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【年間ベスト】2020年に出会った日本アルバム20&トラック50選

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日本と縁が多いわりに、日本音楽についてはまだ全然知らないばかりです。それでも、これからもっとたくさんの音楽と出会うための契機として、ごくわずかですけれども色んな経路で出会った日本の音楽についても小さく決算を行いました。アルバム編では未熟ながらも簡単なコメントを付けてみました。

※選定期間:2019.12.~2020.11.
※トラック編は発売日順

RateYourMusicで簡単なまとめ(アルバム編トラック編

2020 Best Japanese Albums 20

20. 玉名ラーメン, 《sour cream》

2001年生まれの若き新鋭、玉名ラーメンの《sour cream》EPの、5曲12分の短い時間の中で繰り広げられる世界はぼんやりしていて不安定だ。かすかなトップラインと静かに沸き上がるグリッチ、その下で注意深く打たれるテクノビート、神秘さと不安定さを刺激する朦朧なクラウドラップなどが、予測しにくい展開で交差する。その交差は、霧の中で聴者の足元を導き、いつの間にかダンスステップを踏んでいる自身と出会えるだろう。


19. mei ehara, 《Ampersands》

暖かい音色がある。少しばかり精神を休めるために身を任せたいグルーブがある。mei eharaが直接バンドメンバーを集めてセルフプロデュースした本作は、レゲエ、ファンク、ソウルからジャズ、ボサノバに至るまで、暖かく復古的なポップナンバーで飾られている。イージーリスニングできながらも、詳しく聴くほどその厚い魅力にはまるシティーポップアルバム。


18. Maison book girl, 《海と宇宙の子供たち》

J-Pop市場の短くない歴史だけに、代案的な試みも色々となされているようだ。Maison book girlもまたその系列で有名なグループである。J-Popグループ特有の各パートと和音部が明確なボーカル運用が聞こえながらも、その下でフォークレトロニカ、マスロックなどと様々に変奏するジャンルとエキセントリックな歌詞、サウンド、拍子の展開が続く。それにもかかわらず、本作がポップに帰結する理由は、R&Bやポップロックなどを貫通するジャンルを凝集する統一性のある音と優れたパフォーマンスがあるからだろうか。


17. サニーデイ・サービス, 《いいね!》

四半世紀以上も活発に活動しながらも、今でも現在進行形で愛されているフォークポップ及びオルタナロックバンドのサニーデイサービスの動力は何だろう。まだ彼らの初期ディスコグラフィーをちょっとだけ接しただけなのだが、その状況で本作を聴いた時もその音楽色が割と一貫していて、それが今でも有効なのだと感じた。普遍的な情緒を明るく詰めて与える慰め。一歩踏み外せば陳腐になるかもしれないのに、少なくとも本作での彼らは、変わらず新鮮で力動的な、青春の同僚だ。


16. 岡田拓郎, 《Morning Sun》

フォークロックの淡白な構成をサイケデリックロック、ドリームポップなどに拡張した岡田拓郎の本作は、まだ自分の識見では、ただその神秘な質感について感嘆するほかに言えることはないと思う。明るく広がるメランコリックな情景が一貫した質感で繰り広げられる中、神秘なメロディーと、暖かくてまた不吉な転調が見える〈Morning Sun〉から、本作でちょっとずつ見せられていた実験性を11分の長いスケールに拡張した〈New Morning〉までの旅路は、同行する価値があるだろう。


15. tricot, 《10》

マスロック、オルタナロック、パンクロックなど、ロックのサブジャンル文法を貫通しながら自らの色を築くバンドtricotは、2020年に完成度の高いアルバムをなんと二枚も披露するのだが、本作は予想外のタイミングで発売された、彼女らのその年二枚目のアルバムだ。日常の虚無と残酷な冗談を行き来する歌詞と共に、ポップロックらしい感性が満開しながら、追いかけられないリズムの間で繰り広げられる編曲アイデアは、今回も恍惚な限りである。


