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日仏にまつわるエトセトラ~言語の習得、日本のマンガ・アニメ、フランスの右翼、日本の教育について~【特別対談】じゃんぽ〜る西+カリン西村 × 鹿島茂、『フランス語っぽい日々』を読む~

書評アーカイブサイト・ALL REVIEWSのファンクラブ「ALL REVIEWS 友の会」の2020年11月のノンフィクション回。ゲストは漫画家のじゃんぽ~る西さんとジャーナリストのカリン西村さんのご夫妻。メインパーソナリティーは鹿島茂さん。読み解く本は、ご夫妻初の共著『フランス語っぽい日々』(白水社)。10月に出たばかりの新刊書を早速読み解きます。日仏カップルの子育て日記としても読める本書。フランスの様々な側面に通じている鹿島さんと話がはずみます。
※対談は2020年11月20日に行われました。

バイリンになるのは大変?!~なお君の言語習得過程~

長年フランス語教師として大学で教鞭をとられた鹿島さん。まず興味をもったのは、長男なお君のフランス語の習得過程。なお君は日本生まれの日本育ちで、周りにフランス人はいません。フランス語を話すのはお母さんだけ。このため、なお君は一人称の私(Je)がなかなか覚えられません。お母さんはあなた(Tu)と呼びかけるため、なお君も自分のことをTuという。もし周りにフランス語を話す人が複数いれば、「私」はJeということが早く理解できるかもしれないけど、お母さんしかフランス語を話さない場合、「私」の概念がなかなかわからないのではと、元フランス語教師の鹿島先生。なおくんのフランス語の習得過程に興味津々です。

お父さんのじゃんぽ~るさんはバイリン環境で過ごす息子さんを「大変」とマンガの中で思いやっています。今回の対談の中でも「完璧なバイリンガル」になることの難しさを感じていると率直に述べられていました。

先月はマルチリンガルの環境で育ち、複数の言語+コンピューター言語を身に着けたドミニク・チェンさんをお招きしお話を伺いましたが、チェンさんがマルチリンガルになったのはご本人の素質と努力があってのことかも、と改めて思いました。

毎日、日本のアニメを長時間放送していた20世紀末のフランス

じゃんぽ~るさんがマンガ家ということもあり、話はフランスでの日本のアニメやマンガの話になります。

カリンさんは、80年代から90年代にかけて、フランスでは日本のアニメが大量に長時間放送されていたこと、フランス人からみると暴力的と思えるようなものも放送されていたことから、当時のフランス人の保護者は日本のアニメに対して好意を持っていなかったという話をします。

当時、フランスに住んだことがある鹿島さんはフランスで『ど根性ガエル』を見た経験を語ります。いうまでもなく『ど根性ガエル』は日本の下町人情噺。フランスで「Sushi」がまだ普及していなかった時代、おかもちを持って「すしを食うなら宝寿司、にぎる男は梅三郎~♪」と浪花節調でうなる梅さんをフランス人はどのように見ていたのでしょうか。

筆者はフランスでの日本のコンテンツの普及を趣味で研究しているので、少し補足します。この時期、ドロテという女性パーソナリティが司会をする『クラブ・ドロテ』という子ども向けバラエティ番組で日本のアニメが多く紹介されていました。放送時間は平日で夕方2時間くらい、公立学校が休みの水曜日と土曜日と学校の休暇期間は1日5~8時間と長い時間放送されていたのです。
この長い放送時間を埋めるため、日本の生活に根差したアニメも、一部改変されて放送されていました。例えば『めぞん一刻』は『ジュリエット・ジュ・テーム』、『キャプテン翼』は『オリーブとトム』というタイトルで放送されていました。響子さんはジュリエット、翼はオリーブ。舞台が日本であることを、フランスの子どもたちに意識させないまま、アニメは放送されていて、それでも人気があったのでした。当時、日本アニメがどのように放送されていたかについては、トリスタン・ブルネ『水曜日のアニメが待ち遠しい』に詳しく描かれています。

