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尺が足りない飲み会と話を積み上げたいオードリー若林さん

大人数の飲み会は嫌いと語るオードリー若林さん。話に入っていけず一人になってしまう時間ができてしまい、早く帰りたくなる、と様々な番組で語っているが、どうやらはこの葛藤は、人数の多いバラエティ番組を得意とせず、ラジオでこそ持ち味を発揮する若林さんの本能的な嗜好と根は同じようだ。

大人数での飲み会ではどうしても一人あたりの持ち時間が限られ、じっくりと背景や登場人物等を丁寧に説明する尺は与えられず、ギュッとポイントを掻いつまむことが求められる。

一つの話題に関していろいろな観点から探っていき、話を積み上げていくことで見えてくる本質や興をそそられる見解が存在するはずであるが、人の数は話の移ろいを早め、それを許さない。

そんな飲み会で誰しもが抱えていたものの表明しづらかった葛藤に、若林さんは一言「嫌い」とライトを当てた。それは単純に感性的なものだったのかもしれないが、若林さんの趣味嗜好と得意領域という観点で整理すると、事はより明快だ。

若林さんは圧倒的に話を積み上げたい側の人だ。類まれなる言語化の才能と磨き抜かれたトークの技術がそれを実現するが故、それが許されない人数の多い飲み会やバラエティ番組といった環境に人並み以上にフラストレーションを溜める。

ラジオでは思う存分に話を積み上げることができる。そぎ落とすことなく、必要な要素をつぎ足し前提条件を埋めることで、本来伝えづらい絶妙に若林さんの琴線に触れたエピソードもリスナーへ伝えられる。丁寧に積み上げ高い解像度で映し出した独特な感性がリスナーの強い共感をよんでいるわけだ。

導きたい世界観まで積み上げるには、気心の知れた聞き手が必要だ。感性が合わない聞き手であったり、聞き手の人数が多いと伝えたい世界観が思わぬところへ運ばれてしまう。人の話を聞くのが上手い人は、話し手が積み上げる作業を邪魔せず、たどり着いた世界観を理解する解像度が高く、世界観の翻訳者にもなれる。

積み上げる作業は聞き手に回るシーンでも同様だ。キャッチボールで話し手から的確に話を引き出し積み上げていくことで、実は話をしている本人も気づいていなかった奥に眠る本心が見えてきたりする。これは非常に繊細さが必要な作業であり、少しでも感性の違う横やりが入ると積み上げていたものが一瞬で瓦解する。

若林さんは聞き手として人の話も高く積み上げられる人であり、ファンには様々なゲストの話がどのように積み上げられていくのかを見たい強い欲求がある。

テレ東の佐久間さんが「あちこちオードリー」で実現している枠組みは、若林さんが大御所のみが担えるテレビの積み上げるトークMCへの確かな一歩を踏み出させている。

ただ、若林さん自身が思う存分に話を積み上げられ持ち味を発揮できる舞台はやはりラジオであり、爆笑問題太田さん始め芸人の方々からもとりわけ高い評価を得ているのもラジオだ。

ラジオに敷かれた広大な白いキャンパスに一筆ずつ繊細にエピソードを積み上げていく若林さんの油絵は、リスナーの想像を巧みに掻き立て心をシンクロさせていく。僕たちはその次の一枚が与えてくれる笑いと癒しを期待して、春日さんと織りなす一筆一筆を耳に積み上げていく。




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