見出し画像

【年間ベスト】2019年度 韓国音楽 ベストトラック 100曲

画像1

※選定期間:2018.12~2019.11
※元記事:NAVERブログ
※情報量が多いため、モバイルで記事をロードしにくい方は、こちら(RateYourMusic)でお読みください。

遅れてすみません。よく音楽愛好家たちの視線が過去に向けていきますが、今ようやく色んな音楽を探し始めている僕にとっては今こそが黄金期のような感じです。まだ聴く感覚も書く文章も備わっていない僕が、足りない知識と編派的な趣向に、個人的な意味を付与しながら、他人の創作物に堂々と順位付けしていいのか、まだ判断はつきません。でも、現在の様々な韓国音楽へのゲートとして、貴方のプレイリストを少しでも豊かにできれば幸いです。


100. Lim Kim, 〈SAL-KI〉

〈SAL-KI〉という題名は「殺気」・「生きる」と二重の意味で解釈できます。主にマイルドなK-Popを歌ってきたキム・イェリムが”Lim Kim”として衝撃的な変身を果たしたところには、対象化されてきた一人の女性アーティストが主体性を得るために戦う姿があります。カルト的に聞こえるビートと、「unfuckable creature」ラインに代表されるラップに多くのリスナーたちが熱狂しました。


99. YUZION, 〈henzclub〉 (f/ hu57la)

Elle Teresaを連想させる、まだ未成年者であることを逆手にとって武器にする新人ラッパーYUZION。トラップの世界では全能な彼女も、クラブの年齢制限の壁は超えられません。ヒップホップ文化の原動力である青少年と、システムを動かす大人たちの間の乖離に、彼女は大胆に愚痴ります。「クソくらえ」。


98. OH MY GIRL, 〈다섯 번째 계절(The Fifth Season)〉

拍子がだんだん整われていくドラムパターンは恋の緊張感から確信へと進む様子を表し、柔らかくて勇壮なストリングは「五つ目の季節」の発見を祝います。時に確信が揺らいでも、誰かの優しい声に元気づいて、再び立ち上がる姿は、まさにいま我々に必要な勇気ではないでしょうか。


97. 송가인(SONG GAIN), 〈엄마아리랑(Mom Arirang)〉

オーディション番組《ミス・トロット》(2019)の優勝者、ソン・ガインは中高年層中心のファンダムをはじめ、幅広い世代の応援と共に国民歌手として活躍しています。彼女の色んな歌が愛されている中、伝統音楽楽器をを取り入れたこの曲では、その強烈さの交わりと、元々パンソリをやっていた彼女の出身を思わせる壮絶なボーカルなど、色々な注目点があると思われます。


96. TWICE, 〈Feel Special〉

一番輝きだす瞬間、聴衆ではなくお互いのために歌いだしたTWICEにかけられた応援に潜む感情は、復古的なシンスポップ・トラックの上で線形に遊泳するメロディの下、金色の舞台の裏から感じられる哀愁と似ているのではないでしょうか。アイドルとしての輝きと対象化される視線との間で傷ついて苦しむ瞬間の中で、彼女らは互いにもっと強く連帯する意思を示します。


95. SOMA, 〈Mermaid〉 (f/ Khundi Panda)

水中で演奏するようなベースの上で、SOMAのファルセット・ボーカルは人魚の失った綺麗な声のように響きます。また失っていく何かについて歌うKhundi Pandaの素晴らしいラップの支援は、セイレンの誘惑に説得力を与えます。いや、その声はただ友達を欲しがっている独りぼっちの望みであり、無視されてきた過去の怨念が染みる曲でもあります。


94. ZENE THE ZILLA, 〈Liquor〉 (f/ Jvcki Wai)

そのタイトルのように中毒性の強い曲です。だんだん「雲の上」に上っていくZENE THE ZILLAのヴァースと、Jvcki Waiのキャッチで呪術的なヴァースの素晴らしい調和、酔った感じのhighさをなじめるメロディーに包むトラックの賢さがよく混じり合って、僕らはいつの間に「ピュアじゃない」世界に踏み入ります。安っぽいイメージの裏に潜む幻想的な中毒性。やっぱり、音楽は国家の許す唯一の麻薬なんだ(?!)!


93. 브로콜리너마저(Broccoli, you too?), 〈속물들(Snobs)〉

「高い演劇はいつも空席がない」という歌詞のごとく、青春ミュージカルナンバーみたいな直観的な演出です。キャッチなサビは清々しいけど、「僕らは俗物共」と歌う歌詞ははるかに卑屈です。金持ちになりたいけどなれっこない現実をただただ愚痴るだけの歌詞は、まさに僕らの心情と立場をそのまま代弁しています。生き抜くために必死に演技するのが僕らの人生だというメッセージは、曲の演劇的な演出とうまく絡み合います。


92. Coogie, 〈Hooligans〉 (f/ BILL STAX)

沸き立っていくシンスとBILL STAXのクールなシンイングの後、トラックがインドストリアルに変化してCoogieの中毒的なラップが訪れます。「車より先に家を買う」という具体的な計画が単純に見えつつ計算的なライミングを通じて伝わり、アイロニカルに彼らのクールさはどんどん増していきます。


91. 청하(CHUNG HA), 〈Snapping〉

新鋭のソロK-Popアーティストの中で抜群の実力を見せるチョンハのキャリアーは日々に素晴らしくなっていきます。清涼感のあるメインリーフの下でグルーブを締めていき緊張感を作り、ハイライトで爆発させる構成は、繊細で大胆なソースの運用、セクシャルな隠喩とでそのスタイルを本作で満開します。


90. HEIZE, 〈SHE'S FINE〉

厚く刻まれたシンスがグルービーに動いて、Heizeのラップ・シンイングはそこをもっとグルービーにわたります。すでに半分くらい疲れてそうな声は「fine」な状態とは遠く見えますが、彼女は細かに幸せな瞬間を羅列して自身の「fine」を証明していきます。その小さな幸せを守るためにも、個人のプライバシーに踏み込むのはやめましょう。


89. DAUL, 〈In Touch〉 (f/ Charli Taft)

ちょうどいいくらいに蒸し暑い季節感のサイドチェインが魅惑的な声と出会う瞬間、異国の晴れた天気の中で愛し合う炎天下の熱気が感じられます。正確に拍子を刻み合うハウス・ビートの中で軽い音と厚い音が絶妙に混じり合い、踊りの場へ、愛の場へと案内します。


88. Futuristic Swaver, 〈off my head〉 (f/ Bryn)

ダムダウン(dumb-down)して歪んだエゴの表出が感情を響かせるのは難しいでしょう。欝な感じのトラックは単純な展開にもかかわらず適切なサンプルと大胆なメロディーを乗せて、その落差が作りだす興味と中毒性を全部担保します。特に「ありふれた恋バナ」という歌詞で話し出すBrynのヴァースはメロディーとパフォーマンスの素晴らしさと共に、バラード的なワードをEmo-Trapの文法に当てたハイライトです。


87. TRESBONBON, 〈간지족들 삐졌나요(Green Shower)〉

アフロミュージックバンドのTRESBONBONは土俗的な安っぽさを強調します。そのファンクな色とスキャットは、ソウル(Seoul)の街角とアフリカのパーティーを行き渡り、ライブセッションの楽器がどんどん積み重なっていきながら緊張感を増して、以後両国のアイデンティティーが調和するブリッジは短すぎて惜しいくらいです。


86. GongGongGoo009, 〈정릉(Jeongneung)〉

「恥じずに生きろよ」と強めに語るサビは、都市の夜中、様々な圧迫に押されて生きる少年たちへの助言として、また彼らを圧迫する大人たちへの怒りとして、二重的に読まれます。アンビエンティックなシンスと伽倻琴の音が作り出すループは、高いビルの下、長い影の中で生きる学生と会社員、老人たちなど市民全般の虚無を表しているように見えます。(※学生・会社員・老人などの普遍的な乗り物である地下鉄の到着知らせのうち、伽倻琴でできたものがあります。)


85. KIRIN & SUMIN, 〈Club 33〉

韓国の90年代R&B歌謡風の復古を狙ったレトロなキーボードは、そのアートワークやビデオのレトロさと共に、失笑せざるを得ないくらいコミックですが、それを裏付ける完成度は確かです。SUMINの声が響く瞬間、僕らが招待された「過去」に現在性が表れます。歓迎するオーケストラのセッションは気持ちがよく、二人のボーカルはムードがありつつ爽やかです。


84. Swervy, 〈Red Lite〉

Swervyの優れたラップと歌詞、SUIのホラーコスミックなトラックとミュージックビデオなどでできた強烈なキャラクターの登場と人気は、韓国のSoundCloudを中心に展開されてきたハードコア・トラップのスタイルがラップシーンのメインストリームに登場したとのことで示唆するところがあります。彼女の「真っ赤」な呪文は、その意味を知る前にすでに僕らを色染めます。


