そうであって欲しかったのに

「さあ、行っておいで」

彼の世界から追い出された様な感覚がして、少し泣きたい気分になる。
目の前には私の世界が広がっている。
振り返ると彼はいつも通りの笑顔。
彼は私が踏み出すのを望んでる。
ずっと、そうが良かったのは私だけだった。



『さあ、』3章 別離より

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