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「外で食う」

外でする食事はいつもより美味しい。天野陽介にとってもそれは同じだ。
ただ一つの問題は彼が末期の人肉嗜食者と云う事であり、その時点でこの話は既にオチているのだが、あえて続きを語ろう。

「え?何食ってるって、そりゃヒトですけど。いやいやどこからって、そんなの自分の家からに決まってるじゃないですか(笑)」

天野は九州某県に産まれた。
当時29才の天野は北関東某市にて大型百貨店に勤務しており、一人暮らし。
同僚は「真面目で責任感が強い。あんな事をする人とは信じられなかった」と口を揃えて語る。

「ええ、重いですし、最初は弁当箱に入れていこうかなって思ったんですけど、ヒトの醍醐味ってやっぱりあの『丸ごと感』じゃないですか。折角のピクニックだし、どうせなら美味しく食べたかったので。こんな良い天気の日に、家で一人寂しく食べるなんて嘘でしょう?騒がれるかな、とも思ったけどまあいいやって。結局大騒ぎになっちゃってビックリしましたけど(笑)」

天野が『食べて』いた女性について述べると、年齢は20代前半、死因は後頭部をバールのようなもので強く殴られた事による脳挫傷。指紋による前科、歯科治療の痕跡等から特定も困難で、外科治療の有無については食害が激しく判断不可。現在に至るに身元は不明である。

天野の同僚、同級生、知人、家族、その他諸々交友関係で行方不明になった女性はこれまで一人もいなかったが、家宅捜索にて、捜査員がおそるおそる冷蔵庫を開けると……ワオ!

「そうですね、食べたくなったら気まぐれに食べてるんで、何人とかは特に覚えてないんですが……はい、すみません。死体の処分?ああ、僕わりかし残さず食べる方なんで。あ、知ってますか!?あんまり知られてないんですが、鯨やあんこうと同じで人間も捨てる所が殆どないんですよ?ほら例えば今僕が着てる革ジャンも」

彼の自宅からは特に人肉食を示唆させる映画、小説、漫画、ゲーム等は見つからなかった。少年ジャンプの単行本がそれなりにと、人気サッカーゲーム等のTVゲームが数本、あとはベストセラー恋愛小説と、『極めてノーマルな』アダルトビデオが数本である。これらの中で辛うじてカニバリズムを連想させる部分と言えば、漫画『ワンピース』に於いて、遭難した海賊が自分の脚を食べる部分程度であろうか。趣味は風景画で、道具一式とレッスン本が見つかった。精神鑑定はなんと正常。

「ええ、ええ、やっぱり色々食べ比べてみたら若い女性が一番美味しかったですねえ。肉も柔らかくて、脂も乗ってて。臭いはちょっと強いんですが、一度慣れたらそのクセが魅力ですね。他も大好きなんですがね、どうせ食うならやっぱりねえ。性的興奮?いえ特に。いや、そんな、人間食べてチンコ勃つとかただのやべー奴じゃないっすか(笑)あ、すいません刑事さん一本頂けませんか?あ、いえ、煙草じゃなくて右腕の方です。」

この事件(人肉ピクニック事件に限るなら)の最大の不運は、彼の"ピクニック"と近隣の小学校の遠足日程が丁度重なってしまったことであろう。彼の"食事"を目撃した児童の大半が今も尚重度の心的外傷ストレス生涯に悩まされている。

「いやですね、子供達は可愛いと思うんですがね、なんとまあオニギリでキャッチボールしてる子供がいたんですよ。しかも教師も笑って見てるだけで。許せないでしょう?だから僕が、食べ物を粗末にするなってね。食べ物で遊ぶと、オバケに食べられちゃうぞって怒ったんですよ。そうしたらその子、人を食べてるのはお前じゃないかって。こりゃ一本取られた(笑)」

こうして天野は昨年、戦後史上最大の速度で死刑判決を受けた。しかしながら、彼を護送中に折り悪く発生したさいたま大地震の混乱に乗じて彼は脱走。警察、消防は災害の対応にその全能力を裂かれ、彼を確保する機を逸した。

彼の行方は今尚、杳として知れない。

「美味しかったかって!? そりゃあもう!!」

(おわり)

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