見出し画像

奇跡の復活を遂げた島「海士町」 〜その舞台裏から、未来へ

島根県隠岐郡にある離島、海士町。過去には、人口減や財政難などの多くの問題を抱えていました。そこから「奇跡の復活」を遂げ、今では移住者の集まる活気ある島となりました。

それは本当に奇跡だったのでしょうか。

その背後には、着実に、島の再生を支えた人々の姿がありました。
立役者の一人が、有限会社イーズ 代表取締役の枝廣淳子さんです。
AMAホールディングス株式会社(以下、AMAホールディングス)代表取締役の大野佳祐がインタビューしました。

話題は海士町の復活劇の裏側、そして現在から未来へ。それは日本の未来にも繋がっていくかもしれません。

枝廣淳子 有限会社イーズ 代表取締役/大学院大学至善館教授/海士町魅力化ファシリテーター/海士町未来投資委員会理事

東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。『不都合な真実』(アル・ゴア氏著)の翻訳をはじめ、環境・エネルギー問題に関する講演、執筆、企業のサステナビリティに関するアドバイスや研修等の活動を通じて、地球環境の現状や国内外の動きを発信。
システム思考やシナリオプランニングを生かした合意形成に向けての場づくり・ファシリテーターを、企業や自治体で数多く務める。多くの地方で、意志ある未来を描く地方創生と地元経済を創りなおすプロジェクトにアドバイザーとして関わっている。

ーーーつながりを取り戻す

枝廣:枝廣淳子です。環境問題を中心に、持続可能性に関わる活動を25年ほどしています。ライフテーマは「つながりを取り戻すお手伝い」です。
カウンセリングの勉強中に、人は大事なものとのつながりが切れた時にメンタルの問題を起こすと気づきました。その後、環境問題に関わり、人間が地球とのつながりを切ってしまったから環境問題が起きているという考えに至りました。
また、日本の持続可能性には地方の持続可能性が重要だと気づき、地方創生のお手伝いもしています。自分たちの歴史や伝統、誇りとつながりを持ち続けている地域は元気だと感じています。
今後も、形は変わるかもしれませんが、大事なつながりを取り戻す手伝いをし続けていくつもりです。

ーーービジョン作りはプロセス。その中で得たのは住民どうしのつながり

大野:枝廣さんの1番最初の海士町との接点は何だったのでしょう?

枝廣:私が「100万人のキャンドルナイト」を始めた時に、阿部さん(現AMAホールディングス取締役)と知り合いました。そこからつながりが続き、2014年に海士町の若手に向けた勉強会で話をしてほしいとお誘いを受けたのが最初です。
翌年の2015年、各自治体に人口ビジョン作成のための予算が国から付いた時、海士町前町長の山内さんからお手伝いを頼まれました。
「この人口ビジョン作りのプロセスを使って、次世代のまちづくりチームを作ってほしい」と。

その時の海士町の印象は、「燃えてる!」という感じ。みなさんからすごく熱意を感じました。そして海士町以外の地域で頑張ってる人たちが、次々と移住してきていました。「うわ、すごい島だな」と思いましたね。何か大きなことが始まりそうな雰囲気を感じたんです。

大野:人口ビジョンの作成はどんな風に進みましたか?

枝廣:地元の人も移住者も集まって「明日の海士をつくる会」(通称:あすあま)が立ち上がりました。そこから半年間毎月、あすあまのメンバーで集まり、海士町の人口ビジョンのループ図を作りました。

あすあまで作った海士町人口ビジョンのループ図

枝廣:最終的には、完成したループ図とそれに紐づくあすあまのメンバー1人ひとりの行動宣言を町長に手渡したんです。町長は、涙ぐむほど喜んでくれました。あすあまのメンバーがまちづくりを自分事として捉えていたから。

ーーー対症療法ではない、将来への解決策を求めて

大野:枝廣さんはどんな想いでこの人口ビジョンのループ図を作ったんですか?