じゃんぽ~るさんは独身時代にフランスに滞在し、フランスの図書館で日本のマンガについて講演したことがあるそうです。その時受けた質問が「日本のマンガは子どもたちを夢中にさせ過ぎる」こと。当時のじゃんぽ~るさんは質問の意図がつかめず、「マンガを読み過ぎると、自分のように漫画家になれますね」と答えていた。しかし、今父親になって、この質問の意味がわかったといいます。なお君は、フランスのおもちゃなどで育ち、少し大きくなってから、ポケモンに触れました。その時のなお君の「食いつき」が凄かった!わが子の熱狂ぶりをみて、改めて、フランスの保護者が感じる日本のコンテンツの「怖さ」がわかったといいます。

また、筆者から補足します。フランスでは公共図書館は人気のあるコンテンツを収蔵し公開する義務を負っています。当然、日本のマンガも対象となります。このため、フランスの公共図書館は日本のマンガが人気となった00年代初頭から、日本のマンガをどのように分類し公開するか悩み続けています。この点、コミックの単行本が雑誌として扱われ、公共の図書館にあまり収蔵されていない日本とは状況が異なります。フランスでは親が禁止しても、子どもは公共図書館でマンガに触れることができます。
だからこそ、じゃんぽ~るさんを招いて勉強したかったのだと思います。

一方、日本では、フランスのバンド・デシネはまだあまり公共図書館に収蔵されていません。日本語訳されたバンド・デシネは2000円以上します。じゃんぽ~るさんは、フランスのバンド・デシネを日本の図書館に収蔵してほしいという願いを著書で述べています。

なお、ポケモンに食いついたなお君。男の子が大好きな特撮ものは苦手で、『鬼滅の刃』もまだ見ていないそう。でも、お友達と遊ぶ中で、キャラや技の名前はアニメを見ないでも覚えているそうです。そんな、なお君にお母さんも満足そう。偉いぞ、なお君。

入学式や卒業式に感動するカリンさん

カリンさんは日本の子育て環境にも良い面がたくさんあるといいます。例えばパリのメトロには殆どエレベーターやエスカレーターがなく、ベビーカーは一苦労。バリアフリーはパリより東京の方が進んでします。

また、日本の入学式や卒業式にも好印象を抱いています。フランスには入学式も卒業式もありません。メリハリのない学校生活なのです。カリンさんが日本の卒園式や学芸会に感動する様はじゃんぽ~るさんのマンガによく描かれています。

カリンさんはPTA活動にも理解を示しています。日本のPTAは共稼ぎを前提とした体制となることは必要といいながらも、その活動は必要とのこと。著書によるとじゃんぽ~るさんは保育園のPTA会長をつとめられていたようですね。

ここで鹿島さんから蘊蓄。フランスの学校でも、かつては、卒業式のようなものがあり、成績優秀者に本を配る習慣があったそうです。ジュール・ヴェルヌの作品は、学校の成績優秀者に配られたことから普及しました。カリンさんによると本を配る習慣はごく最近まで続いていたそうです。

フランスの右翼は言葉がうまい

カリンさんはジャーナリスト。そこで、流れはフランスの最新の政治状況に。本の中では、フランスの左翼、ジャン=リュック・メランションの服装のセンスに触れています。メランションはフランスで一番左の政党「不服従のフランス」の代表。

鹿島さんは、フランスの極右政党「国民連合」を現在の党首マリーヌの父親ジャン=マリー・ルペンの頃から見ています。この父娘に共通するのはスピーチのうまさ。政治信条では共感できなくとも、言葉のうまさには感心してしまうとのこと。

フランスでは共産党が事実上消滅し、支持者はメランション率いる極左政党とルペン率いる極右政党に分かれていきました。

鹿島さんが最近書評をした『ランスへの帰郷』は、労働者階級の著者の家族が、かつては共産党を支持していたが現在は「国民連合」を支持する現状が書かれています。

子育てからフランス政治まで、幅広い話題の提供ありがとうございました。

じゃんぽ~る西さんのマンガはウェブでも読めます。この機会にぜひご一読を。

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【記事を書いた人:くるくる】

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