14. ROTH BART BARON, 《極彩色の祝祭》

Bon Iverがオルタナティブ・ロックに手を出せばこんな感じだろうか。本作を聴きながら思った。〈dEsTroY〉、〈000Big Bird000〉、〈ヨVE〉などのネームセンスでもっとそう感じたかもしれない。フォークロックと名付けるにも曖昧な、フォークの楽器で勇壮に拡張するスケールは、細く発話される声を、アルバム名ごとく極彩色に塗り出していく。リードシングル〈極彩 | I G L (S)〉での「きみの物語を絶やすな」という強権と、「祝祭が見たいんだ。極際の気持ちで」と叫ぶ高揚の瞬間は、本作の巨大な饗宴に比例して、純粋な夢を再び夢見るようにさせる。


13. Awich, 《孔雀》

沖縄出身で、様々な背景を持つラッパー及び美術家のAwich。彼女の本作は色々なスタイルのブームバップ、トラップビートから、ロック・ラップやエレクトロニック・ポップ、ラテン・リズムに至るまで幅広いジャンル運用を通じてトレンディーなポップラップを駆使して、20曲に至る長い時間にもかかわらず、後半部に至るまでテンションを落とさず印象的な瞬間を残す。その瞬間を輝かせるのはもちろんAwichのしっかりして優れたパフォーマンスで、だからこそアルバムに収録された多彩なスタイルは、アルバム名ごとく華麗な孔雀の羽のように、彼女の多面性を素晴らしく表す。


12. 長谷川白紙, 《夢の骨が襲いかかる!》

デジタルな音のアナログな(かつカオティックな)演奏。どこへ弾むかわからなくて、運用の技量だけは確かな中性的なボーカル。《iPhone 6+》, 《草木萌動》, 《エアにに》などの個性豊かで衝撃的な作品で注目を浴びるアーティスト、長谷川白紙。その次のステップは予想外に〈シー・チェンジ〉を除く全曲をカバー曲で詰め込んだ。もちろんただのカバー曲とは考えられないくらい強烈な個性が溢れ出すが、割と柔軟に変化したアーティストの姿また軽く見過ごせない。


11. downy, 《第七作品集『無題』》

デビューアルバムから20年を目前にするポストロックバンドdownyの七つ目のアルバム。巨大で不吉な機械音が具現するとあるイメージに最初から巻き込まれてしまう本作は、ポストロック、マスロックをはじめプログレッシブ、エレクトロニック、インダストリアル、ポストパンクなどの様々なジャンルが持つ心象を、本作が具現する世界観の中に統合し、貫通する。緊張感が長時間持続する強烈な情景は、不快な感想を残し、だからなおかつ神秘だ。


10. 冥丁, 《古風》

過去の音をコラージュして作るプランダフォニックス音楽はまだ慣れなくて、不思議だ。DJ ShadowからThe Avalanches、Oneohtrix Point Neverなどの名前を挙げられるだろうが、その素材の選択において、冥丁は彼らとはまた別の道を歩むはずだ。日本の古典音楽を中心的にサンプリングして再配列した本作を聴くときには、たやすく「オリエンタリズム」という言葉が浮かび上がる。いや、当時に実在した音楽を複製しただけにも関わらず、ステレオタイプの一種と言えるオリエンタリズムだなんて…。それは、配列するリズムの方式と質感からそう感じられるのかもしれない。意図的に作られたはずのアンビエントな質感と西欧的なエレクトロニックリズムで、本作は前述したサンプル素材などのところでOPNなどと違う道を歩みながらも、また彼らとどう位置で比較できたのだろう。伝統音楽であふれているが、伝統音楽として機能させなくするその配列の力が、今はまだ不思議な限りだ。


9. 小袋成彬, 《Piercing》

R&Bシンガーで作詞・作曲家、プロデューサー、映像監督など多方面で活躍する小袋成彬は、ベテラン歌手の宇多田ヒカルの制作でデビュー作《分離派の夏》(2018)を発表して反響を起こす。ファルセットを基にした歌唱にジャズ、ヒップホップ、ネオソウルなどを行き渡る緻密なプロダクションは、本作において拡張された形態でつながる。もっとアンビエンチックになった質感にロック、電子音楽などを活用した接近が引き立って見えて、コンテンポラリーからオルタナティブに至るまでのR&Bを構成する根源の音を探求するようだ。フィーチャリングのラッパーラインともよく調和し、それぞれハイライトを飾る。