枝廣:人口ビジョンそのものは島の人が作るもので、私はあくまでもそのプロセスをお手伝いしました。ただ、次の3つのステップは大事にしました。

1、バックキャスティング(理想の未来像から現在へ遡って考える方法)で、ありたい姿を考える
2、システム思考(取りまく状況を含め問題全体のつながりを見つけ、解決策を練る方法)を使ってループ図を作る
3、ループ図から見えてくるつながりの構造を良い方向に変化させていくために、具体的なプロジェクトを考える

枝廣:普通は、問題からすぐプロジェクトに飛びがちですが、それでは対症療法にしかならない。だから3ステップにこだわりました。
心がけたのは、東京から来た私のペースでやらないことでした。地元の方々はじっくり考えて話す方が多かったので。
毎月の話し合いと深夜までの振り返りは、今思えば青春の思い出ですね。10年経った今、当時のメンバーが町の要職に就いているのを見ると、感慨深いものがあります。

大野:このループ図を一番活用しているのは僕だと自負があります。プレゼンの際にも、ループ図のどこを話しているか説明すると、とても伝わりやすいんです。
僕のバックグラウンドは教育なので、主にループ図の上部、人口や子どもに関する部分を長く担当してきました。でも、下の部分がうまく進んでいない気がして、今はAMAホールディングスでそこに取り組んでいます。

大野:最初に注目したのは「外貨獲得」。そのために、ふるさと納税を増やすことから始めました。それが「新規事業への投資」につながり、海士町未来共創基金(運営:一般社団法人 海士町未来投資委員会)が生まれました。なので、このループ図は、ある意味でAMAホールディングスの運命を決めているくらい心のよりどころになっています。

枝廣:使ってくださってるのは、もう本当に嬉しいです。

ーーー東京と地域、両方で暮らして見えてきた、地域への提案

大野:あすあまのプロジェクトが枝廣さんの地方創生活動の始まりだったと聞きましたが、それ以前もまちづくりに興味はあったんですか?

枝廣:地元でやることの大切さに目覚めたのは、海士町での経験があったからです。最近、東京から熱海へ移住したのも、この経験からつながっています。

大野:住む場所が変わって海士町との関わり方に変化はありますか?

枝廣:大きく変わりました。地域に住むことで、より実感をもって考えられるようになりました。政策だけでは地域は簡単に動かないという現実もわかり、アプローチも変わりました。今、地域と国、両方に関われて幸せです。

大野:今の海士町は枝廣さんから見てどうですか?

枝廣:日本全体が地盤沈下している中で、海士町も10年前より弱くなった面はあります。日本全体として、「レジリエンス」つまり辛いことがあってもしなやかに立ち直る力が弱まっているように感じます。これは、きっと教育のせいでもあって、諸外国ではレジリエンスを高める教育をしている国もあるんですよ。

枝廣:でも、あすあまで築かれたつながりは今も海士町の強みになっています。ただ、福祉や医療など、当時考慮していなかった要因も大きくなってきたので、ループ図の見直しが必要だと感じています。

大野:次のビジョンを作る時に、世代間ギャップが課題になりそうだと思っています。例えば、ループ図にもある「挑戦」という言葉は若い世代にあまり響かなくなっている感覚があります。

枝廣:価値観や移住に対する考え方も変わってきていますよね。価値観の違いを認識しつつ、新しいビジョンをどう作っていき、次世代にどうつないでいくか。これは他の多くの地域でも直面している課題だと思います。

ーーー可能性を形にできる海士町。それがこの町の強み

大野:今後の海士町に持ってる期待や、伸ばしていったほうがいい町の強みはありますか?