83. BILL STAX, 〈IDUNGIVAㅗ〉

「I don't give a fuck 韓国法律」。国家システムを直に批判するサビと共に、「大麻合法化」という明確な意見を表すBILL STAXの曲は、近来シーンであまり見ることのなかった、政治的意図を持つコンシャス・ラップです。冷たくてミニマルな出来のトラックはマンブルラップを通じた予想外のライミングと共にリズムの快感を引き上げます。大麻服用で一度逮捕されたのにも関わらず、むしろそれを逆手にとって旧時代的な法律全般を攻撃するヴァースは、その話題に関する様々な示唆するところと共に、まさに”ヒップホップ”なモーメントを作り出します。


82. 아스파라긴산(Asparagine Acid), 〈나는 28살에 더 나은 사람이 되어있을 줄 알았다(I Thought I'd Be Better Being At 28)〉

非定形的な拍子の電子ドラムを基に制作されたというアルバム紹介のように、本曲も5拍子を基本にしますが、リーフを繰り返す中でもそのリズムの本体を聴き出だすのは難しいです。中毒性のあるメロディーを形成するノイズはまるでタイトルから漂う空気のように、知らず知らずのうちに破滅していくことを警告しているようです。ギターがどれだけ精巧に重なっていっても、その基盤そのものが危うく感じられます。人生の意味を失っていく我ら青春が踏んでいる地のように。


81. TOMORROW X TOGETHER, 〈Blue Orangeade〉

アカペラのサンプルや明るいヒットの音など、清涼感のあふれるトラックは、BTSを産んだBig Hit Ent.の新人グループTXTのデビューに対し、「BTSのイメージと対称的な印象」を与えます。発音を時には生かして時にはつぶしながらメッセージとライムの間でフォーカスを移し合うなどのパフォーマンスの素晴らしさは、彼らを2019年K-Popベスト新人としてまつわれるのに全くの疑いをなくします。話者と相手の正反対な趣向を「補色」という用語で互いに抱擁しあう物語は、ネットの発達でどんどん自己中心に編集可能な世界へと移行するにあたって、考察すべきメッセージをくれます。


80. 나윤선(Nah Youn Sun), 〈Asturias〉

世界的なジャズ歌手、ナ・ユンソンの素晴らしいボーカルの技巧を鑑賞できる曲です。並行して進むスキャットとチェロの隣で、最小限の楽器だけで緊張感を形成する前半部から、ボーカルとリズム楽器がもっと生き生きと展開する中盤、首尾相関で締めると思ったらそれを裏切って緊張感を放さず最後まで変奏し続けるアウトロまで。ジャズボーカルのスキャットだけでできたこのジャズナンバーは、短くてミニマルである同時にソウルフルで、刺激的です。


79. 잔나비(Jannabi), 〈전설(LEGEND)〉

本曲が収録された同名のアルバム《전설(LEGEND)》、特に代表曲〈주저하는 연인들을 위해(for lovers who hesitate)〉の人気はすごかったです。個人的にそれよりもう少し好きな本曲は、そのオーケストレーションと、べたっとして大胆なロック・ギターの組み合わせが絶妙で、一編のミュージカルみたいなアルバムでハイライトを占めます。特にこのミュージカルというコンセプトは、少しベタでも伝説として記憶される愛の物語全世代が楽しめるレトロポップとして伝えるにあたって、良き選択です。


78. So!YoON!, 〈HOLIDAY〉

日本でも少しずつ知られている韓国新星バンド”SE SO NEON”のボーカル、ファン・ソユンの初ソロ曲です。レトロな楽器をいろいろ使って、そのソースらがこまめに節々をかざる風に変奏することで聴者を楽しくさせます。中低音のソウルフルなボーカルは休日のぐうたらとした雰囲気を演出しつつも踊りたくなる区間をヴァースの隅々に配置し、彼女なりの魅力的なポップを完成させます。


77. Uneducated Kid, 〈지금(Now)〉 (f/ Okasian)

もう成功する未来を待つことすら疲れました。資本主義神話はだんだん崩れていき、重要なのは現在の生存となりました。本曲は資本主義の物神神話をコミックに捉える曲ですが、その欲望の充足する時間を未来から’今-ここ’へと移すことで、クリシェをねじって、キッチ性が極大化します。抜けてる感じのUneducation Kidと、カリスマのあるOkasianのボイスで伝わるその無謀な宣言を聴いていると、こっちも今すぐにでも金持ちになれそうな錯覚に陥っちゃいます。


76. 향니(hyangni), 〈핫소스(Hot Sauce)〉

’アヴァンギャルド・ディスコ’と紹介される本曲の特徴は、何より直感的です。「何に掛けてもうまいよ ホットソース」というそのままの描写。ミニマルな展開のヴァースと豊かに爆発するサビとの対比。BPMを長引かせ余韻を残すアウトロ。その直感性が本当のホットソースのように強烈な味を作り出すにあたって、当然のごとくすごい演奏と精巧な配置が基本になっていて、だからこそその露骨的な強調点でただ感嘆するのです。「チキンにホットソース」を掛けて食べる一瞬の感動をこんなに素晴らしく表現できちゃうなんて。


75. Moldy, Sylarbomb, 〈Phoenix〉

Death Gripsなどを連想させるオルタナなラップナンバーです。解読しにくいMoldyの歌詞は、湧いてくるエネルギーの正体を隠します。導入から疾走しだして、急に空っぽになった空間で銃撃をして、いつの間にか幻覚の世界に突入する過程まで、プロデューサーSylarbombが作り上げる展開は大胆で、その構成はディテールさを感じられます。


74. IZ*ONE, 〈비올레타(Violeta)〉

柔らかくくすぐるハーモニーは青みがかったミュージックビデオとよく似合います。サビに至るところのビートドロップは、ハイライトまで積み上げてきた、柔らかい雰囲気に合わせた楽器たちがさっぱりと躍進して、カタルシスを和やかに爆発させます。この軟らかな質感を維持しながら力動的な感覚を作り出す、細やかなダンスポップの色んな魅力をまた一つ感じました。


73. 방탄소년단(BTS), 〈작은 것들을 위한 시(Boy With Luv)〉 (f/ Halsey)

〈Boy With Luv(原題:小さなもののための詩)〉は、その原題とは逆説的に、2019年、世界一スケールの大きいファンソングだと思われます。裏声と地声を行き渡るボーカル、ファンキーなリズムギター、精密なドラムなどが特徴で、Halseyの参加は曲のポイントを生かし、前作よりイージーリスニングな曲となりました。BTSが彼らのファンダム”ARMY”のために歌っている、その事実だけでこの曲が記憶される価値のある世界に、僕らは住んでいるのかもしれません。


72. Coa white, 〈akachip planet〉

プロデューサーCoa whiteの繊細で細かなシーケンシングの妙味が現るトラックです。テクノ的なサンプルを散らかしたサウンドにボカロを使った印象的なラップ・シンイング。特定のジャンル文法を従うより、まるで子供が好奇心をもってレゴを組むように完成された本曲は、繊細なタッチが耳をくすぐりつつも、色んな音の大胆な調和を経験できます。ヒップホップとエレトリック、ボーカロイドの見慣れない出会い。


71. 신해경(Shin Hae Gyeong), 〈그대의 꿈결(Dreaming of You)〉 (f/ 김사월(Kim Sawol))

同時代フォーク詩人のキム・サウォルと、ドリームポップ・シューゲーズ新星シン・ヘギョンの新曲です。過度なリバーブでまるで夢路を彷徨うような感じを与えるシューゲーズ・ドリームポップの感性を十分生かして、本当に夢の中で恋しい対象と邂逅する場面での両価的な感情を悲しくて美しく描写します。あなたを合うことができる夢で生きたい話者の心に、我らも十分、切実に共感する瞬間があると思います。


70. dress, sogumm, 〈Dreamer, Doer〉

ストリング・セッションとボイス・サンプルで不吉な気配が宿ると思ったら、やがてあったかなピアノでリアル感のある可愛らしいR&Bに移ります。極端にある感情を行き渡っている中、常に自己定義をしているsogummの独特なマンブル・ボーカルは、まだ「旅行者」と「信奉者」の位置で迷っているようです。


69. 김사월(Kim Sawol), 〈붉은 늑대(Bloody Wolf)〉

「誰でも構わないわ、あなたがちょうどいいわ」。欲望の本質が詩的に整理されるとき、これは逆説的に運命論的なロマンスのようにも感じられます。退廃的なブルースの上で熟視者の位置でハミングする話者は、街の狼どもをあざ笑うようであって、実は自分もその街の狼の内にいることを自嘲しているようです。自身の欲望から距離を置いて熟視し、淡々と歌うその矛盾な美学が面白く輝きます。


68. O'domar, 〈장미밭(Rose Fields)〉

The Beatlesの〈Strawberry Fields Forever〉のサンプリングをはじめ、そこからすぐKendrick Lamarの《To Pimp a Butterfly》を連想させるプロダクションの興味深い転換はただ驚くばかりです。そこでオマージュされる韓国ヒップホップの名歌詞の羅列まで、音楽の夢があふれ出した彼の情熱の時期が詰め込まれています。