8. 藤井風, 《HELP EVER HURT NEVER》

2020年の日本音楽界で一番印象的なデビュー作の一つとして挙げられる藤井風の本作では、聴者の肩を自動に躍らせるキャッチ―なメロディーと楽しいグルーブで飾られる。淡白に見えて素晴らしい技巧が現るボーカルは、故郷のなまりも詰め込む歌詞と共に自然な魅力で輝く。midiとバンドサウンド、オーケストレーションまで行き渡るプロダクションはシティーポップ、コンテンポラリー、オルタナティブR&Bなどの多彩な魅力を発散するのだが、彼の自然なグルーブは大きく一貫したR&Bの色に統一させる。方言の魅力が自然ににじみ出る〈何なんw〉と〈もうええわ〉、キャッチ―なメロディーの現代式R&Bバラードナンバー〈優しさ〉、死に対して慎重かつ希望的な考察が印象的な〈帰ろう〉など、暖かくて魅力あふれる曲たちは、言語の障壁を超えても慰めを与えられるだろうと確信する。


7. 君島大空, 《縫層》

本作を聴きながら、韓国のアーティストMid-Air Thiefの予測不能な音を思い出した。フォークを基にアンビエント、エレクトロニック、メタルに至るまでの音をアヴァンギャルドに展開していく君島大空の二番目のEP。前作《午後の反射光》(2019)と比べて予測不能さは増し、もっと荒れる音と多様な実験へと拡張していく。Mid-Air Thiefの音で慣れた(?)フォークレトロニカナンバー〈傘の中の手〉を通して没入した次に待つのは、〈笑止〉のフォーク・メタルである。〈散瞳〉のグリッチ・ポップ、〈火傷に雨〉のキャッチ―で哀愁に染みたインディーロックを超えると、本作を取り巻く実験性が拡張された〈縫層〉、〈花曇〉へと連なる。フォークロック、メタル、フリージャズなど、様々でかつ矛盾にも聞こえるルーツが融合して誕生した本作は、それだけ色んな方面で予測しにくい魅力を含んでいる。


6. 米津玄師, 《STRAY SHEEP》

ある音盤に対する賛辞として、よく「究極のポップ」という言葉を目にする。星野源の《Pop Virus》(2018)がそうであって、本作の発表前後にもそのようなコメントを見た記憶がある。究極のポップとは何だろう。少なくとも現在日本ポップ界において、米津玄師が色んな方面で代表性を持つアーティストであることは間違いない。ボーカロイドP『ハチ』で名を知らせ、その後シンガーに転向してメインストリームポップ界にだんだん影響力を増していくキャリアーがそうであって、本作の販売量が毎日のごとく音盤市場の記録を破っているのがその証拠になるだろう。キャリアーのルーツだったサブカルポップロックのメロディーを継承しながらも、R&Bのボーカルを駆使し、トラップやシンスウェイブなどの西欧ポップ文法までも導入した彼の野心にあふれた復帰作は、2010年代日本文化圏を貫通した青少年たちが楽しんできた「Pop Culture」の現在を、想像できる限り洗練された形態で集約する。


5. tricot, 《真っ黒》

今更だが、ロックは長い間、大衆音楽の中心で歴史を積んできて、その中で数多くのサブジャンルとスタイルが派生した。なぜその前提がavexで発売されたこの真っ黒いアルバムを紹介するのに必要かと言うと、まず自分自身から本作の魅力を体験しようとするためで、本作が噴き出すエネルギーに比べて割と淡白に構成された楽器だけで駆使できる音楽がそれだけ多様なことを傍証するからだ。ボーカルのキャッチ―なメロディーには多少ひねくれた心象を特徴とする日本ポップロックの感性が込まれているが、だと言ってよく見るポップロックにしてはハードコアなところがあった。他ジャンルの音との融合を図らず、まっすぐなロックバンド構成の楽器だけだが、その中で行われる色々な変奏はそれだけでロックのサブジャンルを行き渡る。だからこのアルバムが個人的にそこまで不慣れなものでもなければ、かといってお馴染みのものでもなかった。