枝廣:残念ながら女性の活躍の場が少ないことは、10年前から変わっていません。生き方や活躍の仕方の多様性を広げていく必要があると思います。ただ、これは簡単ではなくて、女性自身も自分に蓋をしてしまっている部分があるし、男性も意識を変える必要がありますよね。
一方で、この島の強みは、様々な可能性を持った人が集まり、その可能性を形にしていくことを町全体が応援している点です。次々と新しいことが生まれる躍動感は、ぜひ維持してほしいです。

また、人口が減っていく中でも幸せな地域をどう作るか。これは多くの自治体の悩みです。人口が減ると、暮らしに必要な施設や文化すらも維持できなくなるから。
海士町がどういうあり方を示せるかに注目したいです。特に「終わらせる」という視点が大切だと思っています。始めるのは比較的簡単ですが、終わりにするのは難しい。現実から目を背けず、考えていく必要がありますよね。

大野:「終わらせる」という視点は刺さりますね。

ーーーリアルな体験がより強い価値になっていく

大野:「つながりを取り戻す」という枝廣さんのライフテーマについて、最近実感することがあったんです。久しぶりに海士町内で綱引き大会があって、本当のつながりを持つ最高の機会でした。
一方、テクノロジーが発展すると、その分、人とのつながりが失われていくようにも感じます。

枝廣:おっしゃる通り、テクノロジーは私たちの生活を便利にし、生産性を上げると信じて使ってきましたが、必ずしもその側面だけではない。
その点で、ブータンの例が興味深いんです。ブータンは1970年代に「国民総幸福量」という考えを提唱しました。テクノロジーの導入にも慎重で、テレビやインターネットの導入時期を国として決めていったんです。ですが、世界中が「生産性」を追求している中で、ブータンだけが「幸せ」を追求することはできない。ブータンはそれに気づき、この考え方を広げるための専門家を集め国際委員会を作りました。私も委員会メンバーの1人です。

これから、AIなどの新しい技術が発展する中で、海士町も、それらをどのように導入していくかを自分たちで決めていく必要があるんじゃないかと思います。特に子どもたちへの影響を考えると、慎重にならざるをえません。

大野:確かに、子どもたちを取り巻く環境は大きく変わってきていますよね。

枝廣:ええ。テクノロジーが発達すればするほど、逆説的に、リアルな体験の大切さが増していくと思うんです。

例えば、私がやっている環境教育の例なんですが、きれいに見えるビーチで、紙コップに砂を採ってくる。それをビーカーの水に入れると、マイクロプラスチックが浮いてくる。一見きれいなビーチでも、実はマイクロプラスチックがあることがわかるんです。その後、ビーチ清掃をすると、小さなプラスチックごみがたくさんあることに気づく。リアルな経験は、その後の行動にも影響を与えるんです。
リアルな体験の価値をもっと磨いていく必要があるんじゃないかな。

ーーー大切なのは、つながりを取り戻す時間

大野:今日はありがとうございました。過去・現在・未来の海士町を枝廣さん視点からお聞きできて、すごく新鮮でした。
では、最後に。「人々がつながりを取り戻す方法」として、具体的にどんなものがあるんでしょうか。

枝廣:特に大切なのは「時間」ですね。立ち止まって声をかけたり、思いやれる関係性を作る時間が大切だと思います。忙しいという字は心をなくすと書きますよね。 本当に、みんな忙しそうだから。

人口ビジョンを作った時のように、共通のもののためにある時間を使ってきた感覚があるといいのかもしれないですね。つながりが再確認できるような機会を。

ーーー終わりに

対談を通して、海士町が奇跡の復活を遂げた当時の海士町の住民たちの情熱と、それが枝廣さんをはじめとした島外の方を巻き込み、大きな力になったことが伝わってきた。誰か1人の力ではなく、多くの力が結集してつながりあって今の海士町の姿があるのだなと。

そして、これからは、次に進むための時間を作る必要があるのかもしれない。そのためには、終わらせるということも大切になる。

そして、その時間で、次の未来をつくっていく。暮らしている私たちがその当事者なのだと、感じた。


AMAホールディングス株式会社は、海士町とのおもしろいかかわりしろをつくり、未来をつくりたい!と考えている方々の最初の窓口になりたいと考えています。
どんなことでも構いません。ぜひ一度気軽にご連絡をいただけたら。

海士町への視察のお申し込みも受付中です。