67. E SENS, 〈Pay Day (Demo)〉

ソウル(Soul)のサンプルにファンクを混じったらトロットぽくなったヒップホップだと⁈プロデューサー250が作ったトラックに、ラッパーE SENSは金への欲求を自由に語ります。幼い頃の記憶と母の助言などは聴者にも親しげに感じられ、彼にかけられている「リアル・ヒップホップ」みたいに慎重なイメージを取り脱ごうとしているようにも見えます。彼のセカンド・アルバム《이방인(The Stranger)》限定版の完売記念に公開したイベント曲は、色んな理由でそのアルバムくらいに重要な曲なのかもしれません。


66. DALsooobin, 〈Katchup〉

オクターブで鳴るピアノがかすかに響き、ジャズポップらしき楽器がミニマルに構成され、DALsooobinの中低音中心の繊細でソウルフルなボーカルは蠱惑的です。直観的なライムと、アナログ楽器のしっかりしたつくりからボーカルがデジタルに解体する瞬間などは印象的です。ここで記した以上に魅力的で、いつの間にか魅惑される曲です。


65. FRNK, 〈만신(Manshin)〉

XXXのプロデューサーFRNKを含めて、8人のプロデューサーが参加したコンピレーション『Red Bull Music Seoul Sori』は、現代大衆音楽の作法と韓国伝統音楽の音の調和を図るプロジェクトでした。FRNKはここで、ただその音を用いてどういたずらするか考えているだけようです。伝統楽器サンプルを細かく切り刻み、有名な巫女であるマンシン先生のインタビューをサンプリングし、それすらもスピードとピッチをいじってまるで厄払いをしているみたいに感じさせる部分においては、もうただただ感嘆を吐くだけです。またしてもFRNKの興味深い実験作でした。


64. (G)I-DLE, 〈LION〉

荒野のような空間から積み重なる緊張感は彼女らの権威になります。各自メンバーのパートはアンビエントのような空間感覚で統一性を維持しつつ、最小限の楽器でシンスポップとロックを軽く渡り合います。そこで歌われる孤高な獅子の姿はその存在だけでも崇高さを表すのですが、それは今までK-Popシーンで消されてきた女性の主体を取り戻す宣言であり、同時に抑圧されるすべての人間の権利を奪い取る行為として読解できるのかもしれません。当初、キャットファイトの念頭に置いて製作された、女性アイドルの競争オーディション番組《Queendom》で、その意図とは真逆に女性K-Popアーティストたちの連帯と勝利のストーリーを描いた中で、本曲はその大尾を華麗に飾ります。


63. VIANN x KHUNDI PANDA, 〈조마무도회(Anxiety Party)〉

サーフロック風のギターで始まる曲はダンサーブルなフューチャーベースのシンスポップと化し、ハイライトではサイケデリックなバイブを演出します。プロデューサーViannの味気のある演奏はラッパーKhundi Pandaの独特なトーンと優れた完成度のラップと出会い、そのシナジー効果を爆増させます。その浮いた雰囲気とは別に、クラブのフロアに立ったラッパーは、ただ彼の身の回りの変化と、これからの不安を率直に吐露しています。計画通りにならない現実の中で、とにかくステップを合わせる一歩一歩への応援歌です。


62. JUSTHIS, 〈Gone〉

わざとごつくダンピングして響かせるドラムを除いたほかのプロダクションは若干の抒情的なタッチ効果だけを残して退き、ただラップだけにスポットライトを当てます。Moment Joonのアルバムに参加したことで日本でも話題の優れたラップは、むしろその完成したラップが価値を持たない時代を批判し、引退までも示唆します。彼の不在を通して価値を再証明しようとするラインは、彼の価値そのものがシステムを批判するアンダードッグなスタンスから生まれたものであって、だからこそ固いシステムに吸収されたことで自分の価値までなくなっていくことを自嘲します。ヒップホップジャンル要素の’represent’がこんなにも逆説的に語られる、重たい一曲です。


61. TWICE, 〈FANCY〉

TWICEの清涼感が〈CHEER UP〉の時とは違う方向で現れます。各パートのメロディーが似てる構造でできていても各メンバーの細密な個性を掴んでただの反復を避け、リズムの安着を遅らせてグルーブを生かすヴァース、そこから生まれるサビの清々しい疾走は止められません。今まで誰かの必要を満たす位置にいた彼女らは、今度は「I need you」と、「君が先に好きになったってどうよ?」と、主体的な視線でその位置を旋回します。


60. Red Velvet, 〈SAPPY〉

Red Velvetが年初に日本市場を向けて発売した本曲はエレトロ・ポップのビートの上で復古的なスイング・サウンドを載せて、そこで五人メンバーのソウルフルなボーカルが面白く展開された秀作で、〈Russian Roulette〉の時を連想させるエキセントリックなセンスのビデオも逸品です。恋愛をゲームで学んでいるオタク共に向かってディスる歌詞もまた面白さ増し。あれ…?どうしていきなり涙が…?

※本曲は日本発売曲です。


59. 백현진(Bek Hyunjin), 〈빛(Light)〉

チェロとギターなどの楽器が、光が点滅するようまばらに空間を詰めていく中、キム・オキのサックスはたくさん浮いた塵を横切って半地下を照らす情景が映し出されました。常に惜しみ連続の生活から一瞬の美しさを見つけること。それだけで満足せねばいけない、けれどもそれだけで心が緩んでしまう、そんな光の物悲しさが、胸の奥から湧き出る声に乗せられます。


58. Rainbow99, 〈두드림(Do Dream)〉

米軍基地のある町、東豆川(ドンドゥチョン)の痛みを捉えたアルバム《동두천(Dongducheon)》。その最後のトラック〈두드림(Do Dream)〉は全体的に漂っていた重い空気を覆し、明るいサウンドから始まり、希望へと進んでいきます。「僕の音楽より、ここの歴史の知るのがもっと重要なんです」と本人がインタビューしたように、傷だらけの歴史に僕らが直視すべきなのは、その傷を治癒する可能性を見出すためでもあります。


57. XXX, 〈우린(We Are)〉

浅いシンスとリズムが集中を引き出すと、ブラスのサンプルがフェードインし、強烈なドロップがトラックを支配します。休まず変奏が続く中でもイントロのリーフはブリッジで再登場して伏線を回収するなど、構造においても注目すべき色んな要素が散在しています。絡まったドラムの上で独特なアクセントをしながらもっと絡まったフローを見せるKim Ximyaのラップも優れていて、「僕らが(ここを)取るべき」と宣言する根拠を、彼らの音楽そのものに還元していきます。


56. 천미지(Cheon miji), 〈I Want To Be Your Mother〉

性関係の露骨的な隠喩は歌詞だけでなく曲の展開でも現れます。フォーク式楽器構成とボーカル。でもその生々しい感じはだんだん荒くなり、いつの間にロックのそれへと転換し、陰惨なストリングが追加され、ようやく絶頂に至り、その後テンポを落として消滅していきます。性関係の描写にあたって「mother」という(実は「性」と絶対に引き離れない単語でありながらも)一種の禁句を提示して、既存の性力学の転覆を試みます。音程すら時々離脱するボーカルはどこか切なく、その単語の選択は必死的で、必然的だったと思います。


55. 보수동쿨러(Bosudong Cooler), 〈0308〉

夏色のギターの音が湿気のある空気を満たすようです。その時期のけだるさをどうにかして脱出しようとしますが、互いの弱点を見ながら安心し、結局いつもの習慣に戻ってしまう。その上で語られる「永遠」はそんな話者の自嘲に聞こえますが、それを包む美しいサーフロックのギターリーフは、意思と習慣の波うちをを肯定します。誰もが初めてな生活を一緒に生き抜いていく「僕らは」、頼りになってもならなくても大事な友達です。


54. 태민(TAEMIN), 〈WANT〉

グリッチ・インダストリアルのループは不安感を調成し、節ごとに変奏します。中性的なテミンの声をもっと華麗に、時にはもっと危うくさせます。ひとえに感覚だけを描写する歌詞を聴いて、話者は聴者からどんな欲望を取り出したいのかと疑問に思いました。確かなのは、僕はその機械的で危険を知らせるようなループに中毒されたとのことです。


53. BewhY, 〈본토(The Mainland)〉 (f/ Simba Zawadi)

アメリカ中心の文化権力を無批判的に受容する韓国ヒップホップシーンの流れを批判し、それを追っていた過去の自分を捨て新たなアイデンティティーを探しに行くという、一編のドラマのような構造です。オーケストレーションを使った勇壮な導入部の緊張感を維持したうえで、クラシック曲のサンプルを使用したり、それをトラップとうまく調和させたり、1節と2節の歌詞の対置効果など、ストーリーテーリング・ラップの優れた演出です。


52. 버둥(Budung), 〈태움(Burn)〉

「私は生きている 死なないために」。去年の辛かった時にこの歌詞をよく口ずさみました。その強烈な生の宣言は社会が、周囲が、自らが軽視してきた生の意味と価値を呼び起こします。生きていること自体で価値のある。その認識が僕らをどんな種類の抑圧からも抵抗させる原動力ではないでしょうか。この曲は1980年5月18日、韓国の光州(グァンジュ)で起きた”5・18光州民主化運動”を記念する《五月創作歌謡祭》で初発表されました。その最小限で、絶対的な価値を守るために犠牲になった数多くの魂をここでもう一度思い出します。