結局ここで身を任せられたのは演奏の技巧だった。目が回るほど変化していくリズム、それを通して維持する緊張感のアドレナリンを所々で弾ける厚くてうるさいギターの音、その中でも手放さないキャッチ―なポップさ。それらが一貫した色をもって最後まで押し通すエネルギーだけは、好き嫌いとは別に否定できない驚きだった。マスロックとパワーポップ、オルタナティブ・ロック、ポストパンクなどを横切る演奏は、繊細な計算の下で行われながらもそのエネルギーを保存し、興味深い韻と矛盾的なアイデアでできた歌詞まで、聴くたびに完璧に近いアルバムだという評をだんだん理解してきた。もしも、これと似たほかのアルバムを聴いた時、その感想を自ら再び引き出せれるのかは疑問だが、少なくとも今回だけは、色んなリスナー層の好評のおかげで、この素晴らしいアルバムを知ることができてうれしい。


4. THE NOVEMBERS, 《At The Beginning》

正直、未だにRadioheadの《Kid A》(2000)は慣れない。しかし、ロックとエレクトロニックが結合する方向性を新たに提示したその音の質感自体は好きな方で、決算のために久しく本作を聴きながら、これが《Kid A》で提示された要素が極大化して現れているのではないかと思った。例えば、リードシングル〈Rainbow〉の電子ドラムは、Radioheadのそれを倍速したように思われないか?〈Rainbow〉はその一曲だけでいろんなものを語れるーいや、むしろ圧倒的過ぎて言葉を失くすートラックなのだが、とにかく凄まじいスケールで世界を覆う音がまだしも満足できずに拡張を続け、ある種の地平線までも超す瞬間を見届けているようだ。

Radioheadと共に、〈理解者〉、〈楽園〉、〈Hamletmachine〉などのどっしりとしたサウンドからは、Nine Inch Nailsの名前も浮かべられるだろう。ただ、そこで発せられるノイズは、言葉通りの「騒音」に残るわけではない。そう言ったノイズが中心になるトラックでも、それが巨大な世界観の一部になる装置が置かれ、〈Rainbow〉の冷たく輝く電子音や、〈消失点〉でのエスニックな音、〈New York〉のグルーブ、その他のシンスポップやニューウェーブのナンバーは、アルバム全体にかけてそのノイズらを多彩に飾り上げる。傑作と評価される前作《ANGELS》(2019)でもやはりロックとエレクトロニックの融合をグルービーでヘビーな音で詰めたのだが、それと比べて本作ではその世界がどう進化したのかも確認してみれば面白いだろう。


3. Mom, 《21st Century Cultboi Ride a Sk8board》

プロデューサー及びラッパー・シンガーのMomは不思議なアーティストだ。2019年に彼は二枚のアルバムを出したが、《Detox》の場合は「ローファイ・フォーク・エレクトロニック・ポップ・ラップ」とでも呼べそうな興味深いアルバムで、《赤羽ピンクムーン》の場合は(Nick Drakeの代表作名を借りたように)多少フリークでローファイなフォークアルバムだった。そしてその間に色々なシングルを発表してきて、2020年の夏に発売した本作もまたCar Seat Headrestなどを連想させるローファイ・インディー、ベッドルーム・ポップ方式の荒い質感の下で多様なジャンルの音とサンプル、騒音などが絡み合って、自由自在にリズムをもてあそぶ。例えば〈胎内回帰〉がそうである。また2分くらいするランニングタイムの中で、ノイズ・ポップ・ラップからサイケデリック・ロックにまで大きな落差を形成して縦横無尽に進む〈カルトボーイ〉は、本作特有の作法からできた最高のハイライトだ。このようにポップ、フォーク、サイケデリック、ファンク、エモラップなどの色々なジャンルを行き渡り、ふざけたような哀愁のあるようなボーカルがシンイングとラップを行き来する様子は、アルバム名ごとく、まるで少年がスケートボードに乗って町を走っているようだ。

