見出し画像

閑話(ひとり)

「言葉って整えたら消えちゃうよね、って言ってたけど、あれ本当だったよ。本当に消えた。正確には、消えたんじゃなくて透明のままそこにあるって感じだけど、なんか、運動場の砂みたいな。部活が終わったあとに、トンボ?っていうなにかの骨組みみたいな見た目したやつで地面を均す作業あったじゃん。あれやると、運動場の、わたしたちがさっきまで部活でスライディングとかして太い線が入ったり、みんなの靴の裏の柄が重なってぼこぼこなったりしてた部分がぜんぶ平らに整えられて、元通りになるじゃん。元通りって、0ってことで透明ってことで、それで、ああ綺麗になったなあとか思ったり、まあわざわざそんなこと思わなかったりする場合もありながら、そうしてみんなふつうにまた、綺麗な地面を無視して踏んでいく感じ。あれだった。
通り道だから当然通るんだけれど、通るってだけ。言葉の見た目を形作ってる文字があるだけ。整えたら整えた分だけわかりやすくなるなんていうのは嘘で、整えてるあいだに、どんどん言葉が削れてくの、あれ、なに?なんで?分かんないけど、削れていく言葉のしっぽをぎりぎり掴んでこっちに戻そうとしても、もう整え始めたものはさっきと同じようには乱せなくて、ああ、そういうことかって思った。その、乱れの中にだけ言葉がやどってるのかもって思った。整えたらいつも、残るのはただの文字だけになっちゃってて、外側だけになっちゃってて、人と言葉の死ぬ姿って似てるのかも、とかの、あっそういう着地点かーい、ていうところに今、います。そっちは?」

いいなと思ったら応援しよう!