※本曲は2019年12月発売作《잡아라!(Chasing)》にて再編曲した形で収録されました。


51. IU, 〈시간의 바깥(above the time)〉

室内楽のような感じからだんだん出征歌のようなオーケストラで雰囲気が高まり、強いビートとトロンボーン・ベースのサンプルで威勢の方向を旋回すると思ったら、ポルカのリズムが登場するブレークではただ感嘆を吐くだけです。そしてそれらを統一する繊細で幻想的に鳴り響く声は、僕らを思いがけない世界に導きます。プロダクションだけでファンタジー童話を聞かされるようです。時間を超越して展開されるSF的な想像力は、現在だけを生きれる僕たちに過去と未来の連結性を認知させ、忘れてはいけない記憶、未来への責任などを思い起こさせます。物語には力があって、僕らはIUの物語を愛してきました。


50. Eyedi, 〈& New〉

「新世代のレトロ」の意味で『ニュートロ』という用語が流行っています。僕個人的にはその流行を「質感としての引用」だと思っています。サイモン・レイノルズが指摘したように「経験していない時代への郷愁」でしょうか。それに完全同意するにはまだ難しいですが、僕はただ単に本曲のチューン外れのギター、分厚く鳴るシンスとドラム、ロマンのある歌詞が好きです。果たして僕は無意識にここから存在しない過去の浪漫を夢見たのでしょうか?この曲を構成する質感は過去の遺産をどのように引用したのでしょうか?質問は回帰します。どうしてこの曲はこんなに魅力的でしょうか?


49. 천용성(Chun Yongsung), 〈김일성이 죽던 해(Year of Kim Il-sung's Death)〉

〈金日成(※キム・イルソン、北朝鮮第1代主席)が死んだ年〉という衝撃で当惑するタイトルとは逆に、歌われる話のスケールは小さく、そのトーンは淡々です。幼い頃、友達の誕生日パーティーに招待されず、貧しい中せっかく買ったプレゼントの人形がみじめに戻るというつらい思い出話。曲の伴奏はわりと軽快で、歌詞の喪失感と対比的です。それは話者がこの話から距離を置けるからでしょうか。「金日成が死んだ年に買った人形はどこへ」と淡々と歌い続ける最後は意味深です。


48. C Jamm, 〈가끔 난 날 안 믿어(Nothing Matters)〉

軽快なゴスペル・ピアノの音と強烈な808ベースを合わせる試みは多いですが、それを自然に融和させるには、やはりC Jammのパフォーマンスが優れたからだと思います。クラウド・シンイング・ラップに完全に移行した彼が作るライムとワードプレイは独特で面白いです。麻薬所持及び服用で逮捕された経験のある彼だからこそ、その「酔った状態」の表現は問題的かつ説得力を増し、またほぼジョークで満たされた歌詞は受容者にとって軽く受け入れられるように仕組まれます。アウトロに、話者の奈落を暗示する変奏パートの、アヴァン・フォークなどで使われそうなフルートとの意外な調和もまた聴きどころです。


47. 이달의 소녀(LOONA), 〈위성(Satellite)〉

僕は〈Satellite〉の強烈に見えて実は小さく繊細に刺激しながら作っていく音とグルーブが好きです。サビに進む前まで、ベースもなくキックとともに刺さっていくトップライン、それに合わせてグルービーに動くボーカル、ベースの登場と共に弾けるサビでも周辺部でくすぐるサンプルが僕はたまらなく好きです。LOONAの中心オブジェである「月」の特徴を、こんなにきれいな響きの歌詞で表現する瞬間を、愛してます。


46. KIRARA, 〈ct19071〉

インダストリアルなリーフを中心にいろんなソースが程よく入ってくる展開をいちいち表現はできないでしょう。同じメロディーが続く5分間、集中力を欠かさず乗らせる力。中毒性のあるメロディーと、派手なわりに整頓されたサンプルの力だと思います。後半のロックギターはエネルギーを絶頂を迎える中、自分は昔のヒップホップでよく聞いた「力強くぬけた」ブラスのサンプルが魅力的でした。


45. So!YoON!, 〈A/DC=〉 (f/ 공중도둑(Mid-Air Thief))

前述した人気バンドSE SO NEONのフロント、ソユンと、《공중도덕(公衆道徳)》(2015)・《무너지기(Crumbling)》(2018)など予測不能な音楽で衝撃を与えたフォークレトロニカ・ミュージシャン、空中泥棒(Mid-Air Thief)とのコラボは、リリーズ前日から話題になりました。開始して1秒も経たないうちに泥棒だと気づいちゃうリズムとサンプルの乱れは、デジタルなサウンドの中でも輝いて、二人のボーカルが絶妙に出会う瞬間など、驚きでいっぱいです。歌詞で描かれる、デジタル世界が作ったディストピアが、なぜかむしろ避けられない喜劇に見える理由でもあります。


44. Brown Eyed Soul, 〈Better Together〉

もう二~三世代を隔てる過去のゴスペル・ソウルを自然に、楽しく再現します。軽快なピアノと粘りのあるブルースなベースとギター。そして長年活動してきた4人組ボーカルグループ、Brown Eyed Soulの一番の自慢どころである、その素晴らしいボーカルの実力は、そのソウルに完璧さを増します。僕らが楽しむポップ・ミュージックの根底にある歴史に対する愛情と伝達の使命が感じられます。


43. 데카당(Decadent), 〈링구(Lingu)〉

この胸が燃えるブルースロックのナンバーは、意外と真面目に「言葉[mal]」と「馬[mal]」とでダジャレをしています。思わず言った言葉の言葉尻(馬尻)に引きずられて負った傷。「ウェスタンムービーの一場面みたい」だと語る歌詞のように、他人には笑えてしまう、残忍なお約束の場面で、話者にはただぎこちない沈黙のみが、今すぐできる任時の処方です。


42. 이주영(Lee Joo Young), 〈나도(Ditto)〉

〈나도(原題:私も)〉、という言葉は、自己中心な主語でありながら、そこに相手の席が残されています。別れの悔やみが自分だけにとどまらず、「きみ」と感情を共有する中、関係が絶たれた後にも残る話者の切ない未練を「私も」という言葉に美しく収めました。だからこそ、ピアノの音は寂しい同時に暖かく、感情が高ぶる瞬間を捉えるギターも節制された感情過剰のように聞こえます。


41. 이날치(LEENALCHI), 〈범 내려온다(Tiger is Coming)〉

そのファンクのベースラインが聞こえてくる瞬間、もうダンスの衝動を抑えきれません。韓国の伝統音楽、パンソリの曲目〈水宮歌〉の一部をファンクにアレンジしたこの曲は、その異様さと中毒性で、たくさんの人がハマりました。唱とベースラインとの落差は、そのグルーブが合ったりねじれたりしながら、多彩で面白く曲を飾り、誇張された動作が特徴的なダンスはまた「東洋・西洋」の単純なフレームを飛ばしちゃいます。


40. 넘넘(numnum), 〈째깍째깍(Tiktaktoktak)〉

秒針とアラームの音で始まる曲は、その強烈なイントロと同じく目がまわるように展開されていきます。ハードロックなギターとパンクなドラム・ベースの荒れる演奏、時間に対する不満を語る「私の時計だけ速すぎ!」という叫び。その目がまわる展開は現実の時間の少なさを比喩しつつ、それを忘れるための粗悪なパーティーにも見えます。僕らを閉じ込めた時間の壁の中で、僕らはただ壁を叩いて叫びながら存在を知らせるしかできないのでしょうか。


39. Red Velvet, 〈Love Is The Way〉

人気アイドルグループのRed Velvetは、優れたR&Bボーカルチームでもあります。昔の軽快なOSTで聴けそうな古典的なスイング・ポップの感じをもってきて、グルーブとソウルのところを現代K-Pop特有の和音と演技力で再解釈します。恋する乙女の本音を言えない不器用で初々しい話者のキャラクターは、ただただほのぼので可愛くありませんか?