話者自らを「21世紀カルトボーイ」と命名したように、復古的なサブカルをひねったアイデアが、少年らしき自意識と共におかれる。〈アンチタイムトラベル〉は、タイムトラベルの夢を覆して「きみと静かに年を重ねたいだけなのさ」と告白する。また、ペルソナと内面の乖離で悩むトラック〈マスク〉は(2019年にシングルで先行公開されたのに)意図せずCOVID-19時代の社会像を予言する曲になった。〈レクイエムの鳴らない町〉ではヒーローもののイメージを借りながらも「麻薬のように空を飛ぶ」のような歌詞で自らその自意識を嘲笑する。〈2040〉で描かれるポスト・アポカリプスもまた僕らが幼い頃に接した本、漫画、映画などで見てきた光景で何となくノスタルジーを感じながらも、提示された遠くない時間が現実感を抱かせる。インディーポップだからこそ可能な底知れぬアイデアを実現しながらナラティブを作っていく作曲能力と企画力に感嘆しかできない力作。


2. Moment Joon, 《Passport & Garçon》

音楽鑑賞において、いくら音が優先だからと言って、歌詞のテキストと当代の社会背景、アーティストの正体性などが絡んで、ナラティブに強力に作用する場合も多い。本作は2020年音楽界で、そのナラティブの影響力が一番強い作品の一つになるだろう。韓国国籍の日本移民者として経験する数多くの偏見と差別、その中で揺らいで、変化する環境とエゴを一本筋のナラティブに編んだ本作は、幅広いリスナー層に衝撃を与え、その年の日本音楽を語るにあたって絶対に外せない位置を占めることになる。

ビザの問題で強制出国されたのちに再入国審査に向かう場面から始め、彼と移民者層に被された偏見を正面から打破していくが、彼の発話は社会とメディアによって阻止される。そうやって動力を失って、現実から逃避しようとするが、行く場所はなく、結局話者自身の弱い姿を認め、その弱い一人一人が日本社会の一員として問題なく生きていく日のために、日本の人々に再び連帯を要請する。

聴者に直接変化を求めるその地点で、本作はコンシャスラップとしての影響力を発揮できて、慢性的な右傾化が深刻になっていく中、そのイデオロギーの直接的な差別のターゲットとなる移民者の位置で直接声を出した作品と言うことで象徴性が大きい。そしてその象徴性の基盤には、Moment Joon自らが「日本ヒップホップ」に位置しようとするアーティストとしての正体性をもって、ジャンルの文法と談論を積極的に駆使・活用することで、優れたコンシャスラップ作品と化した賢さが見れる。そしてまたその動力には、彼が叫び続けた「日本の現実を変える」という本音が詰められている。


1. GEZAN, 《狂(KLUE)》

ノイズロック、ネオサイケデリアバンドGEZANの最新作《狂(KLUE)》には急進的で扇動的な発言があって、見る観点からは十分問題視できる。それは話者自身もよくわかっている。「お前はどこでこの声を聞いてる」と聴者に直接警告するイントロトラック〈狂〉。鋭いドラムとベース、マヒトゥ・ザ・ピーポーの呪術的な声が脅威的に形成する雰囲気は本作全体にかけてつながる統一性と有機性を担保する。警告を終えた後、〈EXTACY〉から〈AGEHA〉までの区間では本格的な狂気が発現され始める。攻撃的なベースラインを中心に鋭いノイズのギターが速く演奏され、理性を失った動物的な叫びが呪文のように周りで鳴り響く中、非人間化する現代社会の問題点を批判する。その過程でサイケデリックな状態を、ほぼデスメタルに近い攻撃的な演奏として作り出し、新たな感覚への「進入」が行われる。

雰囲気がミニマルに折られる〈Soul Material〉で「東京と同じくらいは狂わなきゃ、まあ、どうでもいいじゃん」と言う歌詞を通して、前半で発現された狂気の主体が東京を支配するイデオロギーであることを類推できる。そして〈訓告〉から本格的な解体が始まる。エコーの鳴るギターリーフはある種の警告音に聞こえ、一定の拍子を維持するドラムは宗教の儀式を連想させる。そして本作のハイライトで一番問題的なトラック、〈赤曜日〉に至って、革命は始まる。「40分間で脳をハッキングする」と始まる曲は、攻撃的だが節制されたサイケデリックなビートの上で、彼らの革命宣言文を朗読する。誇張されたリバーブが現場感を増し、ボイスサンプルの動物性は最高潮に至って、予告された瞬間を実現する叙事的絶頂を迎える。だんだん沸き上がってきたビートは「(僕らを閉じ込めていた水槽の)ガラスをたたき割れ」と行動が要請された瞬間に暴走し始め、すべての権威に対する殺害宣言は、本作一の鼓舞的な瞬間だろう。

