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「変える」ことをやめる勇気

変える方が楽なことってこの世界には沢山ある。

友達との会話でなんとなく空気が合わなくても、その違和感のある自分を「変える」

別に興味もないドラマを話題についていくために、自分の趣味に使っていた時間を「変える」

会社の中で置いて行かれないように、疲れて泣きそうな自分を「変える」

人も社会も、そのままであり続けることよりも、変えるという痛みを引き受けて、きっと今の世界ってあるんだと僕は思う。

けれど、僕はそんな”変わるべき”なのかもしれない醜さを、そのままの姿で抱きしめたいって思うんだ。


人を「変える」ために活動をしていた大学1.2年

大学生になって最初、僕は僕自身を、そして僕が関わる人々を変える術をずっと探し、学び、行い続けてきた。

夢を持つことができない人が夢を持てるように「変える」

病んでしまった人が健康になるように「変える」

目標に向けて行動できない人を行動できるように「変える」

誰かのため、世の中のためと当時の僕は話していたけれど、結局は自分自身が「変わる」ということに囚われていたんだと今となっては思う。

子どもの頃から、普通の人ができることができない、当たり前を当たり前にすることができなかった自分が怖かったんだと思う。

また、この社会の中から普通じゃない自分は弾き出されてしまうんじゃないかって、そんな痛みから逃れるために必死に生きていたんだと思う。


社会を「変える」ために活動をしていた大学3.4年

けれど、ある時に思ったことがあった。

どうして、苦しくて 悩んで 困っている、今にも泣きそうになっている人々が「変わる」必要があるんだろうかって。

多くの人々の苦しみを、痛みを、悲しみを聞く中で、そして何より自分自身が苦しみ続ける中でそれがわからなくなった。

そのわからなさは、怒りという感情に変わった。

『変えるのは人ではなく社会だ』

その強いエネルギーに駆り立てられる中で、大学の設立に携わり大学のあり方を変え、新しい教育プログラムを開発し全国に届けることで教育を変え、起業家としてこの社会を変えるために自分のできるありとあらゆることにそのエネルギーを費やしてきた。

けれどそれは関わる人を、何より自分自身を疲弊させるだけだった。

社会を変えるなんて大それたことを言っている割に、現実なんて何も変わらなくて。そんな現実をただ突きつけられるだけだった。


「変えなくても」幸せがあると知った大学5.6年

そんな風に悩んでいた時、友人からの誘いでマーダーミステリーと呼ばれるエンタメコンテンツに参加をした。

殺人事件に居合わせた登場人物になりきってその事件の真相を解き明かしていく、いわばミステリー小説の世界の中に入り込む体験だ。

その時、僕は事件の被害者である、とある夫婦の旦那さんが殺される契機となる不倫を唆したホストの役で参加することになった。

現実の世界にいたら”人間のクズ”と言われそうな所業、それこそ”変えられなければいけない”と真っ先に言われてしまいそうな人物を演じているとき、心から僕は自分であることができるように感じられた。

僕たちは”常識”の中で生きている。

それこそ、「不倫」や「人を騙す」ことは常識的にやっては行けないことだ。

でも、僕たちはそんな”常識”に縛られる中で時として自分を必要以上に縛りすぎてしまうことがある。

「甘えちゃいけない」「頼ってはいけない」「弱いところを見せてはいけない」「文句をいってはいけない」「だらけてはいけない」「中途半端ではいけない」「泣いてはいけない」「怒ってはいけない」「逃げてはいけない」

そうやって”常識”という名の足枷を自分につけて、身動きが取れなくなってしまうことがある。

そんな足枷から、僕は解き放たれることができたのだと思う。

別に社会も僕自身も変わったわけではない。

けれど、ただ演じることで僕にとっての幸福がそこには訪れたのだった。

『変えなくても得られる幸せがある』

その時、僕は気づいたんだ。

僕がずっと探し求めていたのは、そんなただ自分が何の縛りもなく表現できる空間だったということに。

”常識”や”正しさ”、”当たり前”の中で表現が許される綺麗な感情、感性だけではなく、時として醜くくて汚いと思えるようなそんな感情、感性をも丸ごと表現することができるような世界に、僕は辿り着くことができたんだと、その時思った。


人の醜さを愛していくこれからの人生

誰しもの心の奥底には願いがある。

「本当は甘えたかった」「本当は怒りたかった」「本当は認められたかった」「本当は愛されたかった」「本当は繋がりたかった」

そんな誰かの願いに触れること、
自分自身がその願いを表現することが心の底から僕は好きだ。

ずっと無くそう、消そう、変えようとしていたそんな醜さが僕にとって1番愛おしいものなんだってようやく気づくことができたから。

そんな願いを突き詰めて、創り出したのが「Immersive Novel Game(ING)」。 

言葉で世界をイメージしながら物語を進める「TRPG」と呼ばれる手法。

演劇のように、フィクションの世界を観客が”観る”のではなく。演者が実際に観客とコミュニケーションを取ることを通して劇の世界に”参加”していく「Immersive Theater」と呼ばれる手法。

この二つを掛け合わせることで、

「人の心の奥底にしまわれた願いを物語化し、その人の望む自分を表現できる瞬間」を届ける、そんなエンターテイメント。


自分の醜さを見るのはとても怖いものだと思う。

自分の中の過去から蓄積されたドロドロした感情。

でも、同時にその奥底には届かない声で叫んでいる願いがあって。

そんな心の奥底に届く物語を僕はこれから描き続けていきたいと思う。

いつか、

「誰もが自分の感性を解き放てる瞬間が溢れるような世界になる」

その時を願って。

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