38. NET GALA, 〈Quarrel〉

本曲にこもった感情の爆発は急です。割と単純なレイヤーでできていても、その音のイレギュラーな登場と配置に驚かされます。一行の歌詞も書かれなくても、そこに込まれた感情を強烈なメロディーを通して感じられます。シンスが鋭く警報のように鳴る瞬間、その実態を知れやしない「話者」の物語に僕らはどんな形にでも魅了され、それが多くのリスナーの注目を浴びた理由だと思われます。


37. 선우정아(sunwoojunga), 〈배신이 기다리고 있다(Betrayal Awaits)〉

〈裏切りが待っている〉という題名から感じられる寒気ごとく、トップラインとドラム、物語の変曲点ごとに登場するギターなど、すべての楽器が神経質に聞こえます。その満タンな怒りゲージの中でも、「裏切り」という概念を人格化する寓話の技法とそれを淡々と語る声は、理解に追いつけない状況をとりあえず冷静に見極める試みをしているようです。絶対に一行に定義できない人間関係の複雑さを理解するため、本曲の物語はどれだけ神経質に動いても、寓話の枠から逃れません。「『裏切り』が一人で待っていた」ラインの落下と「『裏切り』は友達が忙しいと言った」と激高したラインの間の格差だけが、物語の壁を破って出てきた本音でしょう。胸の裂ける冷静の記憶は、忘れたくても鮮明に浮かんでしまいます。


36. 카코포니(cacophony), 〈이 우주는 당신(This Universe is You)〉

「愛」という、理解の領域のはるか向こうで発現する感情をどうにもできない話者は、すでに話者にとって生きる唯一の意味になった「あなた」にエゴを依存し、ここで「あなた」と宇宙を同一視します。その瞬間、きれいなピアノの上で、まるで夢の中を歩くような歌は、幻想の領域へと跳躍していきます。「わたしには理解できません」の歌詞と一緒に入るベースの揺れが不吉な前兆を見せるにも関わらず、「この宇宙はあなた」だと、空の果てに上るような感情の絶頂を経験する話者の告白を、いったい誰が止められるでしょう。


35. 카코포니(cacophony), 〈X〉

激しい上昇は必然的に墜落を予見します。曲の鑑賞後、曲目のバツ印を見ると、感情のすれ違い、愛の拒否、十字架などを連想できます。その要素すべてが曲の中で表現されます。完全だと思った愛に亀裂ができる過程で「君の罪がわたしに積まれ」て、「わたしはまた負け」てしまうのは、どうにかしてその愛の崇高さを自分の中で守ろうとするための犠牲だと思われます。墜落の傍点が一つずつ打たれるたびに、散らばるグリッチ式の解体、道を失った者たちが曲の最後で深淵を形成していく過程など。それらが宗教的に聞こえるのは、それだけ「愛」という、定義しにくい概念への信念があるためじゃないでしょうか?


34. Oo!aA, 〈Elephant Ride_ A priori〉

像の心境を想像した、というアルバムの紹介を聞かれても、当惑するだけです。ランダムなサンプルを不規則に調合してますが、一応「音楽」と認識できるサンプルの上にまた色んなサンプルを混ぜて、まるでフリージャズを演奏するように配置します。そう聞かれるとなんか像を連想させないこともないベースの質感、急に入ってくる荒れる息、時々聞こえる乱打などを通じて、本能に充実な第3の存在を認識できちゃいそうな感じもしてならず。もしかするとこのサンプリングの饗宴は、レコードを扱えないとある個体がランダムにボタンを押した結果物を意図したのかな?と考えられます。DJ ZOU, drop the beat!


33. HWI, 〈Into the Basement〉

破片化した声とグリッチのサンプルが渦巻く中、ベースが分厚く鳴る瞬間、エレベーターでも作動しだしたように意識は下に向けて落下していきます。全体的なピッチも徐々に低くなって、落下の果てにはいったい何が待っているのか、不安に警告しているようです。霊的体験の場所に到達するための深淵への短くて強烈な旅程は、かみのそんざいを消していくような技術の発達を通じて、むしろ神の歴史が起こりうる逆説の隠喩ではないでしょうか。


32. XXX, 〈Language〉

鋭いドラムと得体不明のボイスサンプル、壊れたエンジンの音がトラックの骨子を作り、その上で怒りで満ち、リミッター解除したラップが速度感を与えます。工場の廃墟を疾走しているような高級な車のサンプルが混じり、資本主義の階級を飛び越えて「we do not speak same language」という怒りの果ての宣言と共に「墜落中 墜落中 墜落中 墜落中」の構造を解体していきます。その過程で直線で走るように見えてグルーブを自由に扱うラッパーKim Ximyaの言語、その言語を編集・再組立てするプロデューサーFRNKの技巧を聞かされると、なぜ彼らを取りまとう構造を「言語」に比喩するのか、わかるような気がします。


31. 권나무(Kwon Tree), 〈깃발(Flag)〉

アコースティックギターの後ろでアンビエンティックな電子ギターが緊張感を起こし、「人が人を語らなければ」というサビと一緒にビオラが登場すると、悲しみを共にする悲壮感は聴者の感情に触れます。龍山惨事の悲劇を素材にして連帯を歌う中、話者の態度が「煙を吸ってはないけれど」と、自身の非当事者性を認識するところから始まるのは印象的です。それでも我らが弱者との連帯の手をつなぐべき理由を歌います。「人が人を語らなければ」と。

※龍山惨事:2009年、ソウル市龍山(ヨンサン)区で、再開発による撤去民の籠城現場で警察及び用役との衝突で生じた火災事件。6人が死亡した。


30. 서사무엘(Samuel Seo), 〈Olive Session〉

D'Angelo式ネオソウルのソ・サムエル的な感性を見せます。リアルセッションの質感が与える感想、ギターノイズの愉快な活用。そして、グルービーなビートの上でリズムをもっと激しくもてあそぶ、ラップとボーカルを行き渡るパフォーマンス。またブリッジのすばらしいギター演奏など、曲全体に深くて多彩な味がにじみ出ます。ネオソウルのリズムを「オリーブ油」と比喩する歌詞には白々しさと同時に、彼の音楽への自信も見られます。話者の「ミスフィット」な生活を、「ミスフィット」なリズムで昇華し、それを支える叫びでもあります。Let's keep on groovin'!


29. E SENS, 〈CLOCK〉 (f/ 김심야(Kim Ximya))

乾燥に響くリズムと冷たいピアノ。感情の高ぶりに繋がりそうなシンスのサイドチェインすらもE SENSの観照的な視線とぶつかって中和すると思いきや、いきなり登場するKim Ximyaの怒りが、冷たい観照の裏にこもった感情を結局弾けてしまいます。Kim Ximya話者は「Mark my name on your body」と、システムに追われつつも物質主義の虚像の告発を止めません。「その小切手に書かれた平穏の値段 いくらでも出すから生活を返せ」と語るE SENS話者は、物質的な余裕があっても、結局「時間」に追われる中、俗世から逃避できず、時間の有限性に閉じ込められてシステムに再隷属する過程を見せます。


28. 생각의 여름(Summer of Thoughts), 〈Preface〉

身軽なアコースティックギターのメロディーの上に、身軽なオートチューンが乗ります。木楽器(ギター、フルートなど)が比較的明瞭に聞こえるに対して(チェロのとはローファイ処理されたので、解釈に飛躍があるのを認めるにも関わらず)人の声を含めてほかの音は機会の媒介を露骨に表します。喋るのは木で、まわりの音は各自のことばで通訳します。これで「自然物」である話者は、聴者との世界を対比させる歌詞でだけでなく、その音においても1:1の関係を築きます。君と一緒に僕らも踊って、異なった形でこの世で痛んで。僕らが招待された世界は、僕らの世界とは違うけど、あまり違わないという、短い招待状です。


27. 잠비나이(JAMBINAI), 〈검은 빛은 붉은 빛으로(Sun. Tears. Red)〉

コムンゴ、へグム、ピリなど伝統楽器とのクロスオーバー・ポストロックバンド、ジャンビナイ(JAMBINAI)。本曲はポストロック、シューゲーズ、マスロック、メタル、クロスオーバーなど、ロックのサブジャンル要素が調和する同時に曲の叙事と完結性まで優れたクロスオーバー・ポストロックナンバーです。ボーカルのレイヤーが積まれて、やがて爆発を迎える瞬間、へグムを中心とした混沌にはジャンビナイの長点がそのまま入っています。節を異にして回る歌の果てにスクリームでメタルとしての感想を引き出し、そこで高まった感情を維持したままメランコリーなコードで感情を転換するアウトロはポストロック及びシューゲーズの感性まで抱きながら、寂しい叫びでトラックを完結させます。闇を照らすためには何かを燃やす犠牲が要求されます。自由のために自身を焼き尽くす話者の切ない意志が咲く流れに、ただ圧倒されるばかりです。


26. AOA, 〈너나 해(Egotistic)〉

(G)I-DLE〈LION〉の紹介で言及した番組《Queendom》を語る際、ラテンポップをK-Pop的に解釈したMAMAMOOの原曲を、現代スイングバージョンで再解釈したAOAの舞台を忘れてはいけません。速くてグルービーなテーマから、リズムパートを強調してサイレンで緊張感を形成するダンスブレークにわたる際に、歌手とダンサーのジェンダーイメージを破格的に裏返したパフォーマンスは、おそらく2019年K-Popシーンで一番大胆な瞬間だったでしょう。それはシーンの周囲で浮かんでいたジェンダーの談論をパフォーマンスを通して集中させた舞台であって、同時に、これまでセクシーなグラマー女性のイメージで、男性の視線によって消費されてきたアーティストたちの華麗な、そしてまた必然的な変身を知らせる瞬間でした。


25. 백예린(Yerin Baek), 〈그건 아마 우리의 잘못은 아닐 거야(Maybe It's Not Our Fault)〉

最近流行っているレトロ路線の曲の中、日本発シティーポップが再発掘されたことを忘れてはいけず、韓国歌謡界でもこの復古的な試しがよくなされました。この曲でもやはり日本シティーポップ感性のプロダクションを密度高く扱って、この流れを代表する曲となりました。キラキラな効果音と暖かい鍵盤・ギター・管楽器など、それだけでも完成度のある曲を、やや低めでやさしい声が包んで正体性を固めます。おそらく2019年度、幅広く愛された暖かい曲として、去年を思い出すにつれて忘れがたい曲になりそうです。