しかし、本作の真のハイライトがあるとするなら、それは〈東京〉になるはずだ。本作の中で割とコード進行が明確でエモな要素が感情を線を表現する。「今から歌うのは、そう、政治の歌じゃない」という歌詞と共に色んな社会問題に対する考察を取り出す。情報化社会、ポストモダニズムと無関係に耐えなく勃発する戦争から、社会が抹殺していくホームレス問題など、色んな種類の抑圧と差別が蔓延な社会を描写した後、愛する人の笑顔を守るために戦うという言葉と共に話者が叫んできた革命の当為性を日常に引っ張り込んで、その日常からできている複雑な感情が「東京!」という絶叫と共に爆発する。

「革命」という明確で問題的なコンセプトを優れた演奏で表現し、一貫したボイスサンプルと、つながりが確かな間奏トラックの活用などでアルバムの凝集性を高めて、同時に雰囲気の落差を使って個別曲ごとの個性と完成度も取った。いくら政治と社会が梗塞だとはいえ、その中には様々な声が共存し、その声はいつにでも切実であった。年号も、年代も変わった今、もう希望を論じない時代である2020年の重い扉を荒く開く大作だと考える。


2020 Best Japanese Tracks 50

※unranked(発売日順)

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小袋成彬, 〈Gaia〉 (f/ 5lack)
Maison book girl, 〈海辺にて
Moment Joon, 〈TENO HIRA
CY8ER, 〈東京ラットシティ
Awich, 〈洗脳〉 (f/ DOGMA & 鎮座DOPENESS)
DAOKO, 〈御伽の街
chelmico, 〈Easy Breezy
YOASOBI, 〈あの夢をなぞって
Reol, 〈1LDK
DinoJr., 〈Safari
岡田拓郎, 〈Morning Sun
GEZAN, 〈東京
tricot, 〈右脳左脳
ネクライトーキー, 〈北上のススメ
女王蜂, 〈BL
Moment Joon, 〈令和フリースタイル
SuiseiNoboAz, 〈3020
サニーデイサービス, 〈春の風
早見沙織, 〈yoso
tofubeats, 〈陰謀論
折坂悠太, 〈トーチ
星野源, 〈うちで踊ろう
kZm, 〈TEENAGE VIBE〉 (f/ Tohji)
宇多田ヒカル, 〈Time
ずっと真夜中でいいのに。, 〈お勉強しといてよ
玉名ラーメン, 〈angels garden
藤井風, 〈帰ろう
THE NOVEMBERS, 〈Rainbow
長谷川白紙, 〈シー・チェンジ
Mom, 〈カルトボーイ
宇多田ヒカル, 〈誰にも言わない
KID FRESINO, 〈Cats & Dogs〉 (f/ カネコアヤノ)
NiziU, 〈Make You Happy
Mom, 〈胎内回帰
イヤホンズ, 〈記憶
Kamui, 〈Runtime Error
egoistic 4 leaves, 〈msr〉 (f/ MASAHIRO KITAGAWA)
Reol, 〈第六感
米津玄師, 〈PLACEBO〉 (f/ 野田洋次郎)
DUSTCELL, 〈DERO
Tohji, 〈プロペラ
DJ CHARI & DJ TATSUKI, 〈GOKU VIBES〉 (f/ Tohji, Elle Teresa, Uneducated Kid, Futuristic Swaver)
青葉市子, 〈海底のエデン
ROTH BART BARON, 〈極彩 | I G L (S)
冥丁, 〈花魁 I
Kamui, 〈Tesla X
Yunomi, 〈恋のうた〉 (f/ 由崎司)
Zoomgals, 〈生きてるだけで状態異常
tricot, 〈悪戯
4s4ki, 〈35.5



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