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友の会会員が選ぶ「今年の3冊」DAY.8

かご選:若手著者による人文書3冊

歳を取ったということもあり、話題の本や著名な作家の作品を読むより、次世代の著者を発掘したいという思いに至り、ここ数年は、小説は芥川賞の候補作を読んだり、人文分野の気鋭の著者・訳者のトークイベントに足を運ぶということをしている。
その中から今年の3冊を挙げると、偶然にも著者(及び訳者)が、揃って昭和の終わり頃の1988年生まれだった。

『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』(木澤 佐登志、星海社新書)

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現代思想の最前線の解説書。新反動主義、暗黒啓蒙、加速主義といった反リベラルな思想を三人の主要人物にフォーカスを当てて読み解いていく。
第1章に登場する、PayPal創業者にして、トランプ支持者のリバタリアン、ピーター・ティールが、ルネ・ジラールの理論を受け継ぎ、やがて自由と民主主義の両立不可能性を説くようになる過程を興味深く読んだ。
死亡広告のように、全頁が黒い枠で囲まれている不気味な装丁に比して、著者の対象との距離の取り方があくまで冷静なところが良い。


『楽園をめぐる闘い』(ナオミ・クライン 著、星野 真志 訳、堀之内出版)

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『ショック・ドクトリン』の著者によるドキュメンタリー。ハリケーン・マリアによりインフラが壊滅した米自治領プエルトリコ。新自由主義的な改革が急速に進行し、島外の新興富裕層に土地を狙われ、インフラ・福祉が民間企業に買い叩かれようとする中、自治を求め立ち向かう運動を描く。後書きの沖縄との類似の指摘は示唆的。
翻訳者の登壇する、気候変動と資本主義社会を考えるトークイベントに参加。その時は遠い世界の話に思えたが、半年後、大型台風が日本列島を次々に襲う。気候変動も、グレタ・トゥーンベリの登場により、一躍ホットワードとなった。


『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(綿野 恵太 著、平凡社)

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タイトルから、差別を正当化する論調を見て取るのは早計である。反差別の言説を、アイデンティティ(民主主義)と、シティズンシップ(自由主義)の2つの軸で子細に検討し、誰でも差別を批判できるポリティカル・コレクトネスの時代に浮上した問題を指摘する。第7章の天皇制の道徳について、を面白く読んだ。

(後記)12/26、「紀伊國屋じんぶん大賞 2020」で、今年刊行された人文書のベスト30が発表された。『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』が23位、『「差別はいけない」とみんないうけれど。』が3位にランクイン。本が出る前からSNSでチェックしていた著者たちが、あらためて評価を受けると、うれしくなる。

【記事を書いた人】かご

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