24. Jaeho Hwang, 〈Sad Relationship, Nami〉

Deconstructed Clubというアバンギャルド音楽の一種です。1985年作、歌手ナミのバラード曲〈슬픈 인연(悲しい因縁)〉を無慈悲に粉々にし、再調合した結果物は、奇怪でありつつも抒情性を含むという神秘を演出します。1分30秒頃から鳴り響くドロップ(と呼んでいいでしょうか)と共に弾む破片は、勇壮な演奏のかけらを壊す同時に、新たな勇壮さと感動を与えます。ナミの曲が近来レトロの流行によって再発掘されたことを考えると、本曲で行われた解体は、過去の遺産に対する尊敬を表す同時に、その踏襲の拒否を大胆に宣言するような両価的な考えが浮かびます。

※本曲は海外発売作です。


23. 쏜애플(THORNAPPLE), 〈마술(Witchcraft)〉

レディオヘッディズムの完成という表現に(引用元の筆者すらその表現を好まなかったけれども)同意します。何より音の質感が彼らへのオマージュだと感じました。緊張感を調成するリーフの上で呪術的につぶやかされる歌詞とコーラス、アンビエンティックなサンプルの饗宴の後に来るリズムの強調、急に全体的にエコーを塗って夢幻的な世界に入っていって、また演奏ブレークに移るなどの目の回る構成、それを通して暗くて湿気で満ちたダークファンタジーの世界が素晴らしく表現されます。


22. Black String, 〈Exit Music (For a Film)〉

上述した曲がレディオヘッドのオマージュだったとするなら、ここでは本当にレディオヘッドをカバーします。韓国伝統音楽とのクロスオーバー・ジャズバンドであるBlack Stringはコムンゴなどの楽器で前半部の空虚に伝統的な風情のイメージを足して、後半部のハイライトで爆発するノイズギターの濁った質感が意外と前半の空虚と似合い、伝統楽器はリズムパートに転換してその激動を補助します。


21. The Bowls, 〈DRIVE〉

気持ちのいいリーフにますます積まれていく演奏。リズムが変わり、ノイズが生まれ、短いボーカルパートでは曲の涼しい雰囲気を捉え、その間にハイライトのトランペット演奏が入ります。中毒的なリーフを繰り返す中、各パートの演奏が適所に入って、サイケデリック・ロックを中心に、色んな時代のロックのサブジャンルを、鮮やかなモザイク・キルトみたいに編んでいるようです。逃れられない空にまで飽きた、意味なく転がる一日の、見えざる出口を模索する、あの世ドライブ。


20. 권나무(Kwon Tree), 〈LOVE IN CAMPUS〉

韻のある歌詞の繰り返しなどが印象的な前半、ヴァイオリン・ソロのブリッジが過ぎ、絶望的な状況を並べ、その状況のなかでも愛を叫ぶ後半部の場面が印象的な後半。正直だからこそ感動的だと思うメロディー。その上にそっと置かれた「愛」という概念は、「少しでも踏み間違えると足が斬られる」世の中で、他人の考えもしくはしくじりを抱擁し、許すことです。愛せなさそうな状況だからこそもっと輝く、愛溢れる世界の例話。


19. 장명선(Jang Myung Sun), 〈이다음에는(And Then)〉

バックで「一、二、三、四」と乾燥に数える拍子はまるで何かの始まりを知らせるように見えます。フォーク・ポップで聴けるような伴奏を、グリッチなサンプルと機械加工したコーラス、サンプラーのドラムビートなどが包み込みます。言語で捉えることのできなかった時間を忘却の滝に流した後、ただ残っている二人はこれからも一緒にいれるのか、曲は問いかけます。一行の歌詞の持つ感性を、どこか乾燥で不安定そうに、それでも美しく広がる様子から、一歩先すら見えない僕らの未来に対する恐れの中から生まれる一抹の期待を思い出させます。


18. So!YoON!, 〈FNTSY〉 (f/ Jvcki Wai)

ロックスターのソユンとラップスターのJvcki Wai、この意外なコラボは、「女性」という正体性を強く宣言するところで接点を見たというところがもっと意外で、強烈な印象を残しました。ダンサーブルにできたトラックは、そのミニマルな要素ごとに調律された音の完成度が高いです。Jvcki Waiのヴァースの、韓国に蔓延な男性中心的権威への強い拒否は快感を与え、ソユンのヴァースは性の社会的区別が無化された以降の世界を描きます。それは二分法的・位階的な既成の性秩序に苦しんできた皆を巻き込む想像力で、だからこそ「心配しないで my sister」と一緒に歌う中毒性のあるサビが、ヒップホップ特有の「Bro」概念を女性の立場に置き換えるところで終わるのではなく、権威を転覆し、弱者の連帯を訴えかける革命的な宣言としてまで聞こえる理由なのです。


17. 로큰롤라디오(Rock N Roll Radio), 〈HERE COMES THE SUN〉

ビートルズの曲名を借りたタイトルのように、イントロからその音は太陽のごとく浮かび上がります。漸進的に加熱しながら疾走していくリーフ、短くて反復的な歌詞など、アルバムを開く曲として、宣言的な感じです。湿っぽいリバーブを掛けたリードギターと、強烈で華麗でメロディーカルなメインギター、ドラムの演奏に身を任せていると、いつの間にか5分が流れています。日の出を表す力動性は、生命を動かす太陽の原初的なエネルギーを思い出させて、この曲はあなたにとって、忘れかけていた浅野活気を呼び起こせるかもしれない、正統なモダンロックナンバーです。


16. SUMIN, 〈SHAKER〉

プレイするなり落下するベースをダンサーブルなグルーブと予想しにくいコーラスで掴むその何秒間ですでにコースターを一周まわったみたいで、ボーカルが刻まれる瞬間、歌が本格的に入る前から、もうK.O.です。ドラムとベース、コーラスでできたトラックの基本構造はミニマルですが、ボーカルとコーラスをもてあそぶ編集の力は曲のポテンシャルを多彩に弾けます。アルバムコンセプトの『Neo K-Pop』が提示する可能性を短いラーニングタイムの中に濃縮した曲であって、またその可能性を聴者の心の高い壁を壊して、いつの間にひとりで躍らせてしまいます。


15. BewhY, 〈찬란(CHALLAN)〉

本曲は『ラップスキルの展示』という明確な意図のもと、プロダクションまでそのスキルの場に持ち込みました。乾燥で疾走感のあるダンサーブルなセクションと、弦楽器を加味したハードコアトラップのセクションでできたトラックは、BewhYが今まで見せてきた二つのスタイルを一曲に併合します。彼の音楽の特徴の勇壮さを導き出しながらも、最後に自身の曲〈Dejavu〉フローを借りることで、その勇壮さすらも軽い再現として機能し、アーティストの輝かしいアウラまで自身の名のもとに置こうとする試みに見えます。それよりも一番大事なのは、本曲が去年の韓国ヒップホップシーンで一番優れたラップパフォーマンスを見せたトラックの一つとして記憶されるべきとのことです。


14. 구남과여라이딩스텔라(Goonam), 〈여름밤(Summer Night)〉

海辺での夏の夜を想像してみます。少々生臭い海風にあたりながら広い夜空を眺めることがただ「めっちゃいいな」と歌うGoonam。きらめくシンスが曲を支配し、Goonam特有のボーカルがだるそうで鮮明に伸びます。似ているリーフを反復している中で、調子に乗って弾む変奏が集中力を保たせて、その以外の要素もサイケデリックなバイブを土俗的に演出します。曲で繰り返されるサマーナイト賛歌を聴きながら、記憶を掘り返してみます。その生臭い海風に混ざる、生活の現場で一日中汗かいて働く人々のにおい。それが今まで僕が見て感じた海辺の様子です。


13. Red Velvet, 〈짐살라빔(Zimzalabim)〉

最初はこの曲、以下の理由で好きじゃありませんでした。一、サウンドの渋いコンビネーション。二、雰囲気を盛り上げること以上の効果を読み取れない歌詞。三、得体不明な呪文。これらの要素は一般大衆だけでなく、大衆音楽批評界でも論争の種になっていました。長い拒否感ののち、本曲を受け入れることになったきっかけには、コースターの予測不可能性に例える文章を読んでからです。するとようやく、イントロから歯車ごとく高まる音と機械的なベースラインの流動性に快感を得て、フェスティバルの開幕を知らせる華麗な音に合わせてステップを踏み、ブリッジで天を衝くほどのR&B・バラードなボーカルまで、コロコロ変わりだす曲をだんだん楽しめてきています。それらが全部一団と調和する裏には、急進的な変奏が飾る多彩な力があるでしょう。個人的に「呪文を唱えれば幸せになるよ」という歌詞にはまだ拒否感を覚えてますが、とにかく本曲が”呪文としてのフック・ソング”的なK-Popの要素を誇張してパロディし、同時にどこへ弾むかわからないRed Velvetの魅力をまた一層強化したというのは間違いないでしょう。


12. 카코포니(cacophony), 〈귀환(Return)〉

ミュージカルの序幕を知らせるような曲です。恋人の懐に戻ろうと決心した話者の心とその旅程を詩的な歌詞と共に劇的に描写します。息ひとつひとつが質感になる夢幻的な声で、ピアノに合わせて凄然と歌う歌が、徐々に凄絶に変化していくその旅程。雷が響き、周囲は混乱しているけれど、「あなたに向かうこの道」は彼女にとって香ばしいです。「子供が母の懐に戻るように」、それは話者にとって必然的な運命であるからです(※また、のちにその懐を発つ暗示も捉えられます)。ブリッジで高まる速度感は、待ちに待った相手と出会う寸前の爆発するような緊張感を緊迫に描いており、ミュージカルを連想させる編曲はアイロニカルに、この出会いが以後起こる事件の始まりだと直感させてしまいます。愛、ピアノ、演劇のような普遍的な要素の特徴と効果をボーカルの声と音節を繊細に運用することで極大化して、そこに色んなノイズを衝突させるなど、大胆な編曲で感情の肥大と矛盾性を伝える、素晴らしい曲です。


11. 정태춘(Jeong Tae-chun), 〈사람들 2019'(The folks 2019')〉

韓国フォークの巨匠、ジョン・テチュンのデビュー40周年を記念し、彼の代表曲である〈사람들(人々)〉(1993)を現代に合わせてリメイクしました。同じ構造の節を緩く繰り返し、そこに話者の目に移った人々の姿を記録していきます。そしてその端に加わる話者の短い考え。「うむ…」と、ためらうように吐くその一節にどれくらい複雑な感情が省略されたのでしょうか。貧民、高齢者、自営業者、アルバイターなど、周りの弱者の話。孫娘との心的距離に惜しむ個人的な話。黄色いベスト運動など、世界の抵抗の流れと言論に対する考え。自殺者の統計。その他、「人々」に向ける巨視的・微視的な視線が交差します。不合理な権力に抵抗してきたジョン・テチュン歌手の名前を国民は覚えていて、彼は今でも常に疎外される人々のことを口ずさみます。まだ行くべき道は遠いですが、彼の一途な視線は、僕らに心の頼りになります。


10. 설리(SULLI), 〈고블린(Goblin)〉

ピアノ、鉄琴、アコーディオンなど軽くて明るい系列の楽器とダンピングの強いブレイクビートが衝突し、疲労感の感じられる声はトラックの楽器の音色とビートのリズムと調和します。そのきらきらする音色の中で話者は「ゴブリン」、「黒く」、「砂の城」のような、普段僕らが否定的に認識する単語を置いて、「私はここにいるのに」と、その存在に対する判断を保留させます。「白い霧」を「黒く染め」る時、僕らはようやく僕ら自身を取り巻くものを見れるように、一緒に「息をするすべて」の可視化がむしろ「何か間違ったと感じ」てしまう僕らは、ただお互い挨拶をしたがる相手に心を許す余裕すら失った光景をよく目撃します。狭い認識の乱れに閉じ込められ、人の人格に傷をつけることがもうないことを反省し、祈りながら、もう一度、故人の冥福を祈ります。


9. FRED., 〈추상화(Haze)〉

どこか詰まったようで乾燥なギターストロークの上に、トレンディーなラップ・シンイングが乗って聴者を引き、プリ・フックでごついドラムと調和して、ボーカルで形成したグルーブがサビに至ってレベルの高いラップに変わって感情を少し早く爆発させます。音の調和とパフォーマンス面で素晴らしい出来の序盤は、ヴァースの反復を避けて中毒的なメロディーのボーカルをいろんな形で展開して、何回も迎えるハイライトごとにそれをちょうどよく輝かせます。恋人との倦怠と別れと愛憎を、歪んで曲がったからこそ美しい「抽象画」に比喩した歌詞は、それ自体でも美しく、発音をつぶして歌うことでテキスト自ら「抽象」を形象化して、直線的に伸びつつ時々メロディーを曲げて落差を作るコーラストラックはまるで抽象画を形成する線のごとく化します。ブリッジで登場する哀愁のこもったギターソロが、トレンディーの象徴であるオートチューン・ラップと調和する瞬間も驚かされます。しかし、抽象は現実の向こうにあり、僕らの視野は生理的にその断面しか見ることができません。どれだけ意識の抽象画に逃げようと、結局別れた後、複雑な感情から解放されるためには、互いのことを二次元的な裁断を通して敵に残すことしかできない結末には寂しさを覚えます。身軽でごついからこそ個性のある音が集まり、感動的な調和を成した、2019年ブラックミュージックシーンで逃してはいけない、ただ非常に美しい歌です。


8. TENGGER, 〈Kyrie〉

ジャンルへの理解が足りない僕としては、即座に聞こえる質感こそが感じれるすべてであって、本曲はいまだに僕には難しい曲です。7分の間たった一回も切れずに中心で持続するオルガンの音とその変化を、霊的世界への漸進的突入と読んでもいいのか。音の連続性の強調は、神の歴史の下で循環する時間である『カイロス』を意味するのか。教会音楽を表題として、これの代表的な楽器であるオルガンが主として曲を導きますが、サイケデリック、アンビエントなどのジャンルの効果を出すことで、音の質感と配置が作り出した広大な空間に投げられて、僕はただ考えるだけです。その静かで凄絶な、風に飛び散って消えるそのつぶやきが、果たして霊的世界に至っては意味を付与されることができるのでしょうか?


7. 신승은(Shin Seung Eun), 〈잘못된 걸 잘못됐다(Wrong Is Wrong)〉

話者は、「悪いことを悪いと、君が言ってきたとき」、泣いてしまった理由を列挙します。曲の半分以上を満たす、数多くのバックラッシュとガスライティングを描写した歌詞が一つずつ積まれるとき、僕らはその前に置かれた権力の網を目の当たりにして、そこに引っ掛かって、つぶれてしまいます。既成の権力は『常識』といった暗黙的な社会のステレオタイプを作って、システム内で弱者の声を、同じ常識を共有できない『外部者』と位置付けます。「世界で一番いいカメラに撮られた」、いわゆる『事実』というものはまた何ですか。脈絡のない断片的な諜報が社会的題材を基準に政治的に解釈され、結局『多数』に共有された『事実』がまた『常識』となって、違う意見を持った『少数』は繰り返し排除されて、システムはまた堅固になっていく。この解釈が社会学的に合ってるかどうかはわかりません。でもしかしそれが、2019年の韓国で怒っている様々な葛藤の中で広まる感覚であり、徐々に高まるパーカッションの上で低めに泣き叫ぶ声は、その感覚を痛く触れます。ある人には鬱憤と勇気が熱く湧いてくる、ある人には冷たすぎる、そして多くの人にはとんでもない、そういう話。


6. XXX, 〈Bougie〉

前作《LANGUAGE》でのインダストリアルな機械音の饗宴を覚えているなら、ピアノの和音で始まる導入部は当惑されると思います。前作の〈간주곡(間奏曲)〉の導入部の弦楽器オーケストラが、後にぶち壊すための彼さだったとすると、今度の和音はテーマを作るための触発剤である同時に、ブリッジで再登場して調和を成す、スタンスの変化を感じられます。寂しく鳴るピアノのコードと、何かをぶち壊す威勢の強烈なドラムとドロップ、鋭いシンスなどが調和してテーマを形成します。6拍子のビートを緻密に行き渡りながらハイライトを完璧に支えるラップもまた、前作ではるかに怒っていたスタンスから変化を迎えます。「俺の上には誰もいないけど どいつの機嫌を取ればいいんだ?」と、数値・序列化される資本のシステムと関係なく、自身の基準で自分が優位に立っていると宣言する瞬間、迎えるベースドロップの快感は、すごすぎて感嘆しか出ません。おそらく『自己満足』とけなされるだろう態度ですが、Kim Ximyaはそれを認めつつも、その格好良さをあきらめない両価的な感情を同時に持っていきます。社会を生き抜くにおいて、いったい誰が勝利者なのか。彼の宣言はラップシーンを超えて、物質主義社会に押される僕らにも有効で代案的な発言だと思われます。


5. 이달의 소녀(LOONA), 〈Butterfly〉

済んだ水気を含んだようなピアノとコーラス、それとは逆にまるで助走をしているような強いドラムでできたヴァースの部分は、そのミニマルな構成とは違い、スケープの満ちた感じがします。その後、それらの楽器までぬけて、もっと軽い感触のプリ・フック区間では、悠々と飛行するよう線形で動くメロディーのボーカルと絡み合って、圧倒的な浮遊感を形成します。サビに至っては、フックを大胆に捨て、その場にドロップを強調して、コーラスをピッチ・アップする実験を通じて、その初めの一分だけで蝶一羽が梅雨をはたいて力強く跳躍するイメージを形象化します。

跳躍と移動への強い想いを込んだ本曲の、男性の視線を排除して女性普遍を撮ったミュージックビデオは大きな話題になりました。これによって本曲は自然に『女性の連帯』に関する曲と読まれ、これが提供したK-Popの新たな視線は、TWICEの〈Feel Special〉のような応援と連帯の伝染に、そしてTV番組《Queendom》で見せた、女性K-Popアーティストたちの和合の瞬間にまでつながる、歴史的な『バタフライ効果』まで生成しました。

本曲の論議にあたり、おろそかに『主体性』談論に導くのは控えめにした方がいいとの意見も多かったです。しかし、蝶が蛹から孵化するためには自らそのかべを壊さなければいけないように、曲の中で話者が依存する相手の、「わたしを遠くに連れ出すwings」は、結局自身の主体的な意思を通じて得るべきものであります(※その証拠に、MVに出てくる、LOONAのメンバーを除いた登場人物はみな「一人の女性」として焦点を当てられます)。男性の表象を除去した、翼をくれる「きみ」のところには、跳躍を夢見る「わたし」自身を投影できるはずです。ただ単に上から翼をもらうのではなく、いる場所は違っても、各自立っているその地で、自ら飛び立つ勇気を与える、主体の回復のための連帯の物語。


4. 김오키(Kim Oki), 〈나는 한국인이 아니다(I'm Not Korean)〉

「私は韓国人ではない」。その印象強い表題は、見るだけでいろんな考えを浮かばせます。話者が実際には韓国人であるなら、それでもなお韓国人であることを拒否する理由は何でしょう。

Kim Oki特有の分厚い音色のサックスが不安に敷かれると、何秒も経たないうちに緊張を倍にするピアノが鳴って、同時にソン・ギョンドン詩人の同名の詩が朗誦されます。怒りを抑えたまま、悲壮に語られる、韓国系企業の海外工場で起こっている、労働者たちの闘争と殉教の歴史。湧き出す感情は「わたしはいったい誰なのか」と、自我の正体性を再確認する瞬間に爆発します。搾取と犠牲で建設された国家の一員である話者は、自分が属した国家の正体性を否定し、自分自身をその犠牲者の名前と同一視します。

国政の否定が弱者の連帯に実質つながるのか。また、犠牲者の集団において他者である立場で、彼らと同一視するのは、もしかすると欺瞞ではないのか。いろんない意味で問題的なテキストです。しかしそれは、植民支配を受けた苦痛の歴史を内面化している韓国人全般の意識のフレームを反転させる効果を持ちます。僕らはすでにそのパトスの方向を感じられます。僕自身も彼らの犠牲を忘れてはいないのか。いや、知ってもいなかったのではないのか、と。僕らも、いまだに世界を支配している帝国の幽霊たちと変わらないと。話者の宣言は、その悲劇的な歴史の繰り返しを断つためのもがきのように聞こえます。


3. Lim Kim, 〈민족요(MINJOKYO) (ENTRANCE)〉

Lim Kimの強いアクセントが唱と機能して、ポップと民謡調を絶妙に行き渡ります。Lim Kimとパンソリ楽団のコーラスのキャッチボールが民衆農楽の形式をとります。これまでポップで見えてきた、単純イメージとしてのオリエンタリズムを超え、曲の空間を一つずつ東洋の伝統的な音に満たしていくとき、そこで高潮される雰囲気はまるで恨を吐くように感じられます。強いリズムと宣言的な唱のエネルギーが空虚な空間で共鳴し、やがて厚くて濃い絵の具を掌で画用紙にこするように、華麗で混乱な植栽が爆発するドロップは、「Yellow」が「Queen」になれる(※Lim Kim, 〈YELLOW〉)、そんな世界へ向かう入り口としての祈りのようです。

その新時代の宣言がアイロニカルに民族の根元に戻るところから始まるという点にある種の意義を感じられ、またブラックミュージックの痕跡をリズムパートにおいて、ほかの構成楽器を伝統音楽のそれに満たして、ポップと伝統音楽の比率を後者の方に向けたところ、唱とコーラスなどの和合のテーマと、Deconstructed Clubジャンル特有の解体が同時に発生するところなどが印象深いです。本曲はLim Kimの変身を完璧に裏付けし、その返信の必然性と意義に対する答えは、またここへ回帰するでしょう。


2. 잠비나이(JAMBINAI), 〈온다(ONDA)〉

自然への回帰を通して心身の傷、その先のシステムの弊害を治癒できるでしょうか?そんな主題意識の下で表現される、前述したクロスオーバー・ポストロックバンド、ジャンビナイが描く大自然の光景は圧倒的です。例えば、ドラムとコムンゴのリズムが力動的に走っていく中、キム・ボミのボーカルは逆説的に「わが懐に帰りなさい」と勧誘し、イ・イルの低い声が加わると、まるで親の慈悲と権威、その両面性のように感じられます。メロディーが神々しく浮遊し「生命を身ごもった暁の光が」と歌うよう、自然と人間の相互作用は力動と回帰が共存する生命の超越的なエネルギーとして表現されます。

以後、何度かの分岐点を渡るたびに、その圧倒的なエネルギーに驚嘆します。自然の権威を代弁した二人の声が退場し、彼らが楽器をもって演奏するピリとへグム中心の間奏、そこで積み上げた緊張感をギターノイズと共に弾け、ヴァースを繰り返すことで勇壮さを増します。そして、合唱のところに至っては、ただただその大和合の光景に圧倒され、巨大なエネルギーに傍点を打つように最後に叫ぶスクリームまで、本曲は7分間その崇高な、神秘な、圧倒的な瞬間を演出します。

大自然の絶対性を演奏するバンドサウンドと、その位置で声をかける歌詞のテキスト。曲の圧倒的なエネルギーに共感するならば、一番最初に投げた疑問へ戻ってみましょう。自然は果たして絶対的で、我らの傷を根本的に癒せるのか?これに対する疑問は宗教的な論争になるかもしれません。しかし、とにかく僕らが大自然を目撃するとき、自分の環世界の小ささを知り、現実の感覚が離隔される経験をして、結局、自然のこだまが最後に残した「オンダ(来る)」という言葉は、僕らの本能的な導かれに関する予言なのかもしれません。





1. Jclef, 〈mama, see〉

テープが回ります。テープはメッセージを伝える手段ですが、厳密に言うと『会話』の手段ではありません。この曲は、母と娘のお互い異なる経験と思考、感情の溝などによってリアルタイムの疎通が難しい状態で、話者の「大きくなっていく世界」の前提の理解を求めて、勇気をもって母に渡す手紙なのかもしれません。「母さんが上映した悪夢」への返答。

ミディアムテンポで打たれるキックとベース、ローファイなトップラインがミニマルな骨子を成して、拍子のずらしたコーラスとスクラッチなどが空白を満たしていき、淡白で堅固なヒップホッププロダクションを作り出します。ボーカルパフォーマンスには誇示的な高音やフローもないですが、メロディーを自由にわたって、コーラスとダブリングを微妙にずらしたり合わせたりして、独特なグルーブを乗ります。代表的に、「mama, see my world is getting bigger [...] but somewhat weird」のラインは中毒的なグルーブと共に、語句を繰り返すことで、「大きくなる世界」を聴覚的に描写し、下降するメロディーを通してその世界の陰鬱さを漸進的に表します。また、サビ最後のコーラスの位置で「be killed, stalked, abused」と、破裂発音とともに三回の傍点が打たれるとき、明るいメロディーとぶつかって衝撃を倍加します。

衝撃。今まで韓国で男性として生きてきた僕にとって、本曲で歌われるような感覚は衝撃的で、しかし、話者が娘の立場で語る言葉は、この「weird」な世界の現実です。このラインはヒップホップジャンルの文法にはるかに近いです。80年代後半、ギャングスター・ラップグループ、N.W.A.が米全域に衝撃をもたらして、公権力まで彼らに立ちふさがるにも関わらず、「これが黒人の現実だ」と叫んだように。(※厳密に見ると本曲はN.W.A.というより、黒人自らの自省を呼び起こしたKendrick LamarやVince Staples、女性のコンシャスな発話の側面においてのNoname、Rapsodyの文法に近いでしょう。)

江南駅女性殺人事件、最近ではテレグラムN番部屋性搾取事件など、見えるところから見えざるところまで至る、女性に対しての蔑視・差別・犯罪はまだ続いています。2010年代後半部から可視化されたフェミニズム・リブートの流れは、むしろ若い男性群を中心とした、もっと激しいバックラッシュを作り、それに対抗したラディカル路線はまた別の少数者の差別につながるなど、嫌悪に満ちていく世界。だからこそ話者が渡すテープは、母にだけでなく、互いの前提された脈絡を理解できず、尊重しようともしない者にまで、話者の世界をもっと長く保存し、広めるために選んだ記録媒体なのです。

アウトロにて、テープが伸びるように、波が海岸に砕かれるような瞬間に至っては、寂しくて美しい黄昏を向かい、物語は余韻を残して終わります。解消されたのは何もありません。それに、母との世代の間隙は離れていき、「母さんのいい世の相続はいつも失敗」するだろうと予言します。それにもかかわらず、注目したいところは、その母の試みを尊重する部分です。母が前の世代で成した闘争の歴史を尊重し、それとは違う世界で、でも違わないだろう世界の波に向かっていく娘のために、話者は「ただわたしのそばに立って」と要請します。互いに異なる個々の社会と経験が作る世界の差異をただ理解し、尊重することを望みながら、そのなかで『彼女たちの歴史』の主体的な継承の意志を現す、胸の痛む母への手紙であり、宣言であります。



YouTubeプレイリスト(リンク)


Apple Musicプレイリスト(※一部サービス不可)


Spotifyプレイリスト(※一部サービス